「慈悲喜捨」で考える国際協力 | 国際協力・NGO情報ブログ:別館

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今日は、NGO福岡ネットワーク(FUNN)の連続講座「NGOカレッジ2004」の最終回を行いました。講師は、反差別国際運動(IMADR)の副理事長で、また大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター特認教授でもある、武者小路公秀さん。元国連大学副学長として、お名前をご存じの方も多いと思いますが、その武者小路さんを迎えて、「私たちはどんな時代を生きているのか?」と題したお話をして頂きました。FUNN事務局側で設定したこのタイトルに、武者小路さんは「グローバル危機を好機とする知恵」という副タイトルをご自身で付けての話でした。

前半の半分は、現在のイラクに代表される「対テロ戦争」と呼ばれるものに引っ張られるように悪化する国内外のさまざまな問題--投棄に代表される悪しき経済のグローバル化や貧困・失業、軍事化・警察監視社会など--に触れ、現代が「不安の時代」でありかつ「大変な時代」であるという現状、またそれを取り巻く国際社会における近代国際社会の破綻についてでした。

これまでの講座が個別具体的な話であったことを、改めてまとめて話して下さっているような感じで(もちろん武者小路さんは前回までの話を聞いているわけではないですが)、なんだか不思議な感じでした。

副タイトルが付けられたのは、後半を意識してのこと。前半で様々話をしたものが逆に捉えれば、「人類の再生を図る希望」であり、またそのなかでの「対決の中での希望」というものもまた生まれてくるということでした。

具体的には、来年2005年という年が様々な意味合いで重要であること。たとえば、1992年の地球サミット以降に生まれ出てきた「市民」の動きがひとつの形として結集した1995年の北京世界女性会議からの10年であり、またアジア・アフリカなどが自ら立ち上がり国際社会と向き合った1955年のバンドン会議(アジア・アフリカ連帯会議)から50年であり、同時に、2000年の国連ミレニアム総会で決定された、国連ミレニアム開発目標(MDGs)の期限、2015年の10年前という時期に当たり、それが市民として、人類として再生に向けて動き出すのに好機の年であるということです。さまざまな問題があるとは言え、そこでは「人間の安全保障」というのがひとつのキーワードになるということでした。

また「対決」としては、世界社会フォーラムを中心とした、第三世界、市民の中から新たな価値観が生まれてきていることと、それを形として出そう、またその場でこれまで国際社会のなかで無視されてきた「地球民衆」(武者小路産の言葉。例えばインドのダリットと呼ばれる不可触民なども含まれます。不可触民についてはこちらのIMADRのウェブサイトを参照して下さい)という動きがあることなどをあげていました。

知らない…ということは特になかったですが、全体的にまとめて総論的にお話を伺うことができてすごくよい機会でした。

講座の中で武者小路さんが話されていた中で一番残ったのは(他の方もそうかもしれませんが)、仏教用語である「慈悲喜捨」というものでした。これを強く意識したのはインドのムンバイで今年1月に開かれた世界社会フォーラムの中での出来事だったと言います。いわゆるNGOの人たちがテントの中で講座・ワークショップを開き、現状を知るごとで悲しみに陥っている中で、テントの外で踊りながら騒ぎながら音を鳴らしながらデモをしているダリットの人たちの「喜び」を見て、この「慈悲喜捨」という心を育てるキーワードに当たったということでした。

日本では国際協力NGOの多くは、講座や学習会の中でそうした不当な地位におかれている人々や現状に思いをはせながらも、そうした人たちのアクションへと目を向けることが残念ながら多いとは言えないように思います。政策提言NGOとして所属団体のジュビQでは考えているつもりですが、講師として呼ばれるNGOの講座や学校などで、また開発教育的な側面において、「現実を知る」ということ、「ひとりひとりで…」というところを越えたところではほとんどできていないように思います。(この辺りは、以前このブログで「あいのり」について書いた「一人ひとり主義」の問題点に繋がるだろうと思います<こちら>)。

またテレビでそうした状況を見て一人で落ち込んでも「何とかしよう」とする彼らの運動に協働する実際に動きになることは少ないですね。世界の反戦運動でもまた日本で思いはあっても形になることはなかったですよね。もし例えば福岡県の人口500万人の内で10人に1人が参加すれば50万人の抗議行動になったはずなのにできなかった現状。そうしたことに意識的であることを改めて感じたのでした。

よい2時間半でした。また参加して下さった方も40人を全部で超えて、主催者としても一安心。皆さんありがとうございました。

終わったあとは武者小路さんと共に連続講座の交流会。ビュッフェ形式でワイワイガヤガヤ、参加者の皆さんともまた交流ができてよかったです。武者小路さん、お忙しいでしょうが、また是非福岡にお話に来て下さい!

◆写真は上にも書いた世界社会フォーラム@ムンバイでのダリットのデモの様子(by.インディメディア・インドより)