後部座席に俺をはさんでジョンとポールが乗った。
と同時に、パトカーはサイレンを鳴らし、急発進した。
助手席の五十嵐は運転する松崎に指示を出す。
「おい、ラジオだ、ラジオ。」
「えっ?」
「野球だよ、野球。」
松崎が車内のラジオの周波数をニッポン放送にあわせた瞬間、アナウンサーの叫び声が聞こえてきた。
「長嶋、今、ホームイン。さよならです、さよなら。長嶋の今シーズン二十二号ホームランはサヨナラツーラン!」
「ほら見ろ、松崎! わかったか、おまえ!」
「わかったかって、何がですか、五十嵐さん。」
「長嶋だよ、長嶋。やっぱり長嶋だよなあ。そうか、打ったか、・・・。やっぱりなあ・・・。」
混乱する五十嵐を、ジョンが興味深そうに見つめる。
ポールが「サヨナラ、ってグッドバイのことだよね?」と俺に訊いた。
「そうだよ。」
「コンサートでも使おうかな。その国の言葉をしゃべると結構受けるんだよね。」
「それはいい考えだね。」
「ポールは根っからのショーマンだからな。」
ジョンがすかさず会話に入る。
「ジョンは訳のわからないセリフを言っては観客を沸かすのが得意なんだ。」
ポールがそう返す。
「俺はナンセンスなセンスが好きなのさ。」
「ナンセンスなセンス?」
俺には訳がわからなかった。
俺は会話を戻す。
「日本語なら、もう一つ便利なのを教えてあげるよ。『どーも』って言うんだけど。」
「どーも?」
ポールが訊いた。
「そう。『どーも』。これはハロー、サンキュー、グッドバイ、どんな意味にもなるよ。堅苦しくない言葉だけど、決して下品でもない。便利だよ。」
「どーも、か。早速今夜使おうかな。」
そう言うポールの隣で、ジョンは前に座る五十嵐の肩を後ろからぺたぺたと叩きながら、
「ども、ども、ども、どーも!」
と、覚えたての日本語で絡み始めた。
五十嵐は苦笑いを浮かべながら、親指をたてて応える。