研究者の道をあきらめ、家業の町工場・佃製作所を継いだ佃航平は、製品開発で業績を伸ばしていた。そんなある日、商売敵の大手メーカーから理不尽な特許侵害で訴えられる。圧倒的な形勢不利の中で取引先を失い、資金繰りに窮する佃製作所。創業以来のピンチに国産ロケットを開発する巨大企業・帝国重工が、佃製作所が有するある部品の特許技術に食指を伸ばしてきた。特許を売れば窮地を脱することができる。だが、その技術には、佃の夢が詰まっていた―――。

男たちの矜持が激突する感動のエンターテインメント長編。



まちにまった直木賞受賞作が文庫化されました。本作は、ロケット開発を夢見た研究者が挫折し、家業をついで下町の町工場を引き継いだところから物語が始まります。主人公は佃製作所社長・佃航平。佃製作所は、高度で精緻な技術を持った小型エンジンのメーカー。そこへ、主要取引先の一方的な取引打ち切り、特許戦略で荒稼ぎしている敵対企業からの特許侵害訴訟、銀行からの貸し渋りなど苦難が襲い掛かります。本作は、そんな中小企業が、知的財産に強い神谷弁護士の力を借りて、訴訟を乗り越え、会社のもつ最高の品質と技術者としてのプライドをもって、みずからの夢を叶えようと四苦八苦しながら歩いていくサクセスストーリーです。


本作は銀行が舞台ではありませんが、高度な技術が売りの中小企業の内部事情を取り扱った作品。不安になる話の運びもありましたが、終始わくわくしながら読み進められるハッピーエンドな物語です。それだけではなく、何十億とカネが動く、知的財産権の世界を綿密に描写し、社員と距離が近い分悩める中小企業社長の心中をリアルに描き、また家族愛をテーマの一部とした作品でもあります。


小規模であるがゆえに社員同士の結びつきが強かったり、すぐに空中分解したりとなかなかせわしない中小企業の台所を見ることができます。キャラクターも魅力的で、元銀行員の殿村は、銀行からの出向者で、佃製作所の財務を担当するキャラクターですが、人がいいけどおとなしい、けれど言うときは言う、なかなかに愛すべきキャラです。お気に入りのキャラ。


特許・法律・金融ネタあり、陰謀・謀略もあり、笑いあり涙ありとかなりのエンターテインメント作。

技術を扱っている方におすすめです。


オススメ度 ☆☆☆☆



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最終退行:池井戸 潤

テーマ:

都市銀行のなかでも、「負け組」といわれる東京第一銀行の副支店長・蓮沼鶏二は、締め付けを図る本部と、不況に苦しむ取引先や現場行員との板ばさみに遭っていた。一方、かつての頭取はバブル期の放漫経営の責任もとらず、会長として院政を敷き、なおも私腹を肥やそうとしている。リストラされた行員が意趣返しに罠を仕掛けるが、蓮沼はその攻防から大掛かりな不正の匂いをかぎつけ、ついに反旗を翻す。日本型金融システムの崩壊を背景に、サラリーマン社会の構造的欠陥を浮き彫りにする長編ミステリー。


本作は、例によって銀行を舞台にしたエンターテインメント作です。紹介文に長編ミステリーと書かれていますが、ミステリー的な要素はほとんどありません。

主人公の蓮沼は、融資畑を歩いてきたエリート。ですが、本部に引っ張られたり、希望の職種につくということもなく、無能な支店長と、部下たちとの間で頭を悩ませる中間管理職です。


物語の舞台は2部に別れており、ひとつは東京第一銀行会長・久遠和爾が行ってきた不正を暴くというもの。久遠は、東総建設と癒着し、数々の不正を行っている疑いがあるものの、銀行の旧態依然とした体質や、告発しても銀行に何の得もないといった現実上の問題から、依然私腹を肥やし続けている本作の敵。もう一つの舞台は、蓮沼が勤める支店です。銀行に振り回されてやめていく同僚、理不尽な支店長の支持、成果は自分の手柄にし、ミスは部下に擦り付ける銀行風土、全てに絶望を感じ、自身の存在意義を問い、徐々に銀行に対する遠慮を無くしていく、蓮沼のそんな心裡が描かれます。


