まず雑事。

海外ドラマの話題から、FOXがDlifeという名称に変わり、以前取り上げた"Murdoch Mysteries"の他に気に入った新番組が2つ出てきた。一つは"Accused"、Homelandのプロデューサーによる一話完結の裁判ドラマで様々な被告の状況により米国の現状が浮き彫りにされている。もう一つは"The Strain"で寄生、吸血、変成、陰謀、歴史等の複数の要素を含むホラーものだ。またAXNがActionという名称に変わりアクションドラマ専門チャンネルになったが、私は単純なアクションドラマが好きではなく見たい番組は少ない。例外的にSTBに接続した6TB HDDに残している番組はSFと歴史を組み合わせた"Outlander"だけ。

4K TVから直接amazon prime videoを見ることも可能で、その番組を一つ紹介する。それが"STAR TREK Lower Decks"。STAR TREKアニメで昔からSTAR TREKのアニメ版はあったが、内容は実写版の焼き直しで視聴対象年齢をアニメを使って下げることが目的だった。それに対してこの"Lower Decks"は下級士官達がメインキャストの新たな物語で昇進や名誉とは無縁の大人が見て楽しめるコメディになっている。

安部公房生誕100周年らしく、映画「箱男」が8/23に公開された。私は年齢相応の頻尿状態なので映画館には行かないが、安部公房の大ファンなので、いつか見てみたいものだ。


毎年、八月の盆には帰省するが、最近は正月や五月の連休や盆のように人々が多く移動する時期に新幹線のぞみの自由席がなくなり全席指定になる状況が発生する。今年の盆は8/9~8/18までの一週間余りが全席指定だった。私は山の日の代休である8/12に帰省したが、今年は1本早いひかりに間に合った。新横浜駅の新幹線乗り場は混雑していたので、その空いていたひかりに乗車。ただそのひかりは新大阪駅止まりで、私は姫路まで乗るので乗り継ぐ必要がある。新大阪駅は新幹線ホームが何本もあり、新大阪駅で乗り降りするのは久しぶりで迷ったが、私が通常乗る岡山行きのひかりとは約30分の時間差があったので、無事に乗り継ぎ出来た。

姫路から播但線で寺前まで行き、寺前から単線のディーゼル列車で実家のある竹田まで。竹田は近年、城ブームもあってか、城跡が有名らしい。私が小学生の頃は授業で城山に写生に行ったこともあった。当時はだだっ広い山頂に崩れかけた石垣があるだけで草ぼうぼうの人っ子一人いない場所だったのに、今は石垣も修復され道も整備されて夜にはライティングもされてるとか。


さてその実家だが、帰省してみるとTVのリモコンが動作しない。乾電池交換用の蓋を開けると盛大に液漏れしていた。蛇口の下に持っていき水洗いしたが、水が少し中に入ったようで、電池交換してもリモコンが動作しない。壊れた可能性もあるので、ネットで千円余りの互換リモコンを注文して、届け先を実家に設定。TV本体の電源ボタンは有効で、電源を入れるとNHK Gを受信した。

翌日に試みると乾燥したせいかリモコンが復活していた。そこで動作を色々試していると、地上デジタル放送が降雨状態のBS放送のようにブロックがボロボロ表示された後に画像が消えた。その後は全くダメで、初期設置設定を行っても信号を検出しない。BS放送は正常に受信し表示できるので地上デジタルチューナー部分が壊れたようだ。リモコンに地上アナログ放送のボタンがある古い機種なので仕方ない。

買い替えを検討して、ネットで調べると、4K TVが5万円弱で買えることが判明した。Hisenseという名前の知らないメーカーだが、実家のTVは映ればいい。自宅のTVにはHDMI端子につなぐ機器がSTB、PS4、PS5、BDレコーダー、4K BDレコーダーと多数あるので、HDMI入力端子4個でも足らないのに加え、高画質でゲームや海外ドラマ等を楽しみたいと思うが、実家には接続する機器はないし通常放送を見たいだけ。

