居酒屋で働く負け犬の遠吠え -4ページ目

パーフェクトガール

『なぁ、ちーこぉ。スナックの方に新しい女の子入んねーの?』



ついさっきのこと。
常連客タカがアタシのいる居酒屋の方に来て、唐突に言った。



こいつ、確か葉子ちゃん目当てだったはずだが。




ちーこ『んー、今のとこ新しい女の子が入る予定はないらしいけど。つか、葉子ちゃんいるんだからいーじゃんよ』

タカ『飽きた』

ちーこ『へ?』

タカ『だから葉子ちゃんに飽きたんだよ。だって可愛いだけでしゃべり面白くねぇもん』




いやいや、可愛いけりゃ十分だろ。
アタシから見たら、しゃべりが面白くなくても可愛いだけでも羨ましいが。



つか、しゃべりつまんなくても可愛いけりゃいい!って豪語してただろオマエ。



タカ『なんかさーもっとしゃべりが面白い女の子がいい』

ちーこ『ゆみちゃん、しゃべり面白いじゃん』

タカ『あー、確かに葉子ちゃんよりは面白いけどよー。話す事全部いつも下ネタじゃねぇーか。しかも生々しいんだよなー。下ネタ以外の話、聞いた事ねー。下ネタばっかってのもよー。三十路過ぎの生々しい下ネタ、聞きたくねーよ』

ちーこ『悪かったな、三十路過ぎで。んじゃ萌美ちゃんと理香ちゃんは?若いじゃん』

タカ『若すぎてついてけねぇ』

ちーこ『リョウコちゃんは?若くないよ?』

タカ『論外』

ちーこ『オイ!じゃあどんなのがいーんだよ!』

タカ『そーさなぁ。可愛くてしゃべり面白くて頭の回転が早くて27~8歳くらいの子』

ちーこ『死ね!』

タカ『生きる!』





しみじみ、お客って、勝手だなぁと思った。



タカが言うような子、いたらママなら喉から手が出る程欲しがるだろうよ。



そんなパーフェクトな子、こんな寂れた片田舎で見つけられるわけないわ。

キングダムハーツ

常連客からゲームソフトをもらった。



【キングダムハーツ チェインオブメモリーズ】とかゆーソフト。




ちなみにアタシはキングダムハーツシリーズはいっさいプレイしたことない。


だからどんなゲームでどのようにプレイすんのか全然分かってない。





なのに…。




ちーこ『説明書…は?』

客『んー、ねーよ』

ちーこ『ソフト入ってた箱…とかは?』

客『んー、ねーよ』

ちーこ『ソフト…のみ?』

客『だよ』






どうやらずぅーっとソフトをゲーム機本体に入れたままにしといたため、箱と説明書を紛失してしまったらしい。




まぁ、アタシもそのタイプの人間なので、分からなくもないが。




『大丈夫だって。オマエなら説明書とかなくても出来るって。やってみ?それ』と言われたので、やってみた。





さっぱり分からない。
何もかもがさっぱり分からない。





ゲームのストーリーというか、最終目的すら分からないので、何を目指して進めて行けばいいのか分からず、ただやみくもにプレイしてみてるわけだが。




分からない。
何が分からないのかも分からない。



どのように進めていけばいいのか。
手探り状態。




まるで人生のようだ。

見て見ぬ振りも必要かと

『ちーこぉ~!何とかしてくれよ~!』




常連のO原さん、店に入って来るや否やいきなりアタシに泣き付いてきた。



なんでもスナックの方の女の子、葉子ちゃんの事。




葉子ちゃんにO原さんの携帯番号とアドレスを教えたら、日中夜問わずにガンガン電話やメールが来るらしい。





『日中はともかくさ、夜は勘弁してほしーんだよー。夜は家族と一緒じゃん。女房いる時にスナックの女の子からの電話はヤベーだろー。そこら辺なんで分かってくれねーかな』とO原さん。




しかもO原さんが奥さんと買い物をしていた時、バッタリ葉子ちゃんに会ったらしく、葉子ちゃんったらここぞとばかりに



『あー!Mちゃん!(O原さんの下の名前)お久しぶりー。あ、奥様ですかぁ~。どうもぉ~いつもMちゃんにお世話になってますぅ~』


って言ったらしい。


その後『Mちゃん、また連絡するから~。じゃあ』と言い残し、颯爽と去っていったらしい。




その後のO原夫妻は…




奥様『なぁに?あの子』

O原『や、ほら、スナックの女の子…』

奥様『アナタ、何お世話してんの?どんなお世話してんの?』

O原『何にもしてねぇよ~!』

奥様『ふーん。あそ』

O原『ホントだよ~!』

奥様『誰も嘘だと言ってないでしょ。あー、アタシもお世話されたいもんだわねー!』




という会話を繰り返し、気まずい雰囲気に包まれたらしい。





O原『だいたいさぁ、オレ別に有野(O原さんの中で葉子ちゃんはよいこの有野さんに似てるらしく、心を込めて有野と呼んでいる)目当てってわけじゃねーし。ただ、有野から番号とアドレス聞いてきたからさー、何気に教えただけなのによー』





うーん。
葉子ちゃんは店に来るお客はみんな自分目当てで来てると思っているフシがあるからなー。




葉子ちゃんの頭の中では


O原さんが自分携帯の番号とアドレスを教えてくれた→自分の事を気に入っているから、教えてくれた→自分のお客。



ってなっているのだ。





しかしながら、妻子持ちや、彼女持ちのお客さんには電話やメールするとき、気を使うもんだけどね。
アタシはね。



特に妻子持ちのお客さんに連絡する時は緊急じゃない限り夜は避けるよ。
アタシはね。



だって自分の旦那さんの携帯にスナックの女から連絡来るって、いい気しないっしょ。



それに、常連客と外で会った場合、奥さんの前で葉子ちゃんように名字でなく下の名前で呼び掛ける事はしないね。
アタシはね。



そもそも奥さんや彼女と一緒だと思ったら、声かけないよ。アタシはね。



まぁ、奥さんも店によく来てくれて何でも話せるような仲なら、別だけど。





アタシはそう思うが葉子ちゃんはどうやら違うらしい。




てか、フツーはどーなのかな。
ママにサラっとこの事を聞いてみた。




ママはどうやらアタシ派のようだ。


既婚者のお客には夜はなるべく連絡しないし、外で会ってもお客の方から声をかけて来ない限り見て見ぬ振りをするらしい。



『それがフツーなんじゃないの?』とママは言う。




どうやらアタシとママの感覚と、葉子ちゃんの感覚は違うらしい。




どちらが正しいかは何とも言えないが。




これは是非、統計を取ってみたいものだ。