「ふぁはぁ」
音とも息づかいともなんとも言えないものが耳に入ってきた。
「ファミ♭レ全部メゾフォルテだな。くしゃみか?そういえば身に付けている布類は薄いもののようだ。どうせ身体も汚れているんだろう」
この子供の前で眼の見えるふりをするのは止めた。
どうしてこんなにもすぐに心を許せたか解らないが、いや、たぶん彼の持っている不思議な異端のせいなのは認めずにいられない。とはいえ、家のものに弱味は見せられないと彼の腕を引きずるように家にもどって浴室に向かった。
「風呂は溜まっているか!」
「ぼ、ぼっちゃま」
「翔、だ。二度とぼっちゃまなどと呼ぶなと言ってあったろう。次にその言葉を俺が聞いたとき、その時はここをでていくときと心得ろ。
それより、風呂だ。この小汚ない物を家に置く。清めなくては臭くてしかたがない」
「はい、いつでも入れるようにしてございます。その子供を清めるお手伝いをした方がいいでしょうか。それとも、」
「子供だと言っても自分の身体ぐらい清められるだろう。着替えを用意しておけ」
「はい、翔様」
このやり取りの様子をはらはらしているのがよく解る。腕を伝わってくる震えと、
「フォルテッシモだ。ふふ、コントラバスやチェロの音に近いな。音符と言うよりは玄を勢いよく弾いてる。
まあ、怯えるな。俺は風呂好きでいつも風呂が入れる状態にあるのはいつもの事だし、お前も身体を清めて垢を落としてから湯船で一息付け。
お前は俺が見つけた異端だから俺の側に置くぞ。嫌は無いからな」
好きな風呂だが、この子供がいるというだけで気分がいつもより高揚してくる。
大股に歩く俺に引きずられるようにパタパタと絨毯の上を小走りにする音さえもが楽しい。
「まるで、子犬のワルツだな」
お買い物マラソン