下層階級でも金持ちなら人は媚びる(中部84経、93経)
現代のインドもそうですが、古代インドのバラモン教では
激しくカースト制度があって、それに対してお釈迦さまは
「生まれでなく行いで決まる」と説いたことは有名です。
お釈迦さまの教えのなかで「四姓平等」はそんなに重要な位置を
占めているようには思えませんが、お経のところどころに出てきます。
当然ながら、当時は人権とか平等というイデオロギーはなくて、
「差別された階級がカワイソウ」という観点は出てきません。
むしろ、世界思想史上屈指の理屈っぽさを誇るお釈迦さまは、
カーストの根拠のなさ・不合理さをボコボコに論破しています。
「中部経典」にいくつかまとめて出てきたお経のメモです。
引用はすべて『原始仏典 中部経典Ⅲ』(春秋社)より。
◆第84経「摩偸羅経」マドゥラー経(階級の平等)◆
仏弟子のマハーカッチャーナが、
マドゥラー王のアヴァンティプッタと対話する。
マハーカッチャーナいわく
「クシャトリャでもヴァイシャでもシュードラでも、
その人が金持ちだったら、周りはお追従を言って、
気に入るようにふるまうでしょう?」(要約)
これは深い。人間をよくわかってらっしゃる。
黒人でも女性でも、小金を持って消費者として台頭してくると
社会が大事にしてくれ始めるわけで、
差別問題にはイデオロギーよりゼニ金のほうが効くかもしれない。
◆第93経 「阿摂想経」アッサラーヤナ経(階級の無差別)◆
「4つの階級は等しく清浄」というお釈迦さまを論破しようと、
バラモンは弱冠16歳のインテリ、アッサラーヤナ青年を抜擢します。
青年は、僕には無理!と断りますが、バラモンたちに説得され、
みんなでお釈迦さまのところに向かいます。
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アッサラーヤナ青年
「バラモンたちはこういっています。
『バラモンこそ最上の階級であり、他は劣った階級である。
バラモンだけが白い色であり、他の階級は黒い色である。(略)
バラモンだけが梵天の実子であり、梵天の口から生じ・・(略)』」
お釈迦さま
A「アッサラーヤよ、だが、バラモンたちの妻女でも、月経があり、妊娠もし、
出産もして、授乳もする。
そのバラモンたちは、他の者と同様に母胎から生まれていながら・・・」
B「アッサラーヤよ、これをどのように考えるか。
ヨーナとカンボージャとそのほかの辺境の国では、
貴族と奴隷の2つの階級しかなく、かつて貴族であった者が奴隷となり、
奴隷であった者が貴族となるということを・・」
C「ではアッサラーヤよ、これをどのように考えるか。
バラモンだけが、この国で怨みのない慈しみの心を修することができるのか。
そして、王様や庶民や奴隷はそれができないのか」
勝本華蓮訳
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A
もうね、お釈迦さまのこういう身もフタもなさが大好き。
バラモン教の『マヌ法典』や『リグ・ヴェーダ』では、
梵天の口からはバラモンが、上半身からクシャトリアが、下半身からヴァイシャが、
足からシュードラが生まれた、とされています。
それに対して、お釈迦さまがバラモンに言ったのは、
「あなたの母親に生理があって、妊娠したから生まれただけのことでしょ?」
ぐうの音も出ない”科学的態度”です。
B
他国の情報が入ってくれば、自国の制度が絶対でないことに気づく――
近現代の革命にも通じるような話ですね。
ヨーナ(=イオーニア)は西北インドにあったギリシャ人の国と指し、
カンボージャはインダス河の西北にあった国、と註に書かれていました。
仏教のような自由思想は、小規模なグローバリゼーションみたいな時代背景があってこそ
出てきたのでしょうが・・・なぜインドはカーストに戻っちゃったんですかねえ。
C
むかしフェミニズムの闘志が書いていた。
「『その仕事は男根が生えてないとできないの?』と訊いてやれ!」
それから、「第98経 ヴァーセッタ経(本当のバラモンとは)」にも
階級問題が出てきて、もっとも普遍的な観点でお釈迦さまが喝破するのですが、
疲れたので続きは後日。
今夜は、中秋の名月。東京では満月が見えています。
わたしが抱くお釈迦さまのイメージは、
冷たく青く澄んだ満月なのですが、どうでしょうか。
ところが「青い満月」という石原裕次郎の歌があったようで、
自分の想像力の凡庸さにがっかり。
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阿修羅ほか仏像レプリカのミニサイズが登場
新聞に、小さな仏像レプリカの情報が出ていた。
製造販売は、埼玉県の「MORITA」という会社です。
http://www.morita-inc.com/
もとは仏像製造なのかしら、
今では木彫りのガンダムとかキングギドラとか
キャラクターフィギュアも扱っているようです。
ここのリアル仏像シリーズ「
イSム」は、
有名寺の有名仏像のレプリカで、
ちょっと高いけど、よくできてますねえ。
このシリーズの、小さいバージョンが出たそうで、いまあるのは
阿修羅(興福寺)、菩薩半跏像(中宮寺)、伐折羅(新薬師寺?)