到着したHisense 43E6Kは、HDMI端子3個、USB端子2個、画質も問題ない。ところが地上波をスキャンしてみると放送が検出できない。これはTVではなく信号に問題があるかもしれない。地上波の信号は実家のケーブルTVから来ている。そこで該当する部署に電話をかけて相談した。幸いその日のうちに担当者に実家まで来てもらい、信号強度を計測してもらうと、確かに低い値だった。原因はケーブルTVの中継器や分配器用の信号増幅器の故障で、それを交換してもらうと信号が検出できた。

勿論、古いTVも問題ないことを確認、そのTVは姉の家の甥の部屋に移動。私も設置を手伝った。まあ、安価な4K TVに買い替え出来たので、よしとした。

実家の床の間のエアコンも壊れていることが判明。詳しくは憶えていないが、30年程前に買ったものだろう。床の間のエアコンの使用頻度は低いので、買い替えずにそのまま放置。


YouTubeのゲームの攻略動画を見ていて、その際に表示される広告の一つに興味を引かれた。馬蹄型の首掛け式クーラーで半導体冷却という冷却方式だった。

高価ではなく1台6千円弱。ただ私が興味を引かれたのは半導体冷却という言葉だ。

ネットで半導体冷却を調べると、半導体冷却は一般的には電子冷熱と呼ばれ、原理は昔からある熱電対と同じで、物質の両端に温度差があるとその間に起電力が生じるゼーベック効果という現象らしい。ゼーベック効果は一部の半導体材料で強く発生し、電流を運ぶキャリアが電子のn(negative)型半導体とキャリアが正孔(ホール)のp(positive)型半導体を接続すると大きな起電力が得られるらしい。

n型半導体+金属+p型半導体を1つのユニットとして、それらを多数直列に接続してその両端に電圧をかけると、ゼーベック効果の逆の現象が発生して、金属の一方の端が吸熱状態になって金属のもう一方の端が発熱状態になる。これをペルチェ効果と呼び、その半導体と金属を組み合わせた素子をペルチェ素子という。

そしてペルチェ素子の吸熱反応を上手く利用したのが半導体冷却。ただ半導体冷却でも発熱状態がある、その処理はどうするのか。

そこで実際に半導体冷却の商品をネットで買い自分で使ってみた。

馬蹄型の首掛けクーラーは、馬蹄を首の後ろから通して首に掛ける。馬蹄の両端の内側にはそれぞれ吸入ファンがある。おそらくファンから取り入れた空気の一部は発熱部分にあてて冷却に使われ、残りの空気は吸熱部分にあてて空気を冷やして、両側に開いている穴から上向きに放出する。発熱部分の冷却を考えると熱風が何処かから吹き出してもよさそうだが、そんな感じはない。この廃熱処理をどう上手く実行するかが、技術屋の腕の見せ所なのかもしれない

学生時代に物理屋だった私は、基本的に機器の動作原理にしか興味がない。だから原理的な話しかしないのだが、技術系の人からは、現実はそんなに簡単じゃない、と怒られる。

なお私が就職後に物理屋からソフト屋に転身できたのは、物理の勉強で育てた数式を処理する能力をプログラミングに応用できたから。


さて、私的な物理テキストに入ろう。

次に取り上げるのは弦理論の専門書、私の蔵書から選んだのは次の本。

初級講座 弦理論 基礎編 B.ツヴィーバッハ著 樺沢宇紀訳 丸善プラネット 初版

この本の基礎編と発展編を持っているが、基礎編だけで索引を含め326ページある。一般相対論の本が128ページ、場の量子論の本が223ページと比べて厚い本だ。加えて弦理論は相対性理論や場の量子論に比較するとその数式が複雑で、理解するのが難しい。

ただ弦理論の本質的なアイデアはごく単純だ。相対性理論や量子力学や場の量子論は0次元の広がりを持たない粒子である点粒子を考察の対象とするが、弦理論では点粒子から1次元の広がりをもつ弦つまり"ひも"を考察の対象とするよう変更しただけ。

