武道館にたどりついた俺たちの車二台には、取材の記者連中が殺到した。
ものすごいフラッシュの放列だ。
左右両方からドアが同時に開くと、ジョンとポールは警備陣にかかえられるように、楽屋方面にかつぎこまれていった。
そんな状況でもポールは笑顔でカメラマンに手を振っている。
まったく、生まれついてのショーマンだ、彼は。
「ねえ、ちょっと待ってよ、最後に話したかったのに!」
後ろの車から飛び降りたサイコが松崎に詰め寄るが、警備陣、記者連中の罵声、騒動に取り囲まれ、もはやまともな会話ができる状況ではなかった。
「おしまいだよ、これで。おしまい!」
五十嵐が俺たちのほうを振り返って叫んだ。
「さ、後は観客席から見てくれよ。すぐに始まっちまうぞ、コンサート。」
何とか無事にジョンとポールを連れてこれたからか、五十嵐は安堵感が漂う顔をしている。
一方、この騒動の最大の責任者であり、もはや立場のない俺は、安心感なんてものは感じられなかった。
やってしまったなという気持ち、そして二人とお別れだという寂しさが入り交ざった、複雑な心境であった。
「お疲れさん。随分楽しんだみたいだな。」
大騒ぎの群集の中、呆然と立ち尽くす俺の背後からそう声をかけたのは、木村氏だった。
「あっ、す、すいません。こんなことになってしまって・・。この責任は・・・。」
「連中もさぞ楽しんだろ。ありがとさん。」
「・・・・・」
木村氏のその微笑を見たら、俺にはなぜかぐっとくるものがあったよ。
感動する、なんてなことには無縁だった俺が、なんであのとき涙が出そうになったのか。
声にならない俺に、木村氏がこう言った。
「せっかくだから、ステージ観るか?」