昨日行ってきました
前売り全席2000円
プログラム(☆印はソプラノ歌唱)
☆ドナウディ ああ、愛する人の
☆モーツァルト『イドメネオ』より いとしい人よ
ショパン 即興曲第1番 変イ長調 作品29
ノクターン 第13番 ハ短調 作品48-1
☆ヴィヴァルディ『バジャゼ』より 花嫁として侮辱され
☆ヘンデル 『サムソン』より イスラエルの女のアリア
シューマン 蝶々 作品2
☆モーツァルト『ドン・ジョバンニ』より 酷ですって?~私に語らないで
休憩
☆ベッリーニ 『カプレーティとモンテッキ』より 今、私は婚礼の衣装を着せられ~ああ、幾度か
ラヴェル 『鏡』より 悲しい鳥たち
ラヴェル 『鏡』より 道化師の朝の歌
☆ロッシーニ 『セミラーミデ』より 麗しい光が
ショパン 舟歌 嬰ヘ長調 作品60
☆プッチーニ 『蝶々夫人』より ある晴れた日に
このDuoを聴くのは二回目で、期待通りの内容!
もう、今後死ぬまで毎回通う事にしました。
塩谷裕子さんの声というのは独特の響きがあって、歌詞をメロディに載せているのではなく
声自体が音楽のような声をしていらっしゃる。歌詞なんか分からなくてもOK、その響きだけで魅了される声なのです。
前にも書いたけれど、人間性の深みが伝わってくる。「音大を出ました」とか「二期会研修所出ました」とか、そういう音楽教育以外の、人間の「経験」というものの裏付けが感じられる歌唱なのです。
※「声楽家」を名乗る人とはまったく異なる歌唱をする人です。
【職業は歯医者さんらしいです】
ソプラノ好きの方は是非、一度聴きに行かれる事をお薦めします。
全部の感想を書くのは長文になるので抜粋にさせて戴きます。
(1)ショパン 即興曲第1番 変イ長調 作品29
ショパンは男の弾く音楽だ、と言うのが私の持論ですが高橋光太郎さんはそれです。
男の弾くショパンというものを体現している。この曲の高橋さんの演奏は優美で情熱的で流麗で
グランドピアノの開口部(蓋の持ち上がった部分)から清流がどんどん流れ出て
舞台から降りてきてホールの床を後方部まで滔々と流れて行くという映像が見えるような
気がしました。
また、このホールのスタンウェイの調子が良いのかピアニストと相性が良いのか、
声楽的な表現や音の響きがえらく美しくて、これぞショパン! これがショパン!と何度も心の中で言いました。
ピアノの勉強をしている人は是非、一度聴きに行かれる事をお薦めします。
「ショパンは男が弾くもの」信念を固くしました。
(2)シューマン 蝶々 作品2
同上です。シューマンも男の弾く音楽だと思います。クララ・シューマンがどんな演奏を
したのか聴いてみたいものですがそれは叶わぬことです。
(3)ラヴェル『鏡』より 道化師の朝の歌
「のだめカンタービレ」をDVDで観た事があるのですが、のだめがパリでオクレール先生
から初めて個人レッスンを受けて、こう言われるシーンがありました。
「全然だめだねぇ」
「君より技術の高い子はいくらでもいる」
「君はパリに何をしに来たの?」
「君はどんな音楽をしたいの?」
「自分の音楽をしなさい」
コテンパンです。
日本の音大生というのはピアノに限らず「譜面の忠実な再生」ばかりを考えている。
「自分の音楽」というものを考えていない、と私は常々思います。それは
教える側がそういう視点を持っていないからという所為もあるでしょう。
のだめは今まで「言われた通りの事を一生懸命やってきた」のがここで初めて否定されて
落ち込む訳です。で、そのあと南フランスの貴族の演奏会に呼ばれて、今までの自分の殻を
破って弾くのがラヴェル『鏡』より 道化師の朝の歌 だった。
客席で聴いていた指揮者の千秋先輩はコンサートの後にのだめにこう言います。
「おまえ、冒頭をffで始めた時は心臓が止まりそうになったぞ!」
楽譜はmf指定なのに、のだめは「自分の音楽」をしたかった。
