「君はなんでここにいる?」
 基地に帰ってくるなり景山は口を開いた。
 「私も鹿児島の市電からある物を預かった」
 杉本は机にある宝石と三日月パーツを指さした。
 「鹿児島の市電って誰?江ノ電電車って?」
 三神が話しに割り込んだ。
 知らんぷりする景山。
 ムッとする三神。
 ものすごい露骨。やっぱり電車とは仲良くなるのは無理だ。
 「鹿児島の市電は鈴木。江ノ電電車は田中。二人とも国連のエージェントでスパイだった。彼らはカルト教団とある企業を調査していてその過程でその遺物を手に入れた」
 桑名は説明した。
 「初耳だな」
 それを言ったのは志村である。
 「自衛隊や米軍には言っていない。政府内だけだ」
 はっきり言う桑名。
 「彼らが調査していたのはカルト教団「星の智慧派とゼウスグループという企業だ」
 小角が重い口を開く。
 「バカな。星の智慧派は六十年前に壊滅したハズだ」
 いきなり割り込む和田。
 「だが誰か復活させた。教祖はウエイトリー・ウイルパーだ。彼も八十年前のダニッチ村事件で死んだが誰かがクローン再生をしたようだ」
 桑名が説明する。
 「そんなバカな」
 言葉を失うリリス。
 ウイルパーといいダニッチ事件は自分の祖母たちが壊滅させた。
 「その技術を研究しているのがゼウスグループなんだ。佐藤からもらった物はそれだけでなく地図も入っていた」
景山は地図を出した。それはなんのへんてつもない世界地図である。地図にはどこにも属さない言語でなにか書かれている。
おもむろに阿部は青い宝石を虫眼鏡のようにのぞいた。
長島もつられてのぞいた。
芥川ものぞく。
「クリスタルがあるのはこの洞窟だって」
芥川が地図を指さした。
「浜松市?」
ため息つく志村。彼は青い宝石をのぞく。しかしどの言語にも属さない言語で書かれて読めない。
「俺にも見せろ」
大和は志村から青い宝石をのぞく。
そこには謎の言語が崩れて日本語になっていく。
「おもしれえな言葉が訳される」
ニヤニヤ笑う大和。
三神ものぞいてみる。
見知らぬ言語が自分の知っている英語やロシア語で組み立てられ日本語になる。
「わかるのか?」
景山と桑名が口をはさむ。
「なぜかわからない。知らない言語が日本語になっていくの」
戸惑う阿部。
どうしてそうなるのか理解できない。そういう仕掛けがずっと昔から施されているとしかいえない。
「浜松市にある竜ヶ岩洞の今まで知られていない場所にあるって地図の言葉がそう言っているんだ」
芥川が言う。
 「何かあったら困るから発信機を持って行きなさい」
桑名は発信機を渡した。
「じゃあその言語がわかった者同士でそこへ行くしかないだろう」
小角は言った。

竜ヶ岩洞。
赤石山脈の支脈に位置する標高三五九・一キロの竜ヶ岩山にあり洞窟を形成する石灰岩は二億五千万年に生成された秩父古生層と呼ばれる地層で形成されている。総延長一キロのうち四百メートルが一般公開されている。
洞窟近くのバス停にバスが止まった。バスから降りてくる三神、大和、長島、杉本と阿部、芥川の六人。六人とも街のどこにでもいるようなラフな格好である。彼らは入洞料を払うと洞窟に入っていく。
「僕・・・洞窟は苦手だなあ」
嫌そうな顔の長島。
何が嫌いってこの壁がせまってくるような閉塞感だ。
「我慢するしかないですね」
杉本は半分あきらめの顔で言う。
自分もこの閉塞感は嫌い。
「これなんかワニそっくり」
芥川は無邪気に笑う。
指さした鍾乳石はワニの形をしている。
「これなんかタケノコみたい」
阿部が足元にある鍾乳石を見て言う。
鍾乳石が四つタケノコのように伸びている。
「この青い宝石がはまる鍾乳石なんかあるのか?」
三神は青い宝石を見ながら言う。
とてもあるように思えない。
大和は周囲を見回す。
しばらく行くと大和は立ち止まる。その鍾乳石の中央にくぼみがある。
「これじゃないか?」
大和は指さした。
阿部たちはのぞいた。
その鍾乳石は聖母マリア像にそっくりである。いや本当に手をくわえたように教会にあるようなキレイな像である。
パンフレットにあるマリア像鍾乳石を見比べても明らかに違和感がある。
「やっぱり帰った方がいいんじゃない?」
心配になってきた三神。
この謎の地図も怪しい。
「でもここからクリスタルの声がする」
芥川が口をはさむ。
「じゃあはめこんでみよう。何も起こらなかったら帰る」
三神は言い聞かせるように言うと青い宝石をマリア像の胸にはめた。その象のかたわらに扉が現われた。大和はその扉を開けた。入口は光り輝いている。
三神たちは互いに顔を見合わせるとその中へ飛び込んだ。その部屋は教室がすっぱり入りそうなほどの部屋である。しかし壁には古代エジプトのような壁画がびっしり描かれている。絵の感じがエジプトに出てくる感じに似ている。部屋の中央の祭壇に水晶の結晶が安置されている。
「この壁一面に書かれているのは太古の戦いの様子だって」
芥川は”声”に従って壁を触る。
「わかるの?」
驚く長島と杉本。
「声が話しかけてくるの」
阿部が反対側の壁を触りながら言う。
「太古の昔。邪神が地球に降りてきた。そしてそこにいじゃた古のものと戦争になった。彼らは自身の持っている科学を持って抵抗。負けはしたがこれを撃退した」
芥川は壁を触りながら説明する。
「そして同じくして太古の昔に邪神を追って来た者たちがいた。次世代ミュータントの祖先である彼らは地球人たちに文明を教え邪神との戦い方を教えた。彼らは世界から違う世界へ渡り歩きそれを教えた」
阿部は説明した。
「なんか教科書と違う」
反論する杉本。
「図書館にもないよ」
つけくわえる長島。
黙ったままの三神と大和。
「邪神を追って来た彼らは同じく世界から世界を渡り歩いてはその世界にある惑星を飲み込んで支配する生命体を追って来た。
その生命体の名前はロイガー族である。彼らは紫色の実体のない高度精神体である。別の世界に十人。この世界には三人いる。彼らから地球を守りなさい」
芥川がトランス状態で言う。
「相手は宇宙人ってこと?どうやって戦えって言うんだ」
ため息をつく三神。
今の地球の科学力では無理だろう。
正気に戻る芥川。
阿部は水晶をバックに入れた。とたんに元の洞窟に戻った。
「あれ?」
戸惑う大和たち。
「あの部屋は存在しなかったんだ」
長島は辺りを見回す。
さっきの扉もなくマリア像も教会にあるようなものではなくなんとなくマリア像に似ている鍾乳石になっていた。
「基地へ戻った方がいいな」
三神は言った。
ー一時間後ー
待合室に入ってくる桑名と小角。
部屋にいる三神たち六人が振り向く。
「今からTフォース本部へ行く。君らに見せたいものがある」
桑名は手招きする。
彼らは二人のあとについていく。
黙ったままの三神と大和。
Tフォースの本部は国連ビルとアーカムにある。アーカムはマサチューーセッツ州エセックス郡に属しインスマスやダニッチにも道が通じている。昔は貿易で栄えたが現在では繊維工業が盛んである。また旧支配者や魔術に関係する研究する機関であるミスカトニック大学が存在する土地でそのそばに基地があるのだ。
彼らはいくつかの部屋を抜けて倉庫へ出る。倉庫にはコンテナが山積みになっている。
「今から見せる所はもう一つの本部だ」
桑名はそう言うとテレポート台に乗った。
三神たちも互いに顔を見合わせながら乗る。すると青白い光に包まれて消えた。次の瞬間現われたのはどこかのロビーである。そこには世界各地の軍隊の兵士や魔術師、Tフォース隊員たちが忙しく行き交っていた。
「ここは?」
三神はたずねた。
「ここはエリア51だ。我々Tフォースは魔物、邪神とそれを復活させようとする者達を取り締まる他にエイリアンも監視するんだ」
桑名はニヤリと笑う。
「だって宇宙人なんてガセネタでしょ」
長島が言う。
「実は存在する。ロズウエルや甲府事件。そして相次ぐUFO目撃事件。あれはエイリアンを見たという目撃例はたくさんある。エイリアンの存在を知っているいるのは政府上層部と国連、Tフォース、魔術師教会だけ。邪神ハンターや魔物ハンター、魔術師もその存在を知らせてある」
小角は説明した。
「そんなバカな」
言葉を失う杉本。
SF映画でよく出てくる場所が実在するとは初耳だ。
「ここと俺はなんの関係もない」
しゃらっと言う大和。
「来れば君にも関係があるんだ」
桑名はピシャリと言う。
彼らはロビーを抜け地下へ続くエレベーターに乗る。エレベーターは高速で降りていく。
「早いな」
感心する三神。
どのエレベーターよりも早い気がする。
ドアが開いて部屋に入る。
「次元ブリッジの中に我々はいる。あのクリスタルの部屋も次元ブリッジの中にあったんだ」
小角は言う。
「空間をつなげる魔術かそれとも自分であれがやっているのか」
声を低める大和。
速水から聞いたことがある。あいつも次元ブリッジを造り出すことができた。
部屋の中心におしゃれな酒場によくあるジュークボックスのようなものがある。高さは五メートル。音楽やネオンサインを出す中央部からぬうっと出てくる女性の上半身。青白く光沢がある。
大和はおもむろに女性に触る。
まるで硬質ゴムを触っているかのようだ。女性に見えるだけである。
三神たちはそれ以上近づかない。
どうやら彼女は精神体に近いものなのだろう。ジュークボックスに見えるのはどうやら入口と入口を結ぶものだろう。
「ファンタム。要所要所、歴史の合間に出てくる生命体だ」
桑名が言う。
「クリスタルに選ばれた者たちよ。よく来た。戦艦大和。巡視船「こうや」君らは邪神と戦わねばならぬ。そしておまえたちも協力して戦わねばならない」
ファンタムは厳かに口を開く。
「本当にそんなことできるのか?」
三神は疑問をぶつけた。
相手は高度知的精神体である。どうやって戦うのか?
「なんで俺を選ぶ?」
大和はドスの利いた声で言う。
ファンタムは両手を高く差し上げた。
彼らの前にホログラム映像がうつしだされる。それはどの3D映画よりもリアルで映像の中に自分たちは漂っていた。
自分たちがいつも読む新聞が出てきた。
”世界各地で大型の魔物現る”

