長良川河口堰の建設目的の一つは、浚渫して洪水時にたくさんの水を下流に流すことだ。そのために、潮を止めていたマウンドという浅い部分を取り除くことが必要とされた。しかし、その除去されたはずのマウンドがよみがえりつつある。

 

 

「あんたの魚探で測れんやろか」

 長良川の川漁師大橋亮一さんからの電話だった。大橋さんは愛知県長良川河口堰最適運用検討委員会の委員をしている。委員の今本博健先生が長良川の水深を測りたいので協力して欲しいという。今本先生は元京都大学防災研究所所長、河川工学の泰斗だ。国土交通省などの各種委員を歴任され、淀川水系流域委員会の委員長のときには「ダムによらない治水」という提言をとりまとめられている。

私は魚探(魚群探知機)を使って大橋さんの漁場の河床地形図を作ろうとしていた。最新の魚探は水深・位置を記録。そのデータからパソコン上で河床地形図を作る機能を持っている。その図から私は、どこに網を入れたら魚がとれるかという「川漁師の秘伝」を解き明かそうと考えていた。

今本先生が水深を測りたいというのは、長良川河口堰が建設される前に、海水が上流に遡上するのを止めていたという「マウンド」という浅い場所。その場所の水深が現在はどうなっているのか。

もちろん、国土交通省は定期的に水深測量を行っている。しかし、委員会として自前の観測データを持つ必要があるのだという。

河口5.4キロから38キロ上流まで、私の船外機付ゴムボートは鈍足で、大橋さんの舟と分担して七日余りを要して測定を終えた。

さて、問題の「マウンド」部分はというと、水深1mというような浅場は無かった。しかし、河口堰完成後、浚渫して深く掘ったはずの河床には、以前の河道だろうか浅い部分ができていた。そして、漕艇場(長良川国際レガッタコース)の部分はレース規格の水深四mまで掘られたような形跡があった。公式コースの条件を満たさないまでに、土が積み上がって、浚渫をしないと浅くなってボートレースに支障が生じるのかもしれない。

今本先生は二〇一四年、土木学会で観測結果を発表され、長良川は「昔の姿」に戻りつつあると分析されている。

(魚類生態写真家)