それでも理論は複雑になり、我々の宇宙に適用しようとすると超対称性や余剰次元を追加する必要が出てくる。

しかし現在までの様々な加速器実験でも、超対称性粒子と余剰次元の兆候であるKK粒子が発見されていないので、弦理論は机上の空論の域を出ていない。私自身も、素粒子を弦の振動状態だとする弦理論の発想は我々の宇宙では採用されていない、と考えている。


昔から理論物理学では様々な試みがなされてきた。以下にそれを挙げよう。

1. 空間次元の拡張
2. 対称性の拡張
3. 点粒子から広がった素粒子像への拡張

1.の空間次元の拡張は、アインシュタインがまだ現役バリバリの学者だった頃に、KK粒子の名前の由来であるカルツァ-クラインが4次元時空を5次元時空に拡張して、余った空間次元の1次元を円周状に小さく丸めることにより、重力と電磁力の両方をアインシュタイン方程式で記述できることを示した。4次元時空でも電磁場をアインシュタイン方程式の右辺のエネルギー運動量テンソルに含めることが可能だが、5次元時空を採用すると電磁力をアインシュタイン方程式の左辺の時空の曲率テンソルに含めることが出来て、小さく円周状に丸まった1次元空間が電磁力の対称性であるU(1)を表現するという意味だ。これは一種の修正重力理論とも言える。

アインシュタインは、カルツァ-クライン理論を興味深いという表現を使って好意を示したが、自身の理論には空間次元の拡張は使わなかった。

2.の対称性の拡張は、素粒子の対称性をSU(2)とU(1)の直積に拡張することにより、電磁力と弱い相互作用をまとめて扱えることをグラショウ-ワインバーグ-サラムが示した。そして電弱の統一理論はCERNの加速器実験でウィークボソンW^+,W^-,Zが発見されたことで証明された。その理論は私の子供時代に示され、実験は新社会人時代に行われた。

その後、対称性の拡張はU(1),SU(2),SU(3)を含む対称性SU(5)に拡張され電磁力と弱い相互作用と強い相互作用の3つの基本的相互作用を統一することを目指したが、その実験的証拠である陽子崩壊は現在に至るまで確認されていない。SU(5)で何故陽子が崩壊するかというと、SU(5)ではクォークとレプトンの入れ替えが可能となり、クォーク3個(uud)で構成される陽子の中の1つのクォークがレプトンに替わることによって陽子が崩壊する可能性が出てくるから。

岐阜県神岡町にあるカミオカンデは陽子崩壊を観測する為に建造されたが、アンドロメダ銀河の超新星1987Aで発生した高エネルギーニュートリノの観測で有名になった。その後、スーパーカミオカンデに拡張されニュートリノとともに陽子崩壊も観測対象とされているが、陽子崩壊の兆候はない。

電磁力と弱い相互作用と強い相互作用の3つ基本的相互作用の統一は大統一理論と言われ、さらに素粒子のボソンとフェルミオンを統一する超対称性理論が登場したが、CERN LHCの加速器実験でも超対称性粒子は発見されなかった。

この対称性の拡張には統一理論の拡張という意味もある。電磁力と弱い相互作用の統一である電弱統一理論が成功したので、夢よもう一度とばかりに統一理論をさらに拡大したのだが、実験や観測の上では電弱統一を除き全て敗退している。

3.の点粒子から広がった素粒子像への拡張が弦理論なのは明らか。空間次元の拡張は超対称性と合わせて11次元超重力理論となり、超弦理論、M理論、F理論と拡張されていった。これは空間次元と対称性と広がった素粒子像への3つの拡張が必然的に結びつく流れであったことを示唆している。しかしそれでも余剰次元も超対称性も広がった素粒子の兆候も実験や観測では確認されていない。

陽子や中性子は大きさつまり広がりを持つが、これらは複合粒子で素粒子ではない。素粒子であるクォークやレプトンには大きさはないとされ広がりを持つことを示す実験結果もない。


