乱反射:貫井 徳郎

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地方都市に住む幼児が、ある事故に巻き込まれる。原因の真相を追う新聞記者の父親が突き止めたのは、小さな罪の連鎖だった。決して法では裁けない「殺人」に、遺された家族は沈黙するしかないのか?


「これは、ある一人の幼児の死を巡る物語である――


―かつてイギリスの有名なミステリー作家は、登場人物のほとんどが犯人というミステリー小説を書いた。幼児の「不運」な死に似た事件を他に求めるなら、そのミステリー小説しか見当たらないだろう。」

(本文冒頭より引用)


貫井氏の文庫が平積みされていて、思わず手に取ってしまいました。「乱反射」。この作品は、冒頭で内容の全てをあらわしています。不運により幼児が亡くなる物語です。引用しましたが、序文でイギリスの有名作家のミステリーを引き合いに出してしまったため、ミステリ的な作品なのか、というスタンスで読んでしまうと、もしかすると、肩透かしを食うかもしれません。本作は純然たる社会派エンターテインメント作品というジャンルになるでしょうから。


本作の主人公・加山は、新聞社に勤める記者です。妻と2歳の子どもを持つ平凡な会社員のはずでした。旅行に出かけるため、指定された日に家庭ゴミを出せず、やむなくいきがかりのコンビニのゴミ箱へ捨ててしまうところから、物語は始まります。ここから、’事件’が起きるまではマイナスの章番号が順々に増えてゆく、という演出。半分くらい読んだところで、実は事件の概要はわかってしまいますし、その後どんでん返しが!?ということもありませんので、ミステリを期待した方はガッカリされたかもしれません。


ですが、この作品のよさはむしろ事件後の主人公・加山の取った行動こそに求めるべきではないか、読む価値があるのではないか、という印象を持ちます。精神社会から物質社会と変化してきた日本、自分さえよければよい、他人のことはどうでもいい、他人に迷惑のかからないことならやっても問題ないだろう、という、日本社会全体が冒されている’病’に本書では鋭く切り込んでいます。おそらく誰もが経験のあることだと思います。そういった事例をうまく組み合わせてゆき、氏はひとつの事件を作り出しました。


「この事件の責任は誰にあるのか?」


加山は記者の立場を使って、事件に関係した人物にひとりずつ、根気よく話を聞いていくことになります。

強いて言うならば、この謎を解くことが本書をミステリ足らしめる要素になっているのかもしれません。通常の事件であれば、法律や法廷が答えを出しますが、この事件はそうではありません。それが作者からのメッセージであり、社会への警鐘なんだろうと思いつつ、己の襟を正そうと思う次第でした。帯にも書いてありましたが、深くて、重くて、哀しい、・・・そして面白い作品です。



オススメ度 ☆☆☆☆



乱反射 (朝日文庫)/朝日新聞出版
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