【浦賀和宏】彼女は存在しない | 夏衣優綺の活字中毒

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小説の感想や日常のつれづれをゆるりと発信するブログです☆

 

 

ミステリーを読む醍醐味といえば、

名探偵による謎解きだったり、

ソリッド・シチュエーション的な状況での人間模様だったり、

あるいは、散りばめられた伏線の回収だったり。

 

本当にたくさんの愉しみがありますが、

その中の一つに、ラストのどんでん返しがあります。

 

僕が住んでいる近所にイオンがあって、

そこに入っている書店によく行くのですが、

最近立ち寄った時も、『二重・三重の大どんでん返し!』

といった書店員さんのポップを見かけました。

 

 

いつも思っていることがあって、

小説って本当に売り込み方が難しいなって感じます。

 

たとえば、音楽であれば、

少し聞けば自分の好みに合うかどうか分かります。

 

映画やドラマにしても、

数秒の番宣で観るかどうか決められます。

 

 ・耳にすごく心地よい

 ・知らない俳優さんや女優さんだけどなんだか好みだ

 ・こんなドラマチックなシーンがあるならぜひ観てみたい

 

でも、小説はそうはいきません。

 

開いても文字しか書かれていないし、

漫画やCDのように

視覚や聴覚に訴えてくるものなど皆無です。

 

それに、2、3ページ読んだだけでは、

その小説が本当に面白いのかどうか全然判別がつきません。

 

結局のところ、内容とは別のところで

読むかどうかの判断を迫られます。

 

 ・表紙カバーの絵柄が素敵

 ・タイトルがいい

 ・帯の推薦文

 ・推薦している人が好き

 ・平積みしている

 ・文学賞を受賞している

 ・書店のPOP

 

どれも本文そのものではないのに、

けれども、そうしたものに頼るしかありません。

 

即時的な訴求力という点では、

他のメディアに比べるとほんとに切ないばかりだと思います。

 

 

この『彼女は存在しない』を見つけた時も、

僕は浦賀和宏さんのことをまったく知らなくて、

手書きのPOPに惹かれて手に取りました。

 

書店員さんの推薦文がやけに熱っぽく、

一体誰が読むんだというほどの小さな文字で、

この小説がいかに良いか書かれていました。

 

針金によって掲げられた頼りなげなそのPOPは、

紙面が足りないと言わんばかりの

文字で埋め尽くされており、それこそ、

読む煩わしさから却って避けられてしまうんじゃないかと

思うほどの熱の入りようでした。

 

僕は腰を屈め、じっとそのPOPを見つめます。

 

知らない作家さんだけど、

この人がこうまでして勧めるならちょっと読んでみたい。

 

そう思って、買って帰りました。

 

 

最初の方はどこか牧歌的で、

登場人物の幸せな日常が描かれています。

 

ですが、ある日突然、

彼氏が何者かに殺されたのをきっかけに、

物語は急転し始めます。

 

中盤辺りから展開は加速度を増し、

後半には完全に物語の中に引き込まれていました。

 

ラストに待ち受ける衝撃は途轍もなく、

息をするのも忘れるほどのめり込んでいて、

本を閉じる頃には唖然としていました。

 

どんでん返しと誇大広告を打ちながら、

読んで見ると大した仕掛けもないまま

終わる本も決して少なくありませんが、

この小説には本当にびっくりさせられました。

 

文章だけでこんなことが出来るんだって、

ひどく感慨深く思ったのを覚えています。

 

これからも、驚愕度という点で

これを上回る小説はおいそれとは出てこないような

気がしてなりません。

 

また同じような快感を味わいたくて、

どんでん返しと紹介された本を探すのですが、

これほどの衝撃にはなかなか出会えずにいます。

 

 

『ミステリ界注目の若き天才が到達した衝撃の新領域』

 

本の紹介文にこうありますが、心から同感です。

 

天才だし、衝撃だったし、まさに新領域です。

 

んー、またこんな本が読みたいなぁ。