これまで、いいようにやられてきた主人公が、最後の最後で大逆転をかますというセオリーは守られているので、読後感は爽快でした。一方で基本的に、氏の作品は、銀行=非常識・銀行=悪のような視点から描かれているので、銀行に対していいイメージを持つことはありませんが、リアルに描かれているだけに、蓮沼のやられっぷりを読むたびにこんな組織いやだわー、と思わざるを得ないところ。逆転勝利するのでそこはいいんですが。ただ、粉飾の疑いがある!⇒裏帳簿発見!⇒敵凋落、という流れしか基本的にはなさそうなので、そのへんをどう違う風に表現できるかといったところで、面白いかそうでないかの判断が分かれそうです。

金塊の発掘、暗号の解読のようなテーマもかかわっていて若干これまでとは切り口が違うので、その点は新鮮に感じるかもしれません。個人的には、そういう雑多なテーマより、銀行内部だけのストーリーが好みのようです。


また文庫版では、東京大学大学院の方が解説をされています。本の解説というより、近現代の日本の金融システムの変遷を解説してくださっていて、むしろ個人的にはこの部分が興味深く読めました。もしかしたら常識的な内容かもしれませんが。よくわかる解説です。


オススメ度 ☆☆☆



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やられたら倍返し―――――

子会社に飛ばされたバブル世代の主人公。親会社から受けた圧力や嫌がらせは、知恵と勇気で倍返し。世代を超えた男たちの戦いが、今始まる。



本作はまだ文庫化されておらず、電子版を読みました。池井戸氏の半沢直樹シリーズ第3弾です。週刊ダイヤモンドで連載されていたものを加筆修正したもののようです。前作のラストで、政治決着の割を食う形で、子会社・東京セントラル証券への出向を命じられた半沢。まだ、着任していくばくも立たないうちに、ある大仕事が舞い込んできます。―――企業買収


バブル時代に入社した半沢は、世間のいうロスト・ジェネレーションの時期に入社してきた部下・森山とともに、銀行の外から銀行の抱える闇を暴き、粉砕していくことになりました。本作でも主人公は半沢なのですが、序盤はそれほど半沢の持ち味である攻撃性をあまり見ることはできません。どちらかというと、ロスジェネ代表の森山に焦点が当てられたストーリーです。本書全体を通しても、森山の精神的成長といった部分もテーマに含んでいるのかなという印象で、かなりスポットライトが当てられています。


序盤のストーリーは、とあるIT企業が他の競業会社を買収したいからその協力をして欲しい、と東京セントラルに話を持ちかけられるところから始まります。提案書を作成し、提案の段になり突然の契約解除。よくよく聞いてみると、東京中央銀行がセントラル証券を押しのけて、アドバイザー契約を結んだような格好になったことが明らかになっていきます。


――倍返しだ!


スジの通らないことに対してはトコトン戦う半沢は、ようやくスイッチを入れ、親会社たる銀行に対しても断固として戦っていくことを決意、買収”される”側を全力で援護し、買収阻止に動き始め空中戦が展開されていきます。本作も逆転満塁ホームラン的な結末があり、爽快な読後感。


半沢(筆者)の組織論や銀行観なんかも、森山の疑問に半沢が答えるという形で、割りと突っ込んで描かれます。読み応えのある作品です。


以下は、取締役会でのやりとり。


某部長「我々の稟議をゴミ扱いするのか、君は!?」

半沢氏「ゴミ扱いしているのではありません。ゴミだと申し上げているのです。」


役会でこれは辛辣すぎる・・・。

だがそれがいい。


オススメ度 ☆☆☆☆



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