予想外の発見もある。天文学でのダークマターやダークエネルギーの発見がそれだ。

理論物理学ではダークマターもダークエネルギーも予想できなかった。だからその謎の存在は現代でも研究対象で、盛んな議論の対象になっている。実際に超弦理論ではダークエネルギーに相当する真空のエネルギーは超対称性により正確にゼロになると確信されてきた。そこで急遽、string landscapeやswamplandという発想が生まれたのだろう。科学もその時々の状況に対応する必要に迫られるのは世間一般と同じ。

数学とは異なり物理学では実験や観測の裏付けが必須となる。如何に美しく完成された数式であっても実験や観測で証明されなければ絵に描いた餅にすぎない。

その意味で理論物理学の3つの拡張手法は既に行き詰まっていると言えよう。勿論、今でも3つの拡張手法に執着した論文は多いが、それらは研究者の職や収入や研究費を維持する為の方策に過ぎないのかもしれない。人は誰でも若い頃に始めた仕事をそう簡単には変更できないから。

勿論、弦理論自体が間違っている訳ではないし、相対論や量子論を広がった物体にまで拡張することは理論的に興味深い内容を含んでいるのも確かで、より深い知的論理的パズルとしても面白い。

それに弦理論の教育的な専門書は、まず点粒子の相対論や量子論を説明した後に、その粒子の理論を弦の理論に拡張するという手法を取るものが多く、教育書の構成という点から見ても優れている。


さて、ではさっそく、このテキストに沿って勉強を始めよう。

この本の最初の章は、"第1章 緒論"。

ここでは弦理論の概要と歴史が書かれている。その内容は私がホログラフィー原理の記事で書いた内容と大差ないし、何よりこの章には数式がないので第1章は省略する。


次の章は、"第2章 特殊相対性理論・光錐座標系・余剰次元"。

そして、"2.1 単位系と理論のパラメーター"。

この単位系の話も退屈だが、一応、数式が含まれているので、その数式だけ簡単に順を追って説明しよう。

2.1の最初の数式は、

    [F] = MLT^-2                                                (2.1)

Fは力を意味しベクトルで、Mは質量(Mass)、Lは長さ(Length)、Tは時間(Time)。

[F]とは力Fの次元を意味する。この次元とは、4次元時空という際の次元ではなく、ある物理量が質量Mと長さLと時間Tにどう関係しているかを規定した表現だ。

例えばベクトルの特性を無視した速度Vは長さLを時間Tで割って得られる。だから[V]=L/T=LT^-1となる。

速度Vを長さLの時間Tによる微分と考えてもよく、同様に[V]=dL/dT=L/T=LT^-1。

加速度Aは長さLの時間Tによる2階微分だから、[A]=d^2L/dT^2=L/T^2=LT^-2。加速度とは長さLを時間Tで2回割った次元になる。

力Fは質量x加速度なので("x"は掛け算の意味)、[F]=M[A]=MLT^-2 となる。

なお力FはSI単位系ではニュートン(N)でkgm/s^2。kgはキログラム、mはメートル、sは秒。

次の数式は、

    |F| = |q1q2|/r^2                                             (2.2)

力Fはベクトル、q1とq2は電荷、rは2つの電荷を帯びた点粒子の間の長さ。これはガウス単位系で書いた電磁気学のクーロン(Coulomb)の法則だ。|F|は力の大きさで、q1とq2は+,-がつく電荷だかその積の絶対値(|q1q2|)は符号を無視するという意味。

ガウス単位系では電荷の単位はesu、長さrはcmで、力はdyne。1cm離れた1esuの2つの電荷の間に働く力が1dyne。1dyne=10^-5N。

|F|=|q1q2|/r^2を変形して|q1q2|=|F|r^2、この式をガウス単位系で書くと、

    esu^2 = dyne・cm^2 = 10^-5N・(10^-2m)^2 = 10^-9N・m^2          (2.3)

"・"は"x"と同じで掛け算。上の式を次元で表現すると、10^-9は次元のないただの数なので無視して、

    [esu]^2 = [N・m^2]                                            (2.4)

