バッハの『 インヴェンションとシンフォニア 』
という曲を、ご存知だろうか?
有名な曲なので、クラシックに、ご興味のない方でも、
名前くらいは、お聞きになったことが、
あるかも知れない。
私は、音楽の専門家ではないが…、
簡単に言うと、複数の独立したメロディを、
交錯させることで、
全体として美しい音楽を構成するというもので、
その作曲にはもちろん、
演奏にも、高度な熟練技が要求される。
私のような、ズブの素人には─、
「 う~ん、キレイな曲だ… 」
という程度しか、コメントできないが、
音楽の専門家ともなると、当然、
見る ( 聴く ) 観点は違ってくる。
以前、知り合いの音楽の先生が、
こんなことを仰った。
「 バッハは、聴くのも疲れる… 」
「 ふ~ん、そういうもんか… 」
当時の私は、ポカンとした面持ちで、
その話を聞いていた…。
◆◇◆◇◆
出席者のほぼ全員が知らない人である
パーティに招待されたところを想像してみて。
あなたは招待客が佇んでいる部屋にはいっていく。
人々はお酒を飲み、煙草を吸い、談笑している。
あなたの意識の中心にあるのは、塊としての人の群れ。
あなたは飲み物を手にして、部屋の隅に立ち、
人々を眺めながら、
知り合いの顔が見えないかと期待している。
見覚えのある顔を目にすると、
ほかのだれよりも目立って感じられる。
やがてだれかがあなたに話かけてきて、
その人物があなたの関心の中心になる。
時間がたつにつれ、より入念な観察によって、
特定の人たちを選び出すようになり、
あなたはそれぞれの人に順番に意識を集中させていく。
とても酔っぱらっている男性がいるかもしれない、
セクシーなドレスを着た女性がいるかもしれない、
やたら大声で笑っている人がいるかもしれない。
あなたがほかの人たちと話すにつれ、
彼らはあなたのすぐ気づく圏内にはいる。
ほかの人たち、すなわち、あなたがまだ話していない人々や、
表面的に意識しているだけの人は、
あなたの知覚のなかにとどまっているけれども、
その知覚は総体的な見方や、皮相な感覚でしかない。
そうこうしているうちに、あなたはしだいに、
部屋のなかのほかのものに
気づくようになる ─ 料理や飲み物は当然。
室内飼いのペットがいるかもしれず、あなたはそれを目にする。
鉢植えの植物に気がつく。
家具やカーペットを目にする。
最後には、部屋そのもがどのように
装飾されているかにすら気づくかもしれない。
室内のあらゆる品物や人があなたには見えてくるけれど、
それらにはあなたが無意識のうちに気がつく順番が存在しているの。
そして、どのパーティでもつねに、
あなたがけっして気がつかない人物がいるものだわ。
『 魔法 』( クリストファー・プリースト ) より
( 次回へつづく... )
『 部屋には何人の男がいたのか? 』