真面目なだけがとりえの会社員・倉田太一は、ある夏の日、駅のホームで割り込み男を注意した。すると、その日から倉田家に対する嫌がらせが相次ぐようになる。花壇は踏み荒らされ、郵便ポストには瀕死のネコが投げ込まれた。

さらに、車は傷つけられ、部屋からは盗聴器まで見つかった。執拗に続く攻撃から穏やかな日常を取り戻すべく、一家はストーカーとの対決を決意する。一方、出向先のナカノ電子部品でも、倉田は営業部長に不正の疑惑を抱いたことから窮地へと追い込まれていく。


さて、続いて池井戸氏の銀行ミステリ長編の紹介です。本作は、平凡中の平凡銀行員・倉田太一の日常系物語。本作は、倉田を二つの側面からザッピング視ながら進んでいきます。ひとつは、メガバンクから中堅電子部品企業へ出向し、総務部長を務めるいつもの池井戸氏の得意とする、金融を舞台とする物語。もうひとつは、大学生の息子、娘、そして妻の待つ我が家へ迫るストーカーと対決する物語。


会社での倉田はうだつのあがらない、という言葉がぴったりの総務部長。不正の痕跡を発見し、営業部長へ申し入れにいくが、社長の後ろ盾と信頼を得て、口もうまい営業部長にいつもこき下ろされ、苦々しい思いをしつつ、出向先に溶け込もうと頑張る会社員です。

こちらの倉田は、銀行での人脈を使い、徐々に営業部長の不正を暴いていく、金融ミステリの本道。


会社からの帰りに、電車の中でマナー違反をした男に注意をしただけで、逆恨みされ、ストーカーの憂き目にあうのがもう一つの物語。監視カメラをつけたり、仕掛けられた盗聴器を使ってストーカーを罠にハメたりと、エンターテインメント性豊かな、家族の物語。また、家族の仲が良いところも読んでいて楽しくなってきます。


どちらの話もミステリ的な謎と、エンターテインメント性がありますし、金融金融というオカタイ話ばかりではなく、我が家の話へ切り替えられることで、小休憩といいますか、頭を休めながら読めるので、すいすいページを進めることができます。これまでに読んできた氏の作品は、徹頭徹尾シリアスなお話で油断ならないところがありましたが、本作はある程度力を抜いて読めたところが、印象良しです。

他の作品に比べても、随分読みやすい作品になっています。



オススメ度 ☆☆☆☆




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電子書籍のデメリット

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せっかく買い集めた蔵書が消える――。電子書籍の世界で、紙の本ではありえない事態が起こり始めた。電子書籍は買っても「自分の物」にならない契約が多く、企業の撤退などで読めなくなるケースがあるからだ。電子書店は乱立状態で、「撤退は今後も続く」(出版関係者)可能性がある。事業者に説明責任を求める声も強まりそうだ。

 電子書籍事業から撤退するローソンの異例の対応が話題になっている。2月下旬のサービス終了に伴い、これまでの購入者全員に対し、購入額の相当分を、ローソンなどで現金と同じように使えるポイントで還元すると発表したからだ。

 同サービスは、ネットを通じてサーバーに置かれた書籍を読むという仕組み。どこでも「購入」した書籍を読めるのが利点だったが、サービスが終了すると書籍は消えてしまう。

http://www.asahi.com/articles/ASG1Q5WS1G1QUCVL00Y.html

朝日新聞デジタル 1/30


電子書籍は現在出版社ごとに電子書店が乱立している状態で、電子書籍端末そのものを販売している企業は、コア事業として取り扱っているため、Amazonやら楽天やらの大手は事業撤退や倒産の可能性ってのはなかなか考えにくいものがありますが、ローソンは電子書籍をメインに取り扱っているわけでなかったため、簡単に事業撤退という話がでてきてしまったんですね。
ご愁傷様です。

ここが電子書籍のデメリットということになるのでしょうか。全ての電子書店で購入したわけではありませんが、購入者アカウントと購入した本が紐付けされて、各社のアプリで読み込めるような仕組みが多いように思います。したがって、アプリの提供が終了したり、事業撤退にサーバーに置かれる本が撤去されてしまうと、読めなくなるという話です。こうなると、やはり大手の電子書店の書籍を購入せざるを得ません。

雑誌や新聞なんかのどうせ捨てるもの、を電子書店で買っている、というケースではあまり問題にならないでしょう。何度も読むお気に入りの小説や、専門書はやはり紙ベースの書籍で買っておくべきでしょうね。もしくは自炊とか。

というわけで、気になるニュースでしたので、紹介しておきます。

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ある町の銀行の支店でおこった、現金紛失事件。女子行員の疑いがかかるが、別の男が失踪・・・?
”たたきあげ”の誇り、格差のある社内恋愛、家族への思い、上がらない成績・・・事件の裏に透ける行員たちの人間的葛藤。二転三転する犯人捜し、組織の歯車の中でリアルな生が交差する、圧巻のクライムノベル。


池井戸氏の銀行ミステリ小説です。本作は、短編立てでひとつひとつの小さな物語が語られるオムニバス形式。かと思いきや、最終話まで、全てストーリーにつながりのある、長編ストーリーとなっています。

理不尽なほどきついノルマ。面倒な人間関係。有能な同期に対する複雑な気持ち。タチの悪い上司。そして家族。彼らの悩みは、すべての給与所得者にとっての悩みである。嘘くさいスーパービジネスマンなど出てこない。行員はみな、僕たちと等身大の人間ばかりであり、ぼくたちにも身近な問題に悩む。ちっとも他人事とは思えないのだ。(解説 霜月 蒼氏の引用)

霜月氏の解説からもわかるように、とても人間くさいテーマを選んで書き上げた作品になっています。ですが、銀行ミステリの看板に恥じず、サスペンス的な展開やフーダニットなミステリ的要素も盛り込みながら、重厚な一大長編に仕上げているところは、氏の持ち味であり、読者が待ち望んだもののように思えました。

やられたらやり返す、ではありませんし、正しいものが勝つ、とも限りませんけど、不思議と読後感は爽快。身近な問題なだけに、自分も銀行員の一員になったかのような、感覚に陥りそうになりました。なかなかの名作でした。面白い。


オススメ度 ☆☆☆


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