この式の√をとれば、電荷の次元が得られる。

    [esu] = √([N・m^2]) = √(MLT^-2・L^2) = √(ML^3T^-2)
          = M^(1/2)L^(3/2)T^-1                                    (2.5)

数式上、電荷をesuで表現したが、勿論、これらの次元はSI単位系やガウス単位系等の単位系とは無関係である。

SI単位系では電荷をesuではなくクーロン(C)で表す。またクーロンの法則も、

    |F| = 1/4πε0・|q1q2|/r^2  1/4πε0 = 8.99x10^9 Nm^2/C^2     (2.6)

と少し複雑になる。

あとここで追加すべき項目は、弦理論の唯一のパラメーターは弦の長さだけ、という指摘だろう。

以上で、2.1を終わる。


次は、"2.2 不変距離とLorentz変換"。

ここから点粒子の特殊相対性理論の説明が始まる。

一般相対論の本の私の追加説明でも触れたように、特殊相対性理論は光速度不変の原理から全ての内容が構築されている理論だ。光速度の速度という表現はベクトルではなくスカラーの意味で、光の速さという解釈が正しい。

光の速さc(c=3x10^8m/s=3x10^10cm/s)は全ての慣性系で同じで、それが光速度不変の原理だが、慣性系とは加速度がゼロで平坦な4次元時空を意味する。

4次元時空は時間座標tと3つの空間座標x,y,zにより指定され、まとめて(ct,x,y,z)と表現される。一般相対論の本ではc=1とする単位系が取られていたが、この本のここでは光速cを明示している。勿論、このxは掛け算ではなく変数。

一般相対論の本で紹介した上付き添字を使って、(ct,x,y,z)を(x^0,x^1,x^2,x^3)とし、μ=0,1,2,3の添字で示す。

    x^μ = (x^0,x^1,x^2,x^3) ≡ (ct,x,y,z)                        (2.7)

このx^μを時空座標という。

慣性系つまり平坦な4次元時空上のローレンツ(Lorentz)座標系Sで、ある時空座標x^μからΔx^μ離れた地点の座標をx^μ+Δx^μと表す。x^μとx^μ+Δx^μとの距離を不変距離(invariant interval)といい、その距離Δs^2を以下で表現する。

    -Δs^2 = -(Δx^0)^2 + (Δx^1)^2 + (Δx^2)^2 + (Δx^3)^2       (2.8)

数式を見れば各成分の2乗の和だが、時間と空間の符号が逆で、4次元時空上の距離という意味で定義してある。

あと一般相対論の本では、以下のように、

(dx^0)^2 - (dx^1)^2 - (dx^2)^2 - (dx^3)^2

時間x^0の係数が+で、空間x^1,x^2,x^3の係数が-だったが、この弦理論の本では、逆に時間か-で空間が+になっている。これは学者によりどちらを+にしどちらを-にするか好みが分かれるからだ。勿論、時間と空間で符号が逆なのは一致しているが、論文や専門書によっても記法が異なる。ただこの弦理論の本でも、-Δs^2とΔs^2の符号が-なので、(2.8)式の両辺に-1を書ければ、時間が+で空間が-と一般相対論の本と同じになる。


次になぜ不変距離と呼ぶのか?  その不変(invariant)の意味だが、ある座標系sつまりある視点から見た座標がx^μで、別の座標系s'つまり別の視点から見た座標がx'^μだったとしよう。

一般に、x^μとx'^μとは異なりΔx^μとΔx'^μとも異なるのだが、そのx^μとΔx^μとの間の距離とx'^μとΔx'^μとの間の距離は等しくなる。何故なら視点が異なるだけで同じ2つの時空座標の間の距離を対象としているから。それを以下の数式で示す。

    -(Δx^0)^2 + (Δx^1)^2 + (Δx^2)^2 + (Δx^3)^2 =
         -(Δx'^0)^2 + (Δx'^1)^2 + (Δx'^2)^2 + (Δx'^3)^2       (2.9)

