金の器と銀の匙

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「金の器と銀の匙」

金の器に銀の匙、泣き疲れた砂を掬って、
其の記憶を波に預けた、
過ぎた季節を刻んだ足跡、乾いた風にさらわれて、
気づかぬ誰かはその上を、鼻歌交じりに踵に擦る、
煤に色づく煙突は、昨日も其処に立っていた、
濁った雲を吐き出して、すぐ近くには造船所、
郵便ポストに消息不明のイヌの張り紙、

砂漠を横切るラクダとヒトは隣り合わせに光と影を分かち合う、
数年前まで水の流るる放牧地、今では境界線の上、
耳をつくのは乾いた銃声、歓声ではなく叫び声、
いまや空論、金の器に銀の匙、
遊び疲れて眠った子供でさえも夢に見ない、
いまや空洞、金の器に銀の匙、
黄昏れ刻に其れを描くも儚く消ゆる、

人は旅を忘れる最中、ゆく鳥々に羨望さえ抱かぬ今、
留まる以外に術がない、絹の経路も幾つに数えた海もない、
金も銀も器にもなく匙にもならず、下がらぬ価値として欲す、
千金手にした前世紀の猛者は天にて、
やがては其の飛沫が泡と共、
降り注げば渇きの地を潤す皮肉、
天にはいまも金と銀、

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