の3つ(いずれも1万9950円)。
商品説明にお寺の名前が入っていないのは、なにか権利関係か?
素材はポリストーン。
なんで、開祖のお釈迦さまがないのーーー?
でも法隆寺や飛鳥寺や清涼寺の釈迦像が部屋にあっても今ひとつだし、
ガンダーラの美形釈迦や、どこかの涅槃像をレプリカにしてくれないだろうか。
なんて無責任に言っても、買うかどうかはわかりませんが。
我が家の”祭壇”にあるお釈迦さまは、バンコクのワットポー前の
イイ加減な土産物屋で買った、ちっちゃい涅槃像・30バーツです。
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すべてを捨てて人は逝く(中部第82経「ラッタパーラ経」)
本日は「中部経典」第82経「ラッタパーラ経」(頼咤和羅経)。
81経の極貧在家信者、陶器職人のガティカーラとうって変わって、
82経のラッタパーラは大資産家の一人息子です。
かわいい一人息子が、お釈迦さまに会って、出家すると言い出したから、もう両親は半狂乱。
「安楽に育まれてきたおまえは、いかなる苦も知らない。
さあ、食べなさい、飲みなさい、遊びなさい」といって、
快楽で息子を引きとめようとします。
ですが、息子が地面につっぷして「出家するか死ぬかだ」というので、
最後には両親も出家を許します。
で、しかるべき期間、修行して教えを体得してから、
その姿を両親に見せるべく里帰りする、というお話です。
面白いのは、お釈迦さまの教団は、親の同意がなければ出家者を
受け入れないと律で決まっていたんですね。
ラッタパーラが「出家したい」と申し出たとき、お釈迦さまは
「両親の許しを得てきなさい」と答えるのです。
それから、実家との行き来も、意外と自由にできたようです。
ラッタパーラ里帰りしたい、と申し出たときも、
もうこの子は卑俗に戻ることはない、と判断したお釈迦さまは
「いまがそのときだとあなたが思うなら、そうしなさい」
といって許可しています。
よく新興宗教で、出家した子供を取り戻そうと、親が必死になる
ような話があります。
ですが、お釈迦さまの教団は、親を敵に回して世間から非難されるような
ことを避けるべく、周到に運営されてたんですねー。
お経の後半は、ラッタパーラとコーラヴィア王との対話です。
コーラヴィア王は、シニカルに「出家するのは、しょせんは惨めなやつら」
だという話をします。
年寄りか、病人か、財産を使い果たしたか、親族がいないかで、
もう何も楽しいことがないヤツが出家するんだろ?と。
対してラッタパーラは、「いや、お釈迦さまの4つの教えを聞いて、私は出家したんだ」と反論します。
彼が王に説明した4つの要約が、短いながら、すごい普遍的。
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「世界は(人は)恒常ではないものとして(終わりへ)連れ去られていく」
「世界は無庇護なものであり、最高支配者を持たない」
「世界は自己のもの(所有物)を持たない。すべてを捨てて(人は)逝かねばならない」
「世界はいつもなにかが欠けているものであり、(人は)満足が持てない、
渇愛への隷属者である」
『原始仏典 中部経典Ⅲ』(春秋社)第82経 岡野潔訳
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2500年後の今考えても、まったくこの通りでしょう?
そのあとラッタパーラが吟じた詩も、いいんだよなぁ。
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「わたしは世間にいる財産もちの人間たちを見る。
富を得ても(所有の)幻惑ゆえに、布施しない。
貪欲なかれらは、財産をため込み、
さらにいっそう欲望(の対象)を得ようとする。
王は力づくで大地を征服し、
海に囲まれた(全)地を住処となしつつも、
海のこちら側にあって満足できず、
海の向こう側をも、得ようとするだろう。
王もその他の人間たちも、
愛執を離れることができずに、死へおもむく。
なにかが欠けているかのよう(に不満足)なまま、
(空しく)肉体を捨てる。
なぜなら世界においては、欲望(の対象)に満足は見出せない。
親族たちは髪をふり乱し、かれを泣いて悼む。
「ああ、わたしたちにとって、なんということ!
かれが死んだなんて!」という。
かれを衣で覆い、(郊外に)運び出し、
薪を積み上げて、それから(遺骸を)燃やす。
かれは串に刺されたまま、焼かれるであろう。
一枚の衣だけを所有し、(あらゆる)享楽を捨てて。
死にゆく者にとって、この世の親族・友人・仲間たちも
(業報からの)避難所とはならない。
相続人たちはかれの財産をもち去る。
生けるものは業のままに去り行く。
どんな財産も死にゆくものにはついて行かない。
子供たちも妻も、財産も領土も。
(以下略)
(出典:同上)
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