地面に置いたバケツの水はまだ波打っていた。



バケツの縁に跳ね返る水の音がよく聞こえた。



二人は黙々と作業をしている。



気まずさと言うよりも二人の緊張間が伝わってくる。



手を繋いだトンボに仲間外れはいなくなった。



「よし!」



完成と共にソウが声を出した。



「…」



そこから先の会話はなかった。



那須はリーダーを見た。


リーダーは無意識なのか、ずっとソウを見ている。



ソウもその視線に気づいた。



ソウがニコっと笑いかけた瞬間にリーダーは我に帰った。



「あっあせるあのあせる完成したね!」



「うん」



「これはあせる最後にあげるの?あせる



「そう!バツが大好きな花火だからな!」



「そっかあせる



「リーダーの花火は?」



「えっあせるあっあせるこれ!」



リーダーは袋を差し出した。



「線香花火結構買ったな!」



「うんあせる



「みんなが来る前に一つやろうよ!」



「え?あせる



「ダメ?」



「いいよあせる



「先に落とした方が負けな!」



「うん!あせる



「那須もする?」



「私は審判する!」



「よーし!リーダー準備はいい?」



「うん!」



「じゃあロウソクに火つけるよ!」



地面にさした着火用のロウソクに火が灯った。



二人は対照的な動きでロウソクの火に線香花火を近づけた。



「せーの!」



そういうと二人の線香花火に同時に火がついた。


二人はロウソクから線香花火を離した。



二本の儚い菊のような明かりに三人は集中した。


「綺麗…」



思わず那須は呟いた。



菊のような明かりから柳によく似た明かりに変わった。



二人は明かりを落とさないようにじっとしている。



その時少しの風が吹いた。



「あっ!」



「リーダーの勝ち!」



風でソウの明かりは落ちて消えた。



リーダーの柳は力はなくとも一生懸命に咲いている。



「ソウ?」



ソウがリーダーの線香花火に風があたらないように壁になった。



風の方角からみて、ちょうどリーダーと向かい合うような形だった。



二人の顔は淡い光に照らされている。



ソウはさらに手で線香花火を囲った。



二人は少し顔を見合せて笑いあった。



「いい雰囲気…」



那須は頭の中でそう思った。



今二人にとって、沈黙なんてどうでもよかった。



一緒にいれる事を楽しんでいるようだった。



そして線香花火はそのまま見事に咲ききった。



「すげー!最後まで落ちなかったな!」



「綺麗だったね!」



「さすがリーダー!」



何気ないソウの言葉だったがリーダーは照れくさそうだった。



ちょうどその時、那須のポケットが震えた。



ポケットの中の携帯を見る。



バツからのメール。



「いい感じじゃんべーっだ!



那須はそこから少し遠くに見える病室を見た。



部屋の明かりでシルエットだけだったがバツが覗いていた。



線香花火の明かりでこちらが見えたようだった。


「とってもチョキ



那須は返信のメールを打った。



「那須、半笑いで気持ち悪いぞ」



「え!?」



ソウに突っ込まれて気づいた。



返信のメールを打ちながら自然に笑みがこぼれていたらしかった。



「バツからだろ」



「なんでわかったの?あせる



「お前がニヤケるのはバツしかいないからな!」



「そんな事ないよあせる



「ふーん」



「バツくんこっち見てるって!あせる



「え?」



そう言って三人は病室の窓を見た。



シルエットはしっかりこっちを見ているようだった。



ソウはバツに手を振った。



部屋の明かりのシルエットは手を振り替えした。



「あれ!?早いじゃん!」



クラスの男子が何人かでやってきた。



「間に合ったー!」



「姉さん!」



「はい!これ!」



姉さんは一杯に膨れあがった袋を二つ差し出した。



「うわ!ジュース!」



「重かったでしょ!?」



「マルが持ってくれたから」



久しぶりの登場だが、マルは同じクラスで姉さんと付き合っている。



「それとこれ」



もう一つの袋にはバーベキューの網、ロケット花火、手持ち15連と書いてある花火、そして吹き上げ花火がたくさん入っていた。



「これどうしたの?」



「マルの家にあったんだって!」



「すげー!マルありがとな!」



「よーし!みんな揃ったなー!」



それぞれが手持ち花火を持ち出した。



姉さんはロケット花火を大量に取り出した。



よく見るとロケット花火は手を繋いでいる。



マルがバーベキューの網を用意した。



そして慣れた手つきでバーベキューの網に一本一本ロケット花火をさした。



作業を終え、みんながソウを見た。



「それでは今から花火大会を初めます!」



那須はメールを打った。


「バツくん、始まるよ」



病室のシルエットが携帯を見た。



その瞬間、すごい数のロケット花火が独特の音と共に空に向かって飛んでいった。



「すごーい!」



「凄かっ…」



那須がリーダーに話しかけようとした時、リーダーはソウの腕に捕まって空を見上げていた。



そしてグランドはハイテンションの拍手で一杯になった。



「吹き上げ行くぞー」



「手持ち花火やろーぜー!」



「マル!15連ぶっぱなせー!」



いろんな声があがった。


リーダーとソウは同じ空間にいる。



今私にできる事は…



そんな事をふと思った時。



「ほら」



姉さんが手持ち花火のセットを持ってきた。



「リーダーとソウに」



「え!?」



そう言うと姉さんは近くでハシャイでいる男子に言った。



「向こうで手持ちやるからこっち向けるなよ!」



「了解ー!」



姉さんの一喝で男子達はすぐに納得した。



姉さんが戻ってきて少し笑って



「手伝うよ」



そう言った。



姉さんは知っているようだった。



二人の事を。





那須が手持ち花火を二人に渡した。



1、「一緒にやろうよ!」


2、「姉さんから二人にって!」


3、「私はバツくんに電話してくる」




リーダーとソウがうまく行くようにコメントで選んで下さい。多数決です。それぞれのストーリーがあります。