これは、話しが長くなりますがショパンコンクールでショパンが弱音指定した部分を強打して弾いて
審査員の評価が割れて、審査員だったアルヘリッチ【女性で初めてショパンコンクールで優勝した】が
「この子は天才だ。この子を評価しないなら審査員を降りる」とかなんとか言って帰国してしまった
というエピソードを元に作者が「音楽は自分の思う通りに弾いて良いんだ」という主張を描きたかった
のだと思うのですが、さて高橋さんがどう弾き始めるか、やや興奮して待ちました。
メゾフォルテで弾きました。(譜面通りです)
やはり、と思った。
ただ単純に出だしをフォルテッシモで弾いても意味ないもん。聴き進むと大きなデュナーミクで
自在に音楽の彩りを与えている。これが「自分の解釈の表現」というものなのだと納得したわけです。
のだめのあのシーンはそれを「冒頭の音の強弱」に単純化してみせただけなのだと。
同時に結局「音楽の解釈」というのは譜面の忠実な再生の事ではなく
弾き込んで行くと「結局のところ譜面が再生される事になる」というものではないのかな、と
そういう事を考えた演奏でした。良かったです。勉強になりました。
ピアノの勉強をしている人は是非、一度聴きに行かれる事をお薦めします。
(4)ショパン 舟歌 嬰ヘ長調 作品60
本日の白眉だったと思います。(私的に)
舟歌って、ポピュラーなだけに色んな人が弾くのを聴きますが
これぞ「男の弾くショパン音楽の代表曲」のように日頃から思います。
ラフマニノフのピアノ協奏曲第二番をあんなに硬質に男性以上に固く弾いたエレーヌ・グリモーも
舟歌を弾くと別人のように女性的な弾き方をしてしまう。それはそれで素晴らしい演奏なのですが
私的には納得しきれません。有名な録音ではアルヘリッチが1960年のデビュー、19歳のときに
したものがありますが、素晴らしい演奏ですが最後の風のように弾いたあとにした強音の
打鍵はまさに「男性的なエンディング」を志したからだとおもうのですが、あれこそ
「男性になれない事」の、何というか「壁」を鍵盤に叩き付けた、かのように聞こえるのです。
偏見や女性蔑視のつもりはありません。そこで高橋さんの舟歌、それは私の求める理想的な演奏でした。
「そう!これがショパンの舟歌!」だった。
ピアノの勉強をしている人は是非、一度聴きに行かれる事をお薦めします。
(5)リスト 愛の夢(アンコール)
愛の夢というのは私的には「女性の友達が披露宴で弾く定番」で(笑)
暗譜できない人の為に本番で譜めくりもした事があるくらいよく聴いた曲ですが
好きな曲ではありません。とくに女性が弾くときに(偏見はありませんが)
あの上体を大袈裟に動かしてうねるような腕使いで弾くワザとらしさがキライなのです。
そうしたら流石に高橋さん、曲にまったく阿(おも)ねっていない演奏をしました。
※ ネトレプコが「歌に情感は込めない」と言っていましたがこの曲は無用に情感を込めて弾く人が
多い為に今まで不当に通俗的に聞こえていたんだ、という事に気がついた演奏でした。
弾き終わった最後に両腕の「どうだ~!」のポーズがあったのにフライング拍手に襲われて
決めポーズがすぐに終わってしまったのが至極残念でした。あそこは「押さえ込み一本!」
のコールを待って欲しかった→聴衆のみなさん。
もう、言うことなし!のコンサートでした。2000円、シアワセ過ぎます!有り難うございました。
★番外
おばさんというのはどうしてああ「おしゃべり」がウルサイんでしょうね。。。
おばさんの二人連れは並んで座ってはいけない、というルールを作って欲しいものだと思いました。
(おばさんは好きです)
■ 次回公演
2013年11月21日(木) 18:30 開演 神奈川県民ホール 小ホール
お問合せ ヴィーヴル・ワイ 042-576-6545
会場でお会いしましょう→ピアノや声楽の勉強をしている人