一年半前だっただろうか。

自分の業界で新たな団体が設立され、その会長職を任されることになった。

リーダーシップの欠如は自覚していたつもりだったし、どう考えても自分には無理な役職だと思って何度も何度も断った。

しかし、結局、多数決で強引に選出されてしまった。

何をどこから着手すればよいのか、悩みに悩んだ。

そんな折、対立関係のような存在の団体のてっぺんの方から

「この業界の歴史を知って欲しい」

と資料が届いた。

「嫌がらせか?」

と思ってしまったが、その後、幾度となく資料が届くようになった。

そして、同封されていたお手紙には

「後を頼みます」

と書かれていた。

「どういう意味だろう?」

私には、よその団体の会長に、なぜそのようなメッセージを送るのか、皆目見当もつかなかった。

「身辺整理をしています」

ってのも気になった。

その後も資料は送られ続け、そのどれもが貴重なものばかりだった。

常識で考えれば門外不出のようなものまで含まれていた。



そして、昨日、その方の訃報が入った。

突然のことに、呆然としてしまった。

私に、こんなにも頼りない私に、業界を背負って欲しいと大量の資料をお送りくださったのは、ご自身が活躍できる期間に限りがあることを悟っておられたからなのだろうか。

ことの重大さに初めて気づかされた。


普段は飲まない私が、今、日本酒を飲みながら綴っています。



合掌