こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子などをお届けしています。

 

本日外は快晴…雲ひとつない青空である…

 



が、気温はいきなり18°F摂氏だとマイナス8℃くらいか…なので、手袋をしていてもすぐに手はかじかみ、少しでもコートとマスラーの間に隙間があると、冷気は容赦なく入り込む北国の冬…しかしまぁ、これが本来のNYの冬なのだ。

 

NYでプロの俳優として活動していれば、綺麗事で済まない出来事にも度々遭遇する…実は、新年早々、いきなりそんな冬の冷気にさらされるような目に遭ったのだが、これは実はNYではよくある事なので、もし誰かのお役に立てば…と記すことにする。

 

去年の暮に、プリントモデルの仕事をしたお話をした。(過去記事参照)

その仕事自体は、拍子抜けするぐらい早く終わったのだが、そのギャラが早くも、しかもプロダクションから直接送られてきた?!…場合によっては支払いに2~3ヶ月かかる事も珍しくない世界なので、このスピード決済には、正直のところ驚いた…やればできるんやんか、アメリカ人?!

 

ちなみに、エージェントを通した仕事の場合、ギャラはまずエージェントに送られ、そこからコミッションを引いた額をエージェントからタレントに送る…というのが一般的な形ではあるが、時々今回のように、プロダクションからタレントに直接送られる事がある。その場合は、タレントの方からコミッション分のチェックをエージェントに送るわけで、そういう時も私はできるだけ早くチェックを送るようにしているし、普通はそれで何の問題もない…が、今回はちょっと微妙だった…

 

ちなみにその仕事では、エージェントのコミッション分がモデルのギャラに上乗せして払われるはずだった。

これはプリントの場合は+20%(プラス・トゥエンティ)映像の場合は「+10%(プラス・テン)」)と呼ばれるが、要するに、タレントが自腹を切らなくて済むように、本来コミッションとして支払われる、ギャラ(税金前の額)の20%、もしくは10%をプロダクションが負担してくれる…というありがたいシステムである…もっとも、これはユニオンの映像の仕事の場合を除いては、実はケースバイケースで、必ずしも全てのプロダクションがそうしてくれる訳ではない…特にプリント広告にはユニオンがないので、むしろ+20%を払ってくれる方が珍しかったりするのだが、この仕事に関しては最初からその+20%が支払われる…と明記されていた

 

ところが、私に送られてきたチェックには、そのコミッション分の+20%が入っていない?!

これはちょっと面倒な事になった…ひょっとしたら、その+20%は、プロダクションから直接エージェントに送られているのかもしれない…その場合なら問題はないが、ひょっとしてプロダクションがその+20%の支払いを忘れていた…というケースも決してあり得ない訳ではないのがアメリカの怖いところ…そしてもしそうなら、これは一刻も早くエージェントに知らせなければならない

 

さてどうするべきか、一瞬迷った…もちろん、「20%のコミッション分はプロダクションからエージェントに直接送られている」と「思い込む」事にし、そのまま何も言わずに知らん顔…という手もない訳ではない…が、もしコミッションが送られていなかった場合など、後から何も言わなかった事を責められたり、場合によってはエージェントの取り分を盗んだかのように思われるのは、絶対に嫌である…それに小心者の私は「向こうが何か言ってくるまで待て」というのが苦手なのだ…必要なコミュニケーションをしなかったが為に、後々ビジネスの関係がギクシャクする…というのでは割に合わない

 

しかし、もし私が「コミッション送りましょうか?」と言えば、エージェントの方は、たとえ既に自分の取り分をプロダクションから受け取っていても、「送って」と言うだろうな…という予感もあった…もしこれが、最初からエージェントに全て送られていれば、おそらく先方はしれっとコミッションを二重取りしていたかもしれないし、その時はこちらにはどうしようもない…

実は、そのエージェントと仕事をするのは初めてだったので、先方がどういう出方をするか、100%予想できなかったのだが、将来の為にもこれははっきりさせておこう…と、思い切ってメールを送る…

まず、プロダクションからのチェックを受け取った事、そして私のチェックには「+20%」が入っていない事をPaystubの写真を添付して告げる…もしそれが手違いならエージェントからプロダクションの方に連絡するべきだからだ。

 

すると、そのエージェントは「No Problem. 〇〇ドル(20%分の額)のチェックを、以下の宛先に送って。」と、まるで「+20%」などなかったかのように言うではないか?!