または、

    Δs^2 = Δs'^2                                                (2.10)

これが不変距離の不変が示す意味となる。


次に時間的(timelike)と空間的(spacelike)という言葉を説明しよう。

その説明の前に少し脱線して、この弦理論の本ではlight-coneが"光錐"という言葉になっているが、私は"光円錐"で覚えているので、光錐には違和感がある。従って私の説明では光円錐を使う。またこの本のこの部分では時間的と空間的を説明するのに光円錐を使っていないが、光円錐を使った方が理解しやすいはずだ。

そこでまず光円錐を説明する。

4次元時空では空間がx,y,zの3次元だが、理解しやすくする為、3次元の直交座標を考えて、x軸,y軸で構成される2次元平面を空間と考える。そしてz軸にはctを置き時間を表現する。

x,y平面の中心点(x,y)=(0,0)を通って、z方向の時間軸ctが上下に伸びている図を想像しよう。最初に中心点(0,0)にあった点粒子が静止している場合、時間の経過とともにct軸の上を動いていく。

中心点(0,0)から光をx,y平面に放ったと考えよう。その光は光速cで円形を描いて周囲に広がっていく。光が広がる間も時間は進むので光を放ってごくわずかな時間しか経過してない時、つまり中心点(0,0)から時間軸ctをわずかに上がった点では光が到達した円は半径の狭い円だが、時間がたつにつれ、時間軸ctを上がり続けるとともに光が到達した半径も大きくなり広い円になる。つまり光が届く範囲は中心点(0,0)を頂点とした円錐を逆に置いた形になる。これが光円錐と呼ばれる所以である。

逆に過去から中心点(0,0)に集まる光を考えると、中心点(0,0)を頂点として時間軸ctの下方に広がった通常の円錐であることが理解できる。

中心点(0,0)を現在と考えると、現在を頂点とする2個の円錐が時間軸ctを中心軸として過去と未来に無限に広がっていることになる。それが光円錐。

ひとつの点粒子が描く軌跡は、光円錐の内部の曲線で表される。この曲線を世界線(world-line)と呼ぶ。

4次元時空での速度は光速を越えないので、過去から現在(0,0)に送られてくる信号は必ず下部の光円錐の内部の時空領域から送信されたもので、現在(0,0)から送信できる信号は上部の光円錐の内部の時空領域にだけ送ることが出来る。

この現在を基準点とする信号を送受信できる領域を時間的といい、それ以外の信号を送受信できない領域を空間的と呼ぶ。なお光円錐上は光だけが通過出来る領域であり、この光円錐を光的(light-like)と呼ぶこともある。


時間的に隔たった領域を数式で表現すると、光速が最高速度であるから、Δs^2>0であることが理解できる。それを時空の2点間の座標の差(=Δ)の成分で書くと、

    (Δx^0)^2 > (Δx^1)^2 + (Δx^2)^2 + (Δx^3)^2                 (2.11)

となり、また光的な光円錐上はΔs^2=0で、空間的な領域はΔs^2<0となる。

このように光が到達可能な距離として意味を持つのは時間的な領域だけで、時間的に隔たった領域では、以下の距離が定義できる。

    Δs ≡ √(Δs^2)  if  Δs^2 > 0 (timelike interval)           (2.12)

2つの4次元時空点の隔たりが極めて小さい場合を考えると、例えば点粒子の速度が長さの時間微分として定義できるように有用性が増す。そこで無限小の4次元座標の差をdx^μと表現すると、無限小の不変距離ds^2は(2.8)式から、

    ds^2 = -(dx^0)^2 + (dx^1)^2 + (dx^2)^2 + (dx^3)^2             (2.13)

と書くことができ、その不変性は(2.10)式から、

    ds^2 = ds'^2                                                  (2.14)

と表される。

この後は一般相対論の本で出てきた反変ベクトルと共変ベクトルを用いて、さらに点粒子の特殊相対性理論の内容が続くが、それは次回以降に説明しよう。