『高知に行ってくる』

その頃、親父はそう言って出ていくことが増えた。俺の中での高知のイメージは、鰹・・・鰹が多い。太平洋。四万十川。坂本龍馬・・・まぁごくごく普通なイメージだ。
ただ、組の構成員である親父が何度も出向くのは違和感がある場所でもあった。

その日俺は聞いた。

「最近、何しに行ってんの?」

『兄貴の彼女が高知に居るんだよ』

兄貴・・・あー、俺を拾ったけど親父(信)に丸投げした男(蓮)か。

次期組長の彼女・・・ねぇ・・・

「する事ないしついて行っていいか?」

その言葉に親父は了承してくれたのでついて行くことにした。まぁある意味イメージ通りの土地だった。空港はあるが小さいし、空港から市街地までの道はラブホだらけだし、まぁ田舎ってこういう作り方するよな。街中にラブホって感じじゃなくドライブコースに建てるみたいな。
ホテルのネーミングセンスに笑ったっけ。
「ピンクの子豚」とか「ホテル太平洋」とか。太平洋って、普通の旅館みたいな名前付けるなしww

蓮の彼女と言われる女の実家は市街地から車で2時間。こんな所に人住んでんのか?ってレベルの山奥にあった。

『ここで張り込む』

え?お前は面識あって行ってんじゃねえのかよ?何だそれ。張り込むって・・・

時間になりマジでガキみたいな女がふらっと歩いてどこかに行った。

(あいつ?)

って聞こうと思い親父の横顔を見た時、衝撃だったわ。何その愛しくて愛しくて切ない表情。仮面でも付けてんのかってくらい表情を変えない親父が切なそうな顔をしたあと、破顔した。

惚れてる・・・こいつは、自分の主の女に惚れてる。俺らの世界でそれが何を意味するか、どう転んでも悪い展開しか思い浮かばなかった。

その日はそれだけで帰り、それから何ヶ月か後に

『那津さんが高知に居座ると言ってる。兄貴は「俺は他にも若い衆居るし色々解るお前ついとけ」と言ってきた。梓は、どうする。』

即答で「行く。」と答えた。

那津が蓮の傍に居るよりも、高知に留まることを決めた?その理由なんてあの女以外考えられない。あいつも惚れてるのかよ?

俺が見る限り魔性の女にも見えなかったし、ごくごく普通の少女にしか見えなかった。それなのに何でこっちの主要メンバーが今やってる事も居場所も投げ出して夢中になってんのか不思議だった。
そしてあの少女が単に蓮と付き合ってるって感覚しか無いとしたら?此処で親父や那津が虎視眈々と狙ってる事を知らないとしたら?

誰の為にもならない。絶望へまっしぐらだろ。せめてまともな俺が客観的に傍観しつつ、何かあれば助けないとと思ってた。

この時はまさか俺まで惚れると思わなかったんだよな、マジで。


よし、とりあえず那津に戻す。