”各国都市壊滅”
”タコに似た生命体出現”
第一面にその文字が躍る。そしてビジネス雑誌がでてきて”世界の終わり”という文字が踊っている。
そして邪神を見て見物する人物。
「あの人・・・ゼウスグループの社長の御曹司よ」
指摘する阿部。
「確かリチャード・マークスっていう名前で社長に孤児院で拾われた人だろ」
三神がふと思い出す。
確か社長には息子がいなくて娘ばかり。会社を継いでくれる息子がほしくて孤児院へ言ったのである。そうでなくてもゼウスグループは医療、製薬会社、不動産、工場、軍事工場など世界中に会社を持つ大企業である。三菱や東芝、日立についで日本でも有名だ。
その御曹司の姿が歪み崩れ、紫色の実体のない精神体に変わる。赤く光る目に紫色の半透明な体に濃い紫色のまだら模様がある。その生命体は鮮やかに装飾されたUFOに乗って去っていくという映像になった。
「おいファンタムとやら。俺になんか関係があるのか?」
つっけんどうに言う大和。
とたんに場面が変わり広島の街が映る。それも今の原爆ドームではなく原爆ドームになる前の建物になりビル群ではなく昔の家々が立ち並ぶ戦前戦時中の姿になる。そこから港が映し出された。戦時中は自衛隊の基地ではなく旧日本海軍の基地だった。そこの呉工廠に大和型戦艦がドック入りしている。
戦艦大和の周りに古賀峰一連合艦隊司令長官や有賀艦長の姿や警備の日本兵の姿が見えその兵士に交じって黒ずくめの魔術師が数人いる。桟橋から艦内へ入る速水誠少尉。そしてまばゆい閃光と光とともに合体した。
大和に旧日本海軍の幹部たちは米軍は敵であると教えていた。そしてトラック島では嫌がる戦艦大和を無理矢理ドックに閉じ込め何かを艦内に埋め込む改造をしていた。ドックのそばで黒ずくめの魔術師がいて彼らが呪文で大和を押さえつけている。そのかたわらで旧日本海軍の将校と一緒にあの御曹司もいた。
場面が変わり米軍のミュータントたちと戦う戦艦大和。そのパワーでミュータントたちを蹴散らしていた。
黙ったままの大和。
暴れだしたら止まらない大和に近づく葛城裕子。一人の巫女の前におとなしくなる大和。
戦艦大和を支配しているのは戦艦大和の法で速水は意識の奥でほとんど閉じ込められていた。
敗戦が濃くなり旧日本海軍の艦船も沈められることも多くなり栗田艦隊のなぞの反転と言われた影に黒ずくめの魔術師の指示で反転していく艦隊。ミュータントだった戦艦武蔵は米軍のミュータントと邪神ハンターにやられてコアを抜かれて沈んでいった。
また画面が切り替わると沖縄特攻で出撃する大和の部隊が映る。米軍の空襲にさらされる部隊。そして米軍機のあとに待つのは米軍のミュータントたちである。持てるパワーのすべてをぶつける大和とミュータントたち。死闘の末に大和はコアを抜かれて沈没。雪風はそのコアをこっそり拾って他の残った艦船と一緒に帰っていった。
だまったままの大和。
「ファンタム。なんで俺が選ばれたんですか?」
三神が口を開いた。
ファンタムが三神の方を向いた。
映像に十二才の三神少年と会っている老人。
が映る。老人は三神少年のおじいさんである。
 名前は三神茂という。場面が変わり茂老人は邪神ハンターである。世界各地へ飛んでは邪神復活をもくろむ者たちと戦い魔物と戦い呼び出した下級邪神やアラジンに出てきそうなランプの魔人を倒していた。六十年前に復活しそうになった邪神クトウルーと戦って倒して元の世界へ戻していた。でも彼一人だけで倒しているのではなく仲間が常にいた。
 「あれは僕のおじいさんだ」
 長島が茂老人のそばにいた人物に気づいて指をさした。
 阿部も殺人事件のニュースを見て誰だかわかった。ニュースでは白髪だったが顔立ちは若くても変わらない。
 「あれは私の曾祖母だ」
 杉本が指摘する。
 長島の祖父の隣にいるのは自分の曾祖母である。彼女は客船と合体していた。
 「よくわからないけど僕たちは”つながっている”と思う。だから選ばれた」
 芥川は口を開いた。
 難しいことはわからない。教科書に乗っていないことだらけで混乱しそうだけどこれらはすべて”つながり”があるのだ。
 「俺たちがやんねえと他に戦える奴がいねえってことか」
 大和は何かを決めたように顔を上げる。
 一度死んだのに雪風のきまぐれで自分は蘇った。他にやることは思い当たらないから邪神退治も悪くない。
 「だけどどうやって邪神なんかと戦うんですか?」
 三神がたずねた。
 「心配するな。おまえさんのおじいさんが残した武器がある。ファンタムからもらった武器がある。そして大和。おまえさんにもあるんだ」
 今まで黙っていた桑名は口を開く。
 ファンタムはうなづくとジュークボックスに似た扉の奥へ消えた。
 「来い。渡すものがある」
 小角は手招きする。
 彼らはさっきのエレベーターに乗った。
 数秒後。どこかの倉庫へ着いた。
 「三神。これが君のおじいさんが着用していた物だ」
 桑名は両腕に装着するタイプの篭手や眼とレットを渡す。
 「大和。葛城家に伝わっているものを渡す」
 小角は箱を渡した。
 大和は箱を開けた。中には胸当てや篭手が入っていた。
 「おまえさんたちはこれだけだ」
 桑名は杉本や長島に腕輪や指輪を渡す。
 長島と杉本は指輪や腕輪をしてみる。
 「大和と三神以外はロビーで待機だ」
 桑名は笑みを浮かべる。
 「ついて来なさい」
 小角は長島たちを連れ出して倉庫から出て行く。四人が出ると扉が閉まった。
 「ファンタムが次世代ミュータントを選ぶ理由はな。人間やミュータントではどうしても限界があった。だから我々を選ぶ。それを着けたらある物を見せてやる」
 桑名は重い口を開く。
 三神と大和は深くうなづくと装備を身に着けた。せつな三神の腕や二の腕にプラグが食い込み奥へ入っていく。火であぶられるような痛みにくぐくもった声を上げて床に転がる三神。両腕から緑色の液体がしたり落ちる。
 大和にも異変が起こっていた。何か冷たいものが体内を突き上げプラグやコードが入っていく。
 大和の脳裡に米軍のミュータントと戦って何度も砲撃をくらってコアをえぐられるそんな映像がよぎる。あのむなしい気持ち。くやしい気持ちは忘れられない。彼は胸をかきむしり床に倒れた。
 「ぐはっ!!」
 大和は口から緑色の液体を吹き出す。
 二人の体内から肉が割れ、骨がきしむような耳障りな音が響く。大和は胸やのどをかきむしりながら叫び声を上げた。
 
