- 最強の英語上達法 (PHP新書)/岡本 浩一
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出だしの書き出しからしてスゴイ。
「私は英語力を独学で身につけた。
おおむね、読み書き会話とも、母国語なみと言ってよい水準だろうと自分で考えている」(はじめに)
ここでのけぞっているようだと本書は読めないだろう。
これに続く本文はというと・・・、
「英語の勉強を小手先の技術だと思わないこと
私はどうも「英会話」という言葉が隙になれない。この言葉には、とりあえず観光旅行くらいをしのげればいいという語感を感じてならないからである。
(中略)
私に言わせれば、そういうのはコミュニケーションでもなんでもない。本書はそういう人のためのものではない。もっと真摯なコミュニケーションに英語で従事しようという人のために、本書を書いたつもりである」(p14)
もう、これだけで”楽して英会話♪”みたいなものを期待していた人は本書を読むのをやめるだろう。実際、やめた方が正解である。この後、ひたすら高度な話が続いていくだけなのだから。
実際、読んでいくと求めるレベルが高くて笑えてくる。第一章と第二章は本論ではなく「準備」だ。英語学習を始める前の心構えを説いている。こういう「メタ学習」が楽しい人にはたまらないだろうが、「早く本題に入れよ」という人には、繰り返しになるが本書はお勧めできない。
第三章ではまだ本題に入らずに「英語上級者の特徴」を紹介している。この章は、「一般によく英語ができるなどといわれるが、それはどういうレベルのことを指すのだろうか?」 という問いに対する著者の答えとなっているわけだが、これがまたすごい。著者いわく、「英語ができる人=上級者」の特徴は以下の通り、だそうだ。
・読み書きと会話に落差を意識しない
・会話をそのまま文書にしても文法的に正しい文になっている
・時制が正確に使える
・文法に詳しい
・前置詞が正確である
・前置詞のニュアンスを心得ている
・仮定法や分詞構文を正確に使うことができる
・語彙が多い
もうこの辺で、「どういうレベルだよ?」と聞き返したくなる。この章はさらに続く。
・上級者は生の知識を英語でもっている
・英語の語彙と日本語の語彙の範囲がずれている
・固有名詞の語彙が豊富である
・語彙の転換ができる
・スペルの推測が上手である
・スペルを表意文字的に見る
・「リエゾン」を正確に分解できる
・スペルの一部からの推測が上手にできる
・カラオケで歌が歌える
これはさらに続いているのだが、もういい加減嫌になってきたと思うのでこのへんでやめておこく。要するに「英語ができる」というのは、このレベルを目指せ、ということらしい。
しかしここまで来ると、母国語(つまり日本語)の理解すら大丈夫だろうか? と不安になる。私ははたして「てにをは」を正確に使えているだろうか。漢字の間違いはないだろうか。文章のリズムは大丈夫だろうか。語彙は少なくないだろうか。この本を読んでいると、母国語すら怪しい人は、外国語を学ぶ前にやることがあると言われているような気がする。
この次の第四章で「文法を味方にせよ」と最後のお説教を終わり、第五章からようやく本題、すなわち「英語の上達法」が始まる。しかし、すでに述べたようなレベルを目指そうというのだから、「聞き流すだけで~」的なものとはまったく様相を異にしていることは、容易に想像できるはずだ。本書では「中核トレーニング」と「発展的トレーニング」が紹介されているが、もはや「中核トレーニング」の時点でわたしなどはアウトだ。「発展的トレーニング」など、母国語ですらできない人もいるかもしれない。本文も、英文を引用しておきながら「どうです? オチが何かわかりましたか?」とだけ書いてあって、解説がなかったりする。何が面白いのかわからない読者はおいてけぼりだ。
要するに、学問には王道なしということが書いてある。後半の「発展的トレーニング」を実践できるようになるのは、TOEICで言えばスコア800以上、英検1級くらいの人だけではないだろうか。どう見ても初心者向けではない。
余計な御世話だが、これは売れないだろうと心配になるw あまりにも商売っ気がなさすぎる。しかし逆に、本気で英語に取り組みたい人にはお勧めといえよう。