水道橋駅前付近に到着した五十嵐、そして松崎は、パトカーの中から、とてつもない光景に出くわした。

 

そこには大群衆がいた。

 

十代後半から二十代前半の若者たちだ。

 

彼らは大挙して後楽園球場の方角に向かおうとしていた。

 

しかし、もはや前に進めないほど、駅周辺は群衆で埋まっていた。

 

歓声を挙げている女性も多い。

 

ジョン、ポールの名前を連呼している。

 

ビートルズのメンバー四人の似顔絵を書いたオリジナルTシャツを着ている女性もいる。

 

リンゴの顔写真の入ったうちわを振り回している少女もいた。

 

まるで、後楽園で彼らのコンサートがもうすぐ始まるかのようだ。

 

パトカーを降りた五十嵐は、その場で呆然と立ち尽くしている。

 

「こんなに早くどうやって来たんだ・・。」

 

「わかりませんね。とにかく球場へ急ぎましょう。」

 

「みんな巨人ファンか、さては。」

 

五十嵐はそうつぶやきながらも、パトカーを運転する若い警察官に、とある場所に急ぐよう指示した。

 

「部長、そんなところに行くんですか?」