その頃。小角たちは別の小部屋にいた。
「クリスタルをこの台に置いて」
小角は嘱台をさした。
阿部は指示どうりにクリスタルを据えつける。クリスタルが淡い輝きを放つ。
阿部たちの脳に直接声が響く。
”あの電車からもらった地図は張古代遺物を示すものである。それを狙う者たちから守るのが役目である”
その声は男性の声だ。ファンタムの声ではない。
「私たちに選択権はないんですか?私は家庭もあるし仕事をやめるのは難しい」
思わず反論する杉本。
まだ子供が中学生と小学生がいてまだまだかかる。おまけに仕送りしないといけない。
「僕だって生活がかかってる」
困惑する長島。
急にはやめられない。
「それなら心配するな。大和はともかく三神と君らは呼び出しがあったときに基地へきてもらい仕事をしてもらう」
小角はフッと笑う。
「でもそんな受け入れられるものでもないよね。いきなり連れて来られたからね」
杉本は思ったことを言う。
うなづく長島。
「そうよね」
納得する阿部と芥川。
考えてみれば自分たちも巻き込まれるとは思ってなかった。
「日本支部の本部はこことここだ」
小角はホログラムに出す。映像に日本地図が出て赤い点が示される。
「茨城の百里基地と神奈川の妙見市の自衛隊の補給廠である。電車で行かなくても呼び出しがあればファンタムが空間をつなげてくれる。これがクリスタルゲートのある場所だ」
四人とも映像をのぞきこむ。
「へえ。東京駅の銀の鈴ってあれはクリスタルゲートだったんだ」
驚きの顔をする芥川。
「クリスタルゲートってけっこうあるのね。魔術師や隊員が各地にいることを考えれば当然ね。オブジェになっていたりシンボル的なものの奥に隠れているのね」
阿部はつぶやくように言う。
「これが鍵。持っているだけでいい」
小角はペンダントを阿部に渡す。
芥川、杉本、長島の三人にキーホルダーを渡した。ペンダントもキーホルダーも小さなクリスタルがついている。三人は携帯電話にくっつけた。

何時間たったんだろうか?
三神は目を覚ました。しかしそこは倉庫である。かたわらに大和が倒れている。
「気がついたか?三十分倒れていただけだ」
桑名は三神のてを引っ張り立たせる。
三神はそでをまくった。篭手や眼とレットっがなくなっている。
「君らが装着したものは体内に組み込まれた。クリスタルに選ばれた者だけに反応して少々改造をくわえるように出来ている。君のじいさんはその武器を置いて行方不明になった」
桑名は説明する。
いきなり跳ね起きる大和。
「そういう便利なものなのか」
大和はうれしそうに言う。
大和の電子脳の片隅に現在の体内の状況と周囲の情報が入ってくる。
「おもしれえ」
「おまえさんは旧日本軍の周波数を使わなくても通信できるようになっている。二人とも新たなパワーがくわわったはずだ」
小角は言う。
うなづく三神。
巡視船なのは変わらない。その代わり武器が魔光弾に変わっている。魔光弾は別名魔弾銃と呼ばれ魔物ハンターや魔術剣士が使う武器でさまざまな魔術効果を詰めた専用武器のことをいう。これを装備するのは魔物ハンターや邪神ハンターと魔術剣士だけだ。
 満足げな顔の大和。
 「では見せたいものがある。そこでは阿部さんたちも合流することになっている」
 桑名は言った。
 三人は倉庫を出ていくつかの部屋を抜けて階段を上がり司令室のそばを通り別の部屋に入った。その部屋は何かの観測室になっているのが巨大な望遠鏡があった。
 望遠鏡のそばに阿部、芥川、杉本、長島の四人と小角がいる。
 「ここは観測室だよ。私はシド・オルバスよろしく」
 五人のそばにいた米国人が名乗った。
 「あのノーベル賞候補のシド博士だよ。なんかの雑誌で見た」
 三神はつぶやいた。
 数々の論文を出していてノーベル賞にもっとも近い男と言われている学者だ。
 「いやそれほどでもないよ」
 後ろ頭をかくシド。
 「君らには見てもらうのはこれだ」
 シドはそこにあったテレビをつけてCDを入れる。
 画面に南極のオーロラが映る。緑色の光の帯が夜空を彩る。
 「オーロラだ。キレイ」
 無邪気に笑う芥川。
 場面が変わって今度は黄金色の帯が映っていた。
 「これもオーロラ?」
 長島がわりこんだ。
 「これは”亀裂”だよ。バミューダトライアングルにおもに現われるんだ。これに飲み込まれると船舶や航空機は行方不明になり二度と帰ってこない原因がこれ」
 シドが重い口を開く。
 「ファンタムはこの亀裂を通ってやってきた。それがロズウエル事件の真相だね」
 シドがしゃらっと言う。
 「ええええ!!」
 三神たちは驚きの声を上げた。
 「大昔からクリスタルとの接触は報告されていた。でも本格的な接近遭遇は初めてだった。それまでは声だけだった。例えば聖書エレキゼル書の供述は宇宙人遭遇やファンタムとの接触を描いている。昔の聖人と呼ばれる人々はファンタムやクリスタルと接触していた可能性があるのだ」
 シドは望遠鏡の周りをくるくる歩きながら説明した。
 「それは解釈にすぎない」
 はっきり否定する杉本。
 「都合よくないですか?」
 長島がつけくわえる。
 「ノストラダムスもその”声”を聞いてあの本を書いた可能性があるのだよ。彼らは何らかの形で接触してきた。それだけはいえる」
 シドは報告するサラリーマンのように言う。
 「あの亀裂の向こうはどうなっている?」
 大和が話を切り替えた。
 「ファンタムに言わせると別の世界がある。そこにはもう一つの地球があったりする。でも世界は一つだけでなくさまざまな世界が存在する」
 桑名がモニターに映る亀裂を見ながら言う。
 「えっ?」
 「さまざまな世界では次世代ミュータントのことを機械生命体と呼んだり別の世界では共生種と呼ばれていたりする。そして邪神と戦うための組織があったりする。次世代ミュータントの先祖は旧神と一緒にやってきてそこの人々に邪神との戦い方を教えたようだ」
 小角は複雑な顔で説明する。
 「僕たちの先祖はエイリアンだったんだ」
 思わず声に出す長島。
 「なんだか信じられないよ」
 杉本は戸惑う。
 「そうかもな。人類がサルから進化したのを考えれば俺たちは何から進化したのはずっと不明だった。ずっと遠い昔にやってきたエイリアンと考えればわかるような気がする」
 三神はうーんとうなりながら納得した。
 「君たちはもう一人の仲間をくわえてはじめてチームといえる。もう一人は和田保安官なんだ」
 桑名は写真を渡す。
 「え?」
 「あんな落ちこぼれでも役に立つぞ」
 小角は言った。
 
 
 

