「え?カズくん、それを知ってどうするの?」
彼が連れてきてくれたのは、以前彼女への最後の花束を作って貰った花屋さん。店主の方は覚えていないみたいだけれど、流石に俺は覚えていた。
「さとしさん、知ってるの?じゅんさんがどこにいるのか?」
「いや、知らないけど……。そっちの人は?」
「初めまして、ではないんです。いつだったか花束を作っていただいたものです」
「花束?」
「はい、白いダリアとスイートピーで…」
「あ、ああ、あの。
で、潤君に何か用ですか?」
「いつだったかあのプラネタリウムで天空の…オリオン座の説明をしてくれました。オリオンはウサギを踏み潰しているなんて思われているけど、ウサギを庇って自分より大きな怪物と戦っている、そんな姿を夜空に残しているのだと」
「ああ、潤君っぽい」
「じゅんさん、僕にも内緒だよって教えてくれた」
あの子はいったいどこまで優しい子に育ったのか……。
「俺は……あの子の小学一年生の頃を知ってるんです。
約束してくれたんです、夜空の下星を教えてくれるって。
あの時は気がつかなかった。
だから、なおさら、会いたいんだ。もう一度あの、落ち着く優しい声でっ!」
カズくんと呼ばれた男の子が俺にハンカチを差し出した。
驚いていると、
「おにいさん、泣かないで」
そう言う。
慌てて、頬を触ったら……涙がこぼれ落ちていた……。
「あ、え?な、何で俺……っ!」
堰を切ったように流れ落ちる涙。俺……こんなにもあの子が大切な子だと思っていたなんて……。
「カズくん、僕はこのお兄さんとお話があるんだ。おうちに帰るのが遅くなっちゃうからもう帰りなさい。あ、これ、お母さんに、ね」
「で、でも、じゅんさんのこと僕も知りたい!」
「あのね、潤君がどこにいるのかは知らないんだよ」
しゅんとしてしまった少年に俺が言えることは、
「俺が会えるかどうかわからないから約束はできないけど、もし会えたら君が会いたいと言っていたことを伝えるから。約束するから」
それだけだった。
「自己紹介した方がいいかな?」
「あ、すみません。
私は櫻井翔と言います。
松本くんとは小学校が一緒でしたが、私が転校してしまったのでそれ以来会ったことはありませんでした。
だから、」
「プラネタリウムで会った時も気付かなかったんですね」
「そうです」
「まあ、しょうがないですよね。
でも、僕も本当に知らないんです。
ただ……」
「ただ?」
「思いでの場所に行くと言ってらっしゃいましたよ、彼」
思いでの場所?もしかして?自意識過剰だとは思うけれど……。