小料理屋はひどく活気に満ちていた。表の印象とは裏腹に店内は驚くほど広く、ちょうど上前津がすっぽりと納まる広さだ。

 奥がが霞むほどの店を簡素なテーブルが埋め尽くしている。またそのテーブルには同じように隙間なく客が付いており、あるいは酒を煽り、あるいはテーブルにうず高く盛られた料理に手を出すなどしている。

 曹田はしばらく、頭を左右に振りながら店内を眺めていたが、やがて入り口近くのテーブルを占領しているサラリーマンの方に足早に歩み寄った。

 「おう、曹田。お前また遅刻か。もったいぶりやがってよ」すでに席につき、ビールを煽っていた男が、出来上がった赤ら顔を曹田に捻じ曲げながら言った。

 「誰がもったぶったって?たわけ、俺は忙しいんだわ、おう姉ちゃん、『でらうま』ちょーでゃあ」曹田は、男の皮肉を気に留める風でもなく、大声で注文をしながら空いていた席に着いた。

 「しかし何なんだ曹田。いきなり呼び出してよ。俺らだって忙しいわ」先ほどの赤ら顔とは違う男が、野菜を炒めたものに箸を伸ばしながら言った。

 「夏木、まずは飲ましてちょうよ。お前ら今まで待っとったんだろう、まー少しくらい飲みながら待っとけ」曹田は奇妙に自信の籠ったような笑顔を席についている男達に向けた。

 「しかしお前、本当に口が悪いな。傲慢な性格も昔のまんまだわ。いいとこの生まれでしょう。南山町で生まれたんでしょう」

 「たわけ。俺のどこが名門なんだ。親父が杁中でオカマバーやっとって、どこが名門のおぼっちゃまなんだて」

 「なるほどな、高級住宅街で生まれて、何不自由なく暮らしとっても、心の抜きがたい闇を抱えている。曹田らしいねえ」先ほど野菜の炒め物を熱心につついていた夏木と呼ばれる男が、とりなし顔でつぶやいた。

 「お、ビール来たに」

 「よし、乾杯しよまい」言うや曹田は、ビールジョッキを喉を鳴らしながらうまそうに流し込んだ。