新宿駅。
 TR、私鉄、地下鉄の多くの路線が周辺地域を結んでおり多くのビジネス客が利用する。また駅周辺は日本最大の繁華街、歓楽街となっており、昼夜を問わず人の流れが絶える事はない。JRの駅を中心に東、西、南口周辺の各地下鉄駅、商業施設など通路、地下街などで広範囲に連絡しているマンモス駅である。
 小田急線新宿駅のホームに轟音を立ててと急ロマンスカーが滑り込んだ。白地に赤のツートンカラーで一階が展望室で二階が運転室になっている。ロマンスカーが止まると乗客がいっせいに降りていく。
 それは少し離れたJR線や他の私鉄のホームでも普通に乗客は降りている。
 その時である獣の咆え声が響いてどこか遠くで爆発音が聞こえた。獣の声はだんだん大きくなり近づいて来た。
 「魔物が来たぁ!逃げろ!!」
 乗客の一人が叫ぶ。他の乗客たちも我先に逃げ出した。ホームからいなくなるのに三十分もかからなかった。
 「そこのロマンスカー10000系。魔物の襲来だ!!」
 隣りのJR線ホームからジャンプして小田急のホームに飛び込んでくる中央線、山手線湘南新宿ラインと成田エクスプレスの電車。
 ロマンスカーの展望室の窓に二つの光が灯りライトが光った。そして緑色の蛍光に包まれて十一両から三両に減った。電車のミュータントは自在に車両の数を減らしたりすることが出来た。JR線から来た中央線201系や湘南新宿ライン線電車、山手線、成田エキスプレス電車も三両である。
 それにこの四編成の電車と合体するミュータントの名前だって知っている。中央線201系が結城一という人で電車、機関車、車、トラックで構成される自警団のリーダーをしている。湘南新宿ラインが三田村。山手線が津村、成田エキスプレスが岡本という名前でリーダー以外は魔物ハンターである。
 高架橋や駅ビルをよじ登ってホームに入ってくる熊やサイ。しかしただの熊とサイではなかった。体長は三十メートルで足が六本あるという魔物だった。そんな魔物が五匹地響き立てて近づき見下ろした。
 「名前は?」
 リーダーである結城が聞いた。
 「杉本亮」
 ロマンスカーはよく通る声で答える。
 五匹の魔物から触手が伸びて互いの体がくっつき合体してポリプ状の魔物になっていく。
 ポリプ状の魔物が咆え丸太よりも太い蝕腕をなぎ払った。ホームの屋根が舞い線路に落ちた。
 「逃げろ!!今なら結界の中へ入れる!!」
 結城は車体から銀色のバスーカーを出しその本体と車体の床下機器とプラグでつなぐと精神を振り向けた。青白い光線が一気に放出され魔物の体を貫通した。
 魔物はふらついたが口から紅蓮の炎を吐いた。
 杉本は車体からいくつもの鎖を出してそれをバネのようにしてジャンプしてかわす。
 丸太より太い触手がいくつも振り下ろされた。五編成の電車たちは線路にたたきつけられた。魔物は三田村をその触手でつかみ先頭車両にかみついた。
 「三田村!!」
 津村、岡本は呪文を唱えた。力ある言葉に応えて炎の玉と凍りの槍が魔物に命中。しかし魔物は三田村と合体する湘南新宿ライン電車の床下機器を食いちぎりコアを取り出して飲み込んだ。魔物はゲップをするとその電車を捨てた。
 「こうなったら自分のコアと引き換えだ」
 結城は叫んだ。・
 魔物が咆えて触手を伸ばし、目から光線を放った。
 「逃げろ!!」
 結城はロマンスカーの車内に何か放り込んで彼を突き飛ばした。
 「わあ!!」
 杉本は線路から十メートル下の道路へ落ちた。せつな閃光とともに黄金色の衝撃波が広がった。
 杉本は車体を起こすとそこは長距離バスの地下ロータリーだった。
 待合室には乗客たちが避難している。避難しているのはその周辺に結界が張られるからである。主要都市や主要港、施設には魔物襲来と同時に魔物よけの結界が張られるのだ。結界の中には魔物は入れない。よほど強力な魔物でない限り入れない。
 杉本は階段を駆け上り南口から出ると陸橋をはさんだ駅出入口には多くの乗客が避難している。
 「そこのロマンスカー10000系。鹿児島の市電からもらったものはどこだ?」
 蒸気機関車C57-1号「山口号」は空から舞い降りた。
 「逃がさないよ」
 新幹線700系が舞い降りる。新幹線と一緒にロマンスカー20000系も着地した。
 「知らない」
 きっぱり言う杉本。
 もらっていたとしてもしゃべるつもりない。
 「じゃあおまえはこうなるんだ」
 山口号はもっていた電車を投げ捨てる。
 「わああ!!」
 あとずさる杉本。
 それはさっきまで戦った中央線201系こと結城である。先頭車両だけ残り他の車両がなくなっている。そして床下機器もえぐられてコアがなかった。
 山口号は汽笛を鳴らした。
 どこからともなくやってくる電車や機関車たち。
 動きがぎこちなく操られているようだ。
 京王電車の体当たり。杉本は横に飛び退いてかわす。
 杉本はそこにあった電柱を引っこ抜いて突進してきた電気機関車を殴り、タクシーをたたき潰し、横須賀線電車や東京メトロ電車も殴って突いて陸橋から落とした。
 「デスビーム」
 山口号は煙室扉を開けて呪文を唱えた。ボイラー内から紫色の光線が放出された。
 杉本はそこにいた電気機関車を押し出して飛び退く。せつな電気機関車は叫び声を上げてバラバラに分解した。
 700系新幹線の先頭車両の連結器カバーがはずれ中から光線を発射。
 杉本はそこにいたタクシーを突き出す。タクシーは叫び声を上げる間もなく黒焦げになった。
 20000系ロマンスカーが動いた。その動きは杉本にも乗客たちにも見えなかった。
 杉本の車体を何十本もの触手が貫いた。道路に転がる杉本。
 鋭い痛みにのけぞり駅の方へ車体を引き鶴杉本。しかし結界の中に入れない。
 乗客たちが心配そうな顔で見ている。
 ロマンスカー20000系が襲いかかった。その時である。白い光線が20000系ロマンスカーの車体を切断し、山口号、700系新幹線やそこら辺にいた魔物に命中。火柱爆発にともなう爆風に吹き飛び、レーザー光線が操られた電車、機関車、車、トラックのミュータントに命中。叫びながら陸橋から落ちていった。
 舞い降りてくるYF-23オスプレイ。ホバーリングしながら他の軍用オスプレイが降下してきた。機内から出てくるTフォース隊員たち。そして自衛隊の対戦ヘリコプター。
 「杉本亮さんですね」
 国連憲章マークを戦闘服に身を包んだ隊長らしい隊員が口を開いた。
 「そうですが」
 杉本は電車姿からミュータントに戻った。
 「Tフォース基地へ来てください。あなたとその家族は政府の保護下に置かれます」
 隊長は言った。

 Tフォース基地。
 「ようこそ。Tフォース日本支部へ。ここは百里基地のそばに併設されている」
 小角は口を開いた。
 「初耳だ」
 つぶやく杉本。
 Tフォースがなにか知っている。国連の直轄部隊で魔術師協会と一緒に魔物や邪神を退治する部隊である。
 「杉本さん。無事だったんだ」
 司令室に入ってくるなり目を輝かせる芥川。
 「なんで君がいるの?」
 飛びつかれて驚く杉本。
 「僕は次世代ミュータントでないかそうであるかが見えるから保護された。紹介するよ同じく保護された阿部さんと長島さん。阿部さんは事件に巻き込まれて、長島さんは事件を目撃した船なんだ」
 顔を輝かせる芥川。
 「でも私とは関係がない」
 きっぱり言う杉本。
 なんの関係もない他人だ。関係があるのは芥川だけである。彼が幼稚園の時に車庫に入ってきて話しかけて来た。それから知り合いになった。
 「関係ないわけねえさ。テロリストに狙われるなんて普通じゃありえねえだろ」
 いきなり割り込んでくる大男。身長は二メートルは超えていて体格はプロレスラー波にいい。誰か知っている戦艦大和がミュータントに戻った姿だ。
 「私は普通に生活をしていて巻き込まれた会社員なの」
 強調する杉本。
 この間まで暴走しまくっていた戦艦に言われたくない。
「君は事件に巻き込まれた。テロリストに狙われるような何か思い当たることは?」
 三神は聞いた。
 「知らない」
 きっぱり言う杉本。
 「あの山口号と新幹線700系、ロマンスカー20000系はテロ組織「ロイヤルズ」の幹部だ。山口号がボスで700系と20000系が幹部。他の連中は操られている。奴らは邪神崇拝者だ。ある物を狙っている」
 志村は口をはさむ。彼は写真を見せる。
 写真を見る杉本。
 それは青い宝石と三日月と飾りの部分からなるバーツである。
 「これ・・三日月パーツを持ってる」
 思い出す杉本。
 そういえば妙な郵便物が届いたのを忘れていた。
 「どこに?」 
 「町田駅のコインロッカー」
 町田駅。
 東京都でありながら神奈川県に近いこの駅はJR町田駅と小田急町田駅は連絡通路でつながり下の道路を降りないで近くの商業施設へ行くことが出来た。昼夜を問わずビジネス客や学生が多く利用していた。
 杉本と三神、大和は小田急駅のトイレから出てくる。トイレを出ると百貨店の出入口がある。出入口を通り過ぎると改札口がある。
 それを通り過ぎるとコインロッカーがある。この通路の上は小田急のホームである。
 杉本はロッカーの鍵を出して開けた。封筒の中に三日月パーツがあった。
 大和の両目の瞳が銀色になり拳はプロテクターのようになった。彼は振り向きざまに飛びかかってきた狼を殴った。しかしそれは狼ではなかった。目は赤く輝き体には硬い魚のようなウロコで覆われ足は六本あった。そんな狼もどきが何十匹もいる。
 悲鳴を上げて逃げ出す乗客たち。
 「ここを出よう」
 杉本と三神は駆け出す。駅ビルから出るとそこは連絡通路である。
 いきなり飛び蹴りしてくるOL
 杉本はすんでのところでかわす。OLの姿が緑色の蛍光に包まれ崩れて20000系ロマンスカーに変身した。杉本も10000系ロマンスカーに変身した。
 OLだったロマンスカーの体当たり。
 杉本はデパートのショーウインドウに激突した。
 20000系は鎖を巻きつけそこにあった標識を引っこ抜いて殴った。杉本と合体する展望室の窓が割れた。しかしすぐに復元する。
 三神は片腕をバルカン砲に変えて元Olを撃つ。青白い光線が連射され車体を穿つ。
 20000系は鎖を伸ばした。
 三神は飛び退いた。
 杉本の体当たり、20000系連絡通路から落ちた。彼は飛び降りた。
 杉本は彼女から奪った標識で何度も殴った。
 20000系は呪文を唱えた。彼女の周りに黒い竜巻が何個も現われた。
 その時である。大和のパンチが20000系の先頭車両をとらえ大きくへっこんで壁に激突したと同時にミニ竜巻は消えた。
 大和の片腕がプロテクターか何をかをはめたように盛り上がり先端は槍のように変形。青白く輝く。その腕を20000系の床下機器に突き入れ精神を振り向けた。
 20000系は叫び声を上げのけぞる。車内内部から閃光が走り風船が割れるように爆発、分解した。
 地面に着地する三神。
 あぜんとする杉本。彼は元のミュータントに戻った。
 「見ろ」
 大和は分解して散らばる残骸の中の一つを指さした。
 そこにコアが転がっている。コアにクモのような足が生えた。
 顔が引きつる杉本と三神。
 大和はそれをプロテクタ^のような手でつかみ力を入れた。彼の片腕は青白く輝いている。コアもどきから悲鳴のような音が聞こえ一瞬にして塵になった。
 
