東京芸術劇場って、建物に入ってから客席に着くまでが大変です。
延々とエスカレーターで登って、チケットを出してからまたエスカレーターで登って最後は階段を上がらないと席につけません。火事で退避するときは大変な作りになっている。あまり通いたくない劇場です。
客席がまた面白いデザインで、となりのブロックの客の顔がまったく見えない。
お忍びでデートなどには良いかも知れません。
カルメンというオペラは、ストーリーは万人向けとはとても言えない殺人事件の物語ですが、出てくる音楽は「この曲は聴いた事がある」という曲がどんな人でも10曲は出てくる名曲のオンパレードで、全部を見ると三時間かかりますが初心者でも飽きない名作です。という事でオペラを観た事が無いというガールフレンドを誘って行きました。

感想ですが、プログラム・ノートの内容がまず素晴らしい。
カルメンの時代背景というのがよく書かれていて、カルメンがヴェリズモ・オペラの走りかと思っていたのが誤解だと分かりました。カヴァレリア・ルスティカーナだって文学者に言わせればまったくヴェリズモではない、と大隅智佳子さんが言っていたのを思い出しました。つまりどっちもヴェリズモなんかではない、という事です。このプログラム・ノートは一読をオススメします。ここで全文を読めます。
しかし、
「なぜ舞台をフィリピンにしたのか」という解説は納得の行く内容ですが、
実際舞台を見てみると「これがフィリピンを舞台にしている」という印象がなく、
今まで観た「日本人による歌劇カルメン」と何も違いが分かりませんでした。
プログラム・ノート負けしています。
舞台中央に字幕の塔を立てたのは非常に見やすくて良かった。
しかし字幕が違和感あり。
「見張りの兵隊 まじでウザイぜ」は雰囲気ぶちこわしてます。
ドン・ホセの役柄って、今までの印象だとカルメンとは釣り合わない器の小さい人物で、カルメンが逃げる為に利用しただけ、のように思っていましたが、今回のドン・ホセ【ロザリオ・ラ・スピナ】はパヴァロッティ並みの巨漢で、連れの女性は「カルメンは強い人を求めているんだ」という解釈を第二幕の後で言っていましたがそれを納得させる体躯をしていてホセ像を改めました。実際、カルメンはその後闘牛士のエスカミーリョに乗り換えますから、「強い男を求めているんだ」という連れの女性の解釈はまさに正鵠を穿っているなぁと感心しました。
しかし、
お目当ての鷲尾麻衣さん(フラスキータ役)は演出の所為でまったく目立つ場面が無く、それはメルセデス役の鳥木弥生さんも同じで、あまり重要な役回りを与えられていなくてがっかりしました。
それを思うと市民オペラ2012年6月10日(日)カルメン@綾瀬市文化会館大ホールのメルセデスとフラスキータは個性を十分出していて遥かに良かったんだなぁ、と思いました。
また、ミカエラのアリアもこの作品の聴き所ですが、小川里美さんの歌って、今月オペラ「KAMIKAZE-神風-」でも聴きましたが絶叫的なんですね。テクニックはあるのでしょうけれど心に響いて来ない。そこへいくとやはりカルメン@綾瀬市文化会館大ホールのミカエラ(大隅智佳子さん)は日本人では別格に素晴らしい歌唱だったんだなぁ、と思いました。
カルメンが最後に殺される時に両腕を開いてナイフで刺されるのを受ける、という演出は良かった。そういう演出は初めて観ましたが、カルメンの強い意思を現していて涙を誘いました。
となりの彼女とも話しましたが、「女性は一度切れた男とは、絶対によりは戻らない」それを誰かがホセに早く教えてやれば良かったのに・・・・というのがこのオペラの教訓です。
チケット代はこちらがS席13,000円、市民オペラ@綾瀬市文化会館がS席5,000円でしたが、作品の出来は市民オペラの方が素晴らしかった。改めてあの日の事を思い出しました。