名古屋市役所の駐輪場から爆音が響いた。
巨馬のような影を追いかけるように、夕暮れの丸の内に向けて、その影の主であるアメリカンスタイルのバイクが飛び出してくる。
暮れていく最後の光が、遠く名古屋城の天守閣をかすめて射し、バイクのガソリンタンクに強く反射した。
ホンダ・マグナ・フィフティ。本田宗一郎以来の誇り高い血脈を受け継ぐ、メイド・イン・ジャパンの正統派モンスターバイクだ。そのフォルム、鈍く光るシルバーのボディは中世ヨーロッパの重厚な甲冑を思わせ、走るその脚はあくまで強靭で、妖艶なまでに白く輝く名古屋のアスファルトを力強く駆けていく。
「この乱世。遠からずこの国はこれまでにない乱れを見せるだろう。そして国が崩壊し、民が疲弊の極みにあるその向こう側に、私の求める新しい国の姿が浮かび上がるはずだ」
荒くれる馬をこともなげにあやつる西部のカウボーイのように、マグナを駆りながらその男は呟いた。
曹田は名古屋市役所において次代を担う期待のホープとして位置していた。実務における有能さは無論のこと、温厚篤実な振る舞い、といって硬すぎず、卑猥なジョークの一つも飛ばし錦三に馴染みの女の二三もいる、そんな男だった。いわば男として、ある種の傑物であるといっていい。
やがて曹田を乗せたマグナ・フィフティは大津通りを下り、上前津に差し掛かる手前でその脚を止めた。昼の間には、漸く春の匂いが漂うこの季節でも、夜に入ると身を締める寒さである。
曹田は、マグナを若宮大通沿いの大木につないだ。
「ネバー・シャドウよ、このあたりの草は喰わないようにしろよ。犬の糞が落ちていることがあるからな」曹田はバイクに言うや目の前の小料理屋に入って行った。