 基地に戻ってくる三神、大和、杉本の三人。
 杉本は封筒から三日月パーツを出した。パーツは二つある。
 阿部はアタッシュケースから青い宝石を出して三日月パーツを組み合わせる。しかし何も起こらなかった。彼女はおもむろにお札をかざすようにのぞいた。すると何か文字が見えた。彼女はそこにあった紙に文字を書いた。ぜんぜん知らない言語で書かれている。ロシア語や英語、フランス語、中国語でもない。
 「ラテン語でもないわね」
 リリスが言う。
 「これに詳しい人知っている」
 杉本がふと思い出す。
 全員が振り向く。
 「深見というパノラマカーが古代遺物に詳しかった。頼んでみようか?厚木にいる」
 杉本が言う。
 「行ってみてもいいけど危険かもよ」
 間村が口を開いた。
 「どうして?」
 「新宿駅でテロ組織が襲ってきた。二度目の町田駅でもそうだった。三度目は戦争かもしれないぞ」
 大和がはっきり指摘する。
 「それは君がいるからそうなった。だから厚木には来ないでくれる」
 けげんそうな顔で言う杉本。
 大和はいきなり杉本の胸ぐらをつかむ。
 「やめろ。大和」
 桑名が注意する。
 大和は杉本を放した。
 「乱暴なミュータントだ」
 見下すように言う杉本。
 「厚木へ行こう。俺と和田で行く。もしものことがあったら大和か志村さんたちが助けに来る」
 三神は言った。
 数十分後。小田急厚木駅のトイレから出てくる三神、和田、杉本。
 バスロータリーを横切り横断報道を渡るとお店に着いた。そこは牛丼屋だった。
 「深見さんいる?」
 杉本はカウンターにいた店員に聞いた。
 「店長!!お客さんです」
 店員が奥にいた中年の男を呼んだ。
 「杉本。ひさしぶり。ここではなんだから外で」
 笑みを浮かべながら深見と呼ばれた男性は促した。
 「あの二人は?」
 深見は外へ出るなり二人の海上保安官に気づいた。
 「関係ないから大丈夫」
 しゃらっと言う杉本。
 ムッとする三神。
 その言い方はないだろう。失礼な電車だ。
 腕を組む和田。
 「深見。この文字わかる?」
 杉本は紙を見せた。
 「これね。マヤ文字に似ている。でも違うね。だけどあいつらと一緒じゃあ解読できないよ」
 ささやいて笑う深見。
 「じゃあなんの文字?」
 「邪神と対立する者たちの文字。旧き神がクリスタルを隠した場所へ導く座標だよ。でももう一個見つかっていないね」
 クスクス笑う深見。
 「杉本。そいつから離れたほうがいい」
 和田は長剣を抜いた。
 「あいつらの仲間だ」
 三神は片腕をバルカン砲に変形させた。
 深見はナイフを抜いた。
 杉本は上体をそらして飛び退いた。
 深見が名鉄パノラマカー7000系に変身した。スカーレット一色の真っ赤な車体。一階は展望室。二階は運転室という造りだ。展望室の窓に灯る二つの光は赤色だ。
 深見は車体ごと向きを変えた。
 三神はバルカン砲を連射した。
 深見にすべて命中した。
 バスロータリーにいた人々は逃げ出した。
 和田は長剣を振り上げた。
 その剣を鎖で受け払う深見。
 別の触手で和田をつかんで投げた。彼は体勢を立て直して着地した。
 「巡視船なんて地上では電車の敵じゃない。スクラップにしてやる」
 深見は笑い出す。車体が歪み、屋根から新たな器官が伸びた。先頭車両が花弁のように割れて触手がたくさん飛び出して拡大していく。色も赤色から鈍い黒にかわりポリプ状の魔物になった。
 「わあああ!!」
 杉本は思わず腰を抜かした。
 まるで悪夢である。新宿駅に出現した魔物は深見だったのだ。彼があの4編成の電車を殺したことに気づいた。
 「深見。結城さんたちを殺したのか?」
 やっと立ち上がる杉本。
 魔物が振り向いた。
 「そうだよ。結城やあいつらは真相に近づきすぎたからね。コアを喰ってやった」
 笑い出す深見。
 言葉を失う杉本。
 「ホーリーソード」
 和田は呪文を封じ込めた長剣で背後から袈裟懸けに切る。

 深見刃振り向きざまに触手でなぎ払った。
 和田は離れたビルの壁にたたきつけられる。
 深見と三神が同時に動いた。その動きは杉本や駅ビルの結界内にいる人々にはみえなかった。パッとパッとテレポートしているように見えた。深見はふらりとよろけた。
 三神は着地して身構えた。彼は深見より機ズだらけだった。しかし彼も深見も傷はふさがっていく。
 深見は触手の速射パンチを繰り出し三神もそれを連続で浮け払った。深見の膝蹴り。
 三神は少し離れたビルにたたきつけられた。
 深見のジャンプ。そこにいた和田を触手でつかみ着地して三神をつかんだ。
 「さてと食べよう」
 深見は口を大きく開けた。せつな触手が切断され頭を膝蹴りされ地面にたたきつけられた。束縛している力が消えて地面に落ちる三神と和田。
 見ると大和が身構えていた。
 深見はゆっくりと顔を上げた。
 大和の両方の拳がプロテクターのように盛り上がり青白く輝く。その拳で深見を何度も殴りそして膝蹴りを何度も入れた。そして頭をつかみ地面にたたきつけた。地面が少し陥没した。
 あ然とする三神、和田、杉本。
 「こいつすごい。あんな魔物を素手で捻じ伏せている」
 和田は思わずつぶやいた。
 深見は口から緑色の液体を吐いた。彼は目を吊り上げ飛びかかった。
 大和は片腕を突き出した。
 「ぐはっ!!」
 深見は目を剥きのけぞった。
 大和の腕は彼の胸を突きコアをえぐり取る。
 深見はゆっくり地面に倒れた。
 大和はは手に力を入れる。持っている手自体が青白い輝きが増してコアが一瞬にして塵と化した。