若い頃の私なら、そこであっさり引き下がったかもしれないが、伊達にオバチャンになった訳ではない+20%はどうなってますねん?!他のエージェントは、いつもそういう風にしてもらってますけど?」と食い下がる…あえて「他のエージェント」を出したのは、「私は何も知らんと思ってもらっては困るで!」と言う牽制とハッタリで、実は他のエージェントにも同じ事をする奴はいたのだが

 

実は、そのエージェントの返事次第で、今後一緒に仕事をするかどうか決めよう…と言う思いが、私にもあった…もし彼が「+20%なんてないから、コミッションよこせ」と嘘を吐く様なら払われることは、契約書に書いてあるのだ!)、速攻で縁を切ってもいい…とさえ思っていた…たかだか数百ドルのコミッションの為に、こちらを騙そうとするような奴と組むのはゴメンである…そして、できれば「そうだった。プロダクションに+20%について掛け合うから、大丈夫!」と言う返事であればいいな…という祈りにも思いもあった…

しかし、そのエージェントからの返事は、「確かにプロダクションからも+20%は支払われるけど、それはプロダクションのFee…それとモデルのFeeとはまた別物…」というもの…ある意味予想通りではあったのだが、これには落胆した

 

実は、このプロダクションから払われるコミッションを取りながらも、別にタレントからも同額のコミッションを取ること「Double Dipping(二重取り)」と呼ばれ、ユニオンの映像の仕事では、これはユニオンによって禁じられている…が、如何せん、プリント広告にユニオンはないので、モデルの仕事はいわば無法地帯なのである…

 

Double Dippingの本来の意味は、ディップに一度齧ったクラッカーや野菜をもう一度つける…という行為で、これはマナー違反の恥ずべき行為とされている…日本で言うなら串カツなどのソースの「二度浸け」大阪の方には、「絶対あかんで!」というタブーの度合いがお分かりいただけるだろう

ビジネスで使う場合は、もちろん料金などの「二重取り」の意味だが、俳優達の間では、このようにエージェントやマネージャーが、コミッションを二重取りしようとするケースにも使われる用語で、繰り返すが、これはユニオンの仕事ではルール違反…しかし、今回の様なノンユニオンの仕事や、ユニオンと提携していないマネージャーの中には、このDouble Dippingをやる人達が、決して少なくないのだ…実は、私がフリーランス契約を結んでいる他のエージェントやマネージャーの中にも、そのDouble Dippingをする奴がいたりするのだが、その新しいエージェントもDouble Dipperだったとは…ブルータス、お前もか?!

 

唯一の救いは、そのエージェントは少なくとも「+20%はなかった」という嘘はつかず、図らずしも自分がDouble Dippingをやるつもりである事を、私に「正直に」告げた…だが、私が何も知らずにそれで納得する…とは思っていない様なのが、実は文末の「…」に現れている?!

 

そして、もちろん私の本音は「ふざけんな!そのFeeはタレントが払う分をプロダクションが肩代わりしてくれているもので、元来あんたのものちゃうわい!」というわけなので、断固闘って支払いを拒否する…という選択もない訳ではない…

ただその場合、今後そのエージェントと仕事を続ける事は諦めなければならないし、場合によってはその悪評判は、他のエージェントやキャスティング・ディレクターに伝わる場合もある…その際、たとえ非は向こうにあろうとも、言った者勝ち…ただでさえ、マイノリティの私は条件が悪いのだ…たかだか数百ドルの為に、これまで築いてきたものをぶち壊しにしたいか?!

 

そこで「なるほど…あなたはそういうやり方をするのですね。チェックは今週中に送ります。」とだけ返信する…「Hi」も絵文字も結びの言葉(「安全に」とか「お元気で」など)も何もない、極めて事務的な塩対応のメッセージに、おそらく彼も何かを感じ取ったのかもしれない…その返事は「Thank you…」というもので、その「…」が彼の複雑な思いを表している?!

 

しかし、もう私の心は決まった…最初は「ではこれっきりにしましょう。さようなら。」とすっぱり縁を切ろうかと思ったが、武士の情けでそれは思いとどまる…その代わり、そのエージェントの優先順位を最下位に下げることにする…つまり、もし他のエージェントから同じキャスティングについて連絡があった時は(プリントの場合、これは実によくある事である)それまでは早い者勝ちにしていたが、これからは容赦無く他のDouble Dippingをしないエージェントの方に乗り換えさせてもらうこちとらも商売、当然である…それが嫌なら二度浸けすんな、ボケ!

 

勿論、これはあくまで私の決断で、他の人はまた違った結論を出す事だろう…自分のキャリアなのだ、自分で納得のいく決断をしてほしいと思う

私は、とにかくこの件に関しては、これ以上関わる時間と労力が惜しかったのだ…人生に時間は限られているくだらん奴に関わる時間はミニマムに…これが今年の私のモットーの1つでもある…

 

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