  「大和。その技・・・どこで覚えた?」
 基地に帰ってくるなり志村は指摘した。
 「覚えていない。速水の知らない技。わからないんだ」
 大和はポツリと言う。
 なんで自分が使えるのかもわからない。あの技だってひらめいただけである。
 「三神。初めてにしては上出来だ」
 志村は声をかけた。
 「え?」
 振り向く三神。
 「初めて邪神の下僕と戦って対等に戦ったのは三神と大和だけだ。普通はあんなすばやく動けない」
 志村ははっきり言う。
 小角と桑名はじろっと三神と大和の方を向いた。
 「俺は邪神ハンターの落ちこぼれってこと」
 和田が口をはさむ。
 「そうは言っていないわ」
 リリスは首を振る。
 「大和は邪神と戦えるように改造され三神はそういう素質を持っていた」
 リリスは言う。 
 ふてくされる和田。
 「その遺物のことなんだけど進展があってわ」
 佐久間が口をはさんだ。
 三神たちが振り向いた。
 「殺された鹿児島の市電はこの人にも小包み郵送している」
 佐久間はスクリーンに出した。
 画面にパノラマカーと中年男性の写真が出る。パノラマカーと合体するミュータントだろう。名鉄パノラマカーの白帯を全体に巻いている電車だ。
 「今、彼はどこに?」
 「東京駅。彼は誰かに追われているみたいだわ」
 佐久間が言う。
 「私も行くわ。私の予知ならたぶん探し出せるわ」
 阿部が何か決意したように言う。
 「僕も行く。僕はミュータントを見分けられる」
 芥川はうなづく。
 「私が護衛で行くわ。私の指示には従ってね」
 リリスは言った。

 東京駅。
 東京の表玄関ともいうべきターミナル駅でJRは在来線が地上五面一〇線。地下四面八線の合計九面一八線。新幹線五面一〇線。地下鉄が一面二線のホームを有する。東京ドームの約三・六個分。平日一日あたりの発着列車は約三〇〇〇本の日本一。赤レンガ造りの丸の内駅舎は一九一四年竣工で重要文化財として登録されていた。東京駅のトイレから出てくる大和、三神、和田、杉本とリリス、阿部、芥川の七人が出てくる。
 「志村さんたちは新幹線のホームよ。私たちは地下鉄と地下街へ行くわ」
 リリスは口を開く。
 「わかった。俺と大和。和田はJR線だ。別れよう」
 三神は指示を出すと大和と一緒に駆け出す。
 「三神。なんで俺と一緒に行くことを決めた?」
 走りながら聞く大和。
 「杉本さんはどうやら君や俺たちを嫌っている。電車と船はずっと仲悪い。鉄道が世界で最初に通った時からかな」
 視線をおとす三神。
 なぜかはわからない。最初から毛嫌いして相手にしないし平気で船は列車を海に沈めた。だから海保も列車は相手にしていなかった。
 「そうかもな。六十七年前とかわらねえな」
 つぶやくように言う大和。
 珍しいことではない。戦時中は鉄道は簡単に戦闘機や艦砲射撃の的になった。そして大勢が死んだ。
 「・・・東京駅は広いな」
 三神は思わずつぶやく。
 「そうだな。六十七年前よりでかい」
 大和が言う。
 これだけのマンモス駅で標的の一人を探すのは難しい。
 三神は周囲を見回す。
 この階段を降りるとグランスタという食堂街が広がり、銀の鈴の周りには観光客やビジネス客。学生の雑踏で気配が見えなかった。
 
 地下街へ足を踏み入れるリリス、阿部、芥川の三人。
 改札で外国人観光客が駅員に道を聞いているのが目に入る。
 改札のそばには食堂街が広がっている。
 ガイドブックにも載っているおしゃれな店があるが今はパノラマカーと合体するミュータントを探しにきたのだ。
 阿部はふいに映像がよぎった。
 在来線のホームに基地で聞いた中年の男性がいるという場面だ。彼は杉本に近づこうとしている。
 彼はかなり変装が得意で気配を消すのをうまいようだ。

 東海道線の階段を駆け上がる杉本と和田。
 和田はホームの最後尾へ走り出す。
 杉本の近づく中年の男性。
 「やあ。杉本」
 「景山。いたんだ」
 男性は笑みを浮かべる。
 「さっきTフォースから電話があって東京駅にきたんだ」
 周囲を警戒しながら言う景山。
 二人に近づく駅員。彼はナイフを出して突き出した。
 すんでのところでかわす杉本。彼はその腕をつかみ投げ飛ばす。駅員は投げられ丁度入ってきた東海道線電車にぶつかりホームにたたきつけられた。
 とたんに乗客から悲鳴が上がる。
 誰かが緊急停止装置を押したのか他の電車が止まった。
 その駅員はむくっと起き上がり不自然に曲がった首を自分で治した。
 驚きの声を上げる乗客たち。
 階段から駆け上がってくる二人の駅員。
 誰かわかった。山口号と新幹線700系がミュータントに戻った姿だ。名札に山口と熊野と書いてあった。
 山口は空に向かってマシンガンを連射した。
 いきなりの銃声に逃げ出す乗客たち。
 新幹線ホームから東北新幹線や東海道新幹線700N系が壁を突き破って在来線の線路へジャンプして着地した。十六両あった車両は三両に減っている。電車のミュータントは車両の数を自分でコントロールできるのだ。
 隣りのホームに停車していた横須賀線電車の車両が蛍光に包まれて三両になった。
 東海道線ホームから逃げていなくなる乗客。
 横須賀線電車はジャンプしてホームに着地した。彼は車体から複数の鎖を出した。
 景山をいきなり殴る熊野。
 「景山!!」
 駆け寄る杉本。
 山口の鋭い蹴りを受けてひっくり返る杉本。
 近づく東北新幹線と700N系。
 人ごみからやっと抜け出してくる三神と大和と和田。
 「私は知っているぞ。鹿児島の市電や江ノ電電車を殺したのはおまえだろ」
 景山はビシッと指さした。
 いきなり笑い出す山口と熊野。
 「俺じゃない。あの三姉妹さ」
 しゃらっと言う熊野。
 「クリスタル三姉妹か」
 三神が核心にせまる。
 クリスタル三姉妹とは豪華客船飛鳥Ⅱ、クリスタルシンフォニーとセレニテイのことを指す。たいがいの船舶、艦船のミュータントは彼女たちが何をやっているか知っている。優雅なクルーズをやりながら暗殺、スパイ、破壊工作をやるような連中である。知らないのは人間とセレブだけだ。彼女たちは船としての仕事がない時はモデルとして活躍するがその時も暗殺家業をやっていた。
 「真相を知りすぎたからいけないんだ。だから死んだんだ。遺物をよこせ」
 山口は口笛を吹いた。
 新幹線N700系が鎖を伸ばす。
 大和はその青白く輝く拳で先頭車両を殴って膝蹴り。車体が大きくへっこんで少し離れた線路へたたきつけられた。
 飛びかかる横須賀線電車。
 大和の瞳が銀色に変わり拳を下から突き出した。大和のアッパーでくだんの電車の窓ガラスというガラスが割れ、部品が飛び散りきろもみ状態のままホームの最後尾へ落下した。
 そこへ駆けつけてくる阿部、芥川、リリスと志村たちのチーム。
東北新幹線の体当たり。
 横に飛び退くと大和は背中から二対の鎖を出し巻きつけグルグル振り回して投げた。その東北新幹線は少し離れた新幹線ホームへ落ちて行った。
 「死にたい奴はかかってこい」
 大和はパキポキ手の関節を鳴らす。
 「覚えてろ」
 捨てセリフを吐いて熊野と山口はどこかへテレポートしていった。
 
 
 

 
 
 
 
 

 「戦艦大和が呉港に六十五年ぶりに入港しました。呉港にある呉基地は六十五年前は戦艦大和の母港です::」
 街頭にある大型テレビに呉に入港する戦艦大和の映像が映し出される。
 ニュース映像は衛星中継で官邸や大統領執務室や魔術師協会のスクリーン、各家庭のテレビに同時に中継されていた。
 大和は呉基地に入港すると正面の呉地方総監部の建物を見て口を開いた。
 「第二艦隊旗艦。戦艦大和。連合艦隊司令部。沖縄と佐世保の米軍を叩き潰しました。沖縄作戦に代わる新たな命令はないか?」
 大和は旧日本軍が使っていた電波で兵士が上官に報告するような口調で報告した。声は野太い声である。
 大和の報告を聞いて官邸にいる総理達も呉基地にいる将校達も互いに顔を見合わせた。
 どうやら大和はいまだに戦時中だと思っていてここが帝国海軍の基地だと思っているようだ。
 「戦艦大和に告ぐ。連合艦隊は存在しない。戦争は六十七年前の昭和二十年8月十五日に日本はアメリカに降伏した。今ではアメリカと日本は友好関係にある」
 基地から旧海軍の電波で返信が来た。
 「日本が敗れたのか::」
 耳を疑う大和。そして絶句したのかしばらく黙ってしまう。
 「友好関係にあるならなぜ米軍の輸送機や艦船が日本近海にたくさんいる。日本はまだ占領されているのではないか?」
 昨日戦った戦闘機や艦船をふと思い出し疑問をぶつける大和。
 「そんな事はない」
 口をはさんだのは呉基地の基地司令である。
 「今、何年だ?」
 少し考えてから言う大和。
 「今は平成二十四年四月七日だ。西暦でいうと2012年::」
 「バカな事を言うな今は昭和二十年四月七日だ。俺をバカにするのか!」
 大和は光る眼を吊り上げ主砲の仰角をかけた。
 「バカにしてはいない。ウソをついてどうするのかね。貴艦が沈んだ後沖縄がどうなったか日本がなぜ降伏したか聞きたいと思わないかね?」
 大和の一番聞きたい事を言う基地司令。
 「::ウソじゃないんだな。俺を蘇らせたのは誰か知らない。俺は六十五年後の昨日まで死んでいたわけか。二〇十二年の記録では第二艦隊はどうなった?」
 知りたい事を聞く大和。
 「大和、磯風以下六隻の駆逐艦は米軍機動部隊の艦載機に撃沈、大破。雪風、冬月だけが残った」
 「俺達がやられた後沖縄と日本はどうなった?」
 「沖縄は昭和二十年の六月に陥落。最高指導会議は本土決戦を決議した。国民は竹やりを持って上陸する米軍と戦うように命じた」
 「本土決戦はしたのか」
 「いいや、米軍は広島と長崎に原爆を落とした。それのおかげで二十万人以上が犠牲になり、八月十五日に日本は降伏。マッカーサー元帥が占領軍総司令部として厚木にのりこんできた。九月にはミズーリ艦上で降伏文書に調印。進駐した米軍は日本の民主化をすすめた」
 「大切な事を聞く。国体は護持したのか」
 「帝国憲法にかわり、二十一年に日本国憲法が公布され、翌年五月から施行された。その中では主権在民がうたわれている。天皇はみずから神であることを否定された:」
 「戦争を指導した者達はどうなった?」
 「連合軍は国際裁判を開いて戦争犯罪人を裁いた。ニュールンベルクではナチが裁かれた。ヒトラーとゲッペルスは終戦前にベルリンの地下壕で自害。残る閣僚達は絞首刑になった」
 「::だいたい何が起こったかわかった。昨日襲ってきた船と飛行機は何だ?」
 「自衛隊の戦闘機と艦船と海上保安庁の巡視船。魔物対策部隊の次世代ミュータントだ」
 「次世代ミュータント::じゃあ戦艦長門や高雄、雪風はどうなった?あの三隻は次世代ミュータントだった」
 話を切り替える大和。
 沖縄作戦の日、第二艦隊に雪風はいた。
 「戦艦長門は昭和二十二年にビキ二沖で原爆実験の標的艦になり高雄はシンガポールで爆沈処分。雪風は戦後の処理で台湾軍に引き渡された」
 「あいつらは?沖縄作戦やレイテ沖、シブヤン海で十隻以上の次世代ミュータントがいた。その中に戦艦ニュージャージーとノースカロライナがいた。その二隻と俺は戦った。長門や高雄、雪風は連合軍の戦艦と戦って栗田艦隊に近づけなかった」
 ふと思い出す大和。
 「貴艦の言う次世代ミュータント達は百二十歳から百五十歳になっている。あの戦争から六十七年が経っているから年を取っているのも当然だろう」
 呉基地からの話を聞いてがく然とする大和。
 だんだん闇の底に落とされていくような感じ。まるで鳴門の大渦に吸い込まれて暗い海底に引きこまれるような感じだ。
 大和はフラッシュバックで栗田艦隊と行動をしたことを思い出す。
 「戦艦武蔵は?武蔵は次世代ミュータントだったんだ。そういえば・・・シブヤン海ではおれは第2艦隊の栗田艦隊と一緒に次世代ミュータントで構成された遊撃隊のリーダーをしていた。そして途中で別れて合流する予定の栗田艦隊が来なかった。そしてそこには十隻以上の米軍の次世代ミュータントたちがいた。そいつらと長門、高雄、雪風と武蔵とゼロ戦で戦った」
 重い口を開く大和。
 思わず基地指令とマーク司令官は顔を見合わせた。
 自衛官が資料を基地司令に渡す。
 「あの作戦では確かレイテに押し寄せた米軍を叩き潰すはずだった。しかし旧日本軍の空母と航空機は激減していたから大和以下の戦艦部隊を突入させ輸送部隊の撃滅すること。主軸は栗田艦隊で小沢艦隊はオトリ。志摩、西村艦隊は別働隊。昭和19年10月18日にリンガを出発した栗田艦隊は23日朝、米潜水艦の攻撃の雷撃で艦隊旗艦の「愛宕」「摩耶」が沈没。「高雄」も戦列を離れた」
 歴史の経緯を説明する基地司令。
 歴史の資料ではそうなっている。
 「いや「高雄」は次世代ミュータントだ。それに潜水艦は次世代ミュータントだった。おれと戦ってそいつのコアを引っこ抜いた」
 断片的に散らばる記憶をたどる大和。
 「24日。航空機の護衛がない艦隊を合計二三〇機。五波からなる攻撃隊が襲った。大和は3式弾で応戦。米軍の攻撃は武蔵に集中して武蔵は沈没した。大和ら各艦の被害は軽微で武蔵の犠牲もあって進撃を続けサマール沖で米軍の空母を追い払った。艦船を二〇隻以上失い、日本海軍の大敗北となっていわゆる「なぞの反転」によって作戦目的は達成されなかった」
 マーク司令官が説明した。
 「なんか頭の中が混乱してる。歴史が改ざんされているような感じだな。でも記憶は半分以上思い出せない」
 頭をかかえるしぐさをする大和。
 自分自身も混乱していた。
 「貴艦はどこまで記憶が蘇っているのかね
?」
 基地司令はたずねた。
 「呉工廠であいつと合体した。そして横須賀鎮守府で雪風、高雄、長門から米軍は敵であると教わった。帝国海軍で米軍を見ると襲うように訓練された。トラック島でなにかされたような気がする。なにかゾッとするような実験。でもわかんない。戦艦武蔵は次世代ミュータントだった。そして葛城裕子と出会った。葛城祐子とデートをした。葛城祐子はどうなった?」
 おぼろげながら思い出す大和。
  「葛城裕子という占い師は30年前に死亡しているが、彼女のひ孫がいる。今、二十三才で阿部舞と言う名前だ」
 「ウソだ。ウソだ!」
 大和は思わず声を上げた。
 これは悪夢だ。悪い夢の中だ。
 「ウソではない。彼女はミュータントではない。彼女は人間だ。あれから六十七年が経っている。ひ孫がいてもおかしくはない」
 落ち着いた声で悟すように言う基地司令
 「なんで死んだ?米軍が殺したのか?」
 泣き出す大和。第一艦橋の光る眼から光るものが流れ落ちた。
 「老衰だ。誰も殺してはいない」
 基地司令が答える。
 しばらく泣く大和。
 「俺・・・そのひ孫に会ってみたい」
 泣きやむ大和。
 「え?」
 「だからそのひ孫がいるんだろ?会ってみたい」
 はっきり言う大和。
 黙ってしまう基地司令たち。
 「わかった。少し待ってくれ」
 しばしの沈黙のあと基地司令は言った。

 魔物対策部隊「ガードフォース」
 「阿部君・・・急な用事で申し訳ないのだが戦艦大和と会ってくれないかね」
 桑名は話を切り出した。
 「ええええ!」
 三神、ロイヤルウイング、吉村達は驚きの声を上げた。
 「そんな急には無理だよ」
 首を振る三神。
 あんだけ大暴れした船が今度は何をするかわからない。
 「私は会ってみます」
 腹を決める阿部。
 「え?」
 「だって私しか止められないじゃん。私は大和に会ってみる」
 阿部は真剣な顔で言った。
 「では行くかね」
 小角が切り出す。
 うなずく阿部。
 「呉基地にテレポート」
 

 大和は葛城裕子のひ孫のかすかな臭いをkぎとった。臭いのする方向へ艦首を向けた。
 頭の中にある葛城裕子の事だけである。
 基地の建物から出てくる阿部は桟橋の方へ歩く。
 彼女は戦艦大和の巨大さに足がすくんだ。
 日米のイージス艦や護衛艦も大きいけが戦艦大和は京都駅や東京駅がそのまま海の上に浮かんでいるようなもの。彼女は口をあんぐり開けたまま動けないでいた。
 視線を感じる阿部。光る眼がじっと彼女を見ている。彼女の頭の中にイメージが入ってくる。
 それは葛城裕子という曾祖母から祖母、生みの親という映像に変わる。いずれも阿部には知らない人ばかり。物心ついた時は阿部家に養女として暮らしていた。本当の両親じゃないとわかったのは高校卒業後だった。その頃からフラッシュバックのように他人の心が自分に流れて見えるようになった。
 どこかでつながりを感じた。背中のあざがほてり何かが体から出ようとしている。
 基地にはバズーカー砲を構えた自衛官たちやミサイル部隊らしき車両も見える。三神達は息を潜めていた。
 「しー」
 阿部は指を口にあてた。
 自分にこの船をもとミュータントに戻せそうな気がした。なぜかはわからない。
 戦艦大和は桟橋に近づき、大和の船影が緑色の蛍光に包まれまぶしく輝く。姿や形が縮んでいく。それも急速に苦しげなうなり声を上げ緑色の光を放ちながら近づき、もとの無害なミュータントになり彼女に近づいた。彼女に近づいた時には緑色の光はやみ、そこには旧日本軍の制服を着た一人の大男がそこにいる。身長は二メートルを超え体格もプロレスラー並みにがっちりしていた。
 「やっと見つけてくれたんだ」
 男はよろけひざまづいた。思わず阿部は近づきその男に抱きついた。
 自分ではその気はなかった。だけど懐かしさとわけのわからない力に押された。抱きつかないと男がどこかに行ってしまうような気がした。
 ドキッとしながら見入る三神。
 阿部を強く抱きしめる男。
 抱かれたまま戸惑う阿部
 「見つけ出すのは簡単だ。やっと会えた」
 男は安心したような笑みを浮かべた。

 基地に戻ってくる大和。
 大和はチラッと阿部の方を見る。阿部も三神も遠巻きに立ち止まり近づいてこない。
 「大和。ひさしぶりだな」
 肩をたたく桑名と小角。
 「おまえ誰?」
 大和はきょとんとした顔で聞く。
 「戦艦長門と重巡高雄といったらわかるか」
 桑名は笑みを浮かべる。
 あっと思い出して手をポンとたたく大和。
 中年のおじさんの気配はあの長門と高雄そのものの懐かしい気配と臭いだ。
 「こっちへ来い。話がある」
 桑名と小角はあごでしゃくる。
 大和は二人のあとについていく。しばらく行くと会議室に入る。
 「そこへ座れ」
 親しい友人に言うように促す桑名。
 ソファに腰かける大和。
 「俺を蘇らせたのは雪風なんだろ」
 ぽつりと言う大和。
 「暴走していても気がついていたのか?」
 小角が口を開く。
 「あいつは俺に会いたいんじゃない。速水に会いたかっただけ。だから俺と合体していたあいつもあいつの意識も握りつぶしてやったんだ」
 大和は出されたお茶を飲む。
 戦時中から気に入らなかった。自分の邪魔をしてきたからせいせいした。
 互いに顔を見合わせる桑名と小角。
 普通、合体すると合体してきたミュータントと合体された方は互いに共存する。どっちかを引き離せばミュータントの方が死ぬ。
 「おまえさん。行く所はないのだろ。我々がおまえの住む場所や生活の面倒は見てやれる。おまえさん邪神ハンターにならんか?」
 誘うように言う桑名。
 「そうだな」
 大和はうーんとうなる。
 戦時中は米軍がやとったミュータントの邪神ハンターや魔術師にしょっちゅう追われて戦っていた。でも時代は戦争中ではない。時代変われば考えもかわる。
 「わかった」
 うなづく大和。
 「おまえに訓練はいらん。そのパワーなら邪神に対等に戦える。ただこの時代や世界情勢、生活様式を勉強してもらわないとならんだろう。それが条件だ」
 桑名ははっきり言う。
 「いいよ。俺も六十七年後の世界がどういうものか知りたかったんだ」
 あっさり言う大和。
 「では明日から勉強だな」
 小角は言った。

 三日後。横浜港大桟橋。
 大桟橋に接岸しているクイーン・エリザベス2号が停泊していた。全長二九〇メートル。9万総トン。キュナード社所有の船である。乗船しているのはもちろんセレブ客で金持ちばかりだった。
 ランドルをしょった小学生は時計を見た。
 午後三時半を回っている。
 丁度回りに誰もない。
 「クイーン・エリザベス2号。君が次世代ミュータントだっていうのを知っている!!」
 メガホンを出して叫ぶ小学生。
 「僕は次世代ミュータントでないかそうでないか見えるんだ。合体しているのはリリスでしょ。知っているよ。ネットやYOUTUBUでばらそうか!!」
 小学生はカメラを出した。
 「そうよ。私はリリス・アルフォン・クラーリッツよ」
 その外国人観光客は言った。
 「お姉ちゃん。それは実体ではないね。本体はあの船だね」
 はっきり指摘する小学生。
 「そうよ。君は名前は?」
 リリスと名乗った外人はたずねる。
 「芥川翔太。小学六年。この近くの学校に通っている」
 名乗った小学生は無邪気に笑う。
 「君はいつから見えるの?」
 「幼稚園のときから。漁船や電車、機関車とお話をして仲良くなった。一番の知り合いは小田急ロマンスカー10000系なんだ。こっそり海老名車両区に入ってそこにいる電車たちと仲良くなった」
 目を輝かせる芥川。
 「そうなの・・・」
 「リリス。戦艦大和はTフォースにいるんでしょ。君の友達には護衛艦や巡視船もいるし戦闘機もいる」
 鋭い指摘をする芥川。
 キッと見るリリス。
 この子・・・阿部さんより強いパワーを持っている。
 「お姉ちゃん。クリスタルが呼んでいる。でもどこの海にあるかわからない」
 話を切り替える芥川。
 リリスの顔から笑みが消えた。
 クリスタルのことはトップシークレットでネットにものっていない。
 「そうね。居酒屋「水木」へ行きましょ。そこには自衛隊や海上保安庁の隊員が来ているわ」
 少し考えてから言うリリス。
 「電車で行くの?」
 「魔術で一瞬よ」
 リリスは言った。
 
 居酒屋「水木」の店内に入るリリスと芥川。
 お昼時なのか自衛隊員と海上保安庁の保安官で店内は賑わっていた。
 「よう。リリス。子供が生まれたのか?」
 藤村がからかった。
 「生まれるわけないでしょ」
 リリスはムッとする。
 「芥川君。誰が誰だかわかる?」
 リリスはささやいた。
 「僕わかるよ。店主は「パリ」と言う名前の古い客船。お客はみな護衛艦が多いね。二人だけ巡視船がいる。名前も知っている」
 はっきり指摘する芥川。
 私語がピタッとやむ店内。
 「君はいつごろからその能力に気がついた」
 志村は振り向いた。
 「幼稚園から。漁船や電車と放しているうちに友達になって一番の知り合いは小田急ロマンスカー10000系。車庫に忍び込んで世間話して友達になった」
 うれしそうに言う芥川。
 「確かに遺伝的にそういう能力があったと思えますね」
 村松が口をはさむ。
 「自分の家族や親戚にはいないよ。僕は戦艦大和に会ってみたい。彼女の阿部っていう人にも会いたい」
 芥川は目を輝かせる。
 「YOUTUBUやニュースの映像はすごいね」
 関心する和田。
 「巡視船「あそ」邪神ハンターなんだね。でも落第寸前で受かったんだ」
 「ムカつくこのガキ」
 歯切りする和田。
 「君はすごいね」
 和田を押しのける三神。
 「君は阿部っていう彼女がいる。結婚しないの?」
 芥川はしゃらっと言う。
 「な・・・何を言っている。小学生のくせに生意気な」
 絶句する三神。
 確かに知人である。あいつは二十三才。自分は三十五歳である。その上次世代ミュータントと人間は結婚は難しい。する人はいない。
 「ねえ志村さん。クリスタルが呼んでる。でもどこかわからない」
 訴えるように言う芥川。
 「どこにあるかわからないじゃあ自衛隊や海保も探しようがない」
 きっぱり言う志村。
 黙って泣いてしまう芥川。
 「泣かすなよ」
 和田がわりこむ。
 「芥川君。海保の横浜防災基地へ来るか?」
 三神がため息をついた。
 「本当!!」
 ピタッと泣き止む芥川。
 「気持ちが切り替わるのが早いな」
 感心する和田。
 「私が送ってあげる」
 リリスはそう言うと呪文を唱えた。三神、和田、芥川、リリスは姿が消えた、次の瞬間どこかのロビーに姿を現す。
 ロビーに数人の海上保安官がいた。
 「ミュータントが二人で他の人は次世代ミュータントだね」
 指摘する芥川。
 振り向く保安官たち。
 「あの人が巡視船「やしま」で沢村隊長。そしてヘリコプターの「ゆりかもめ二十三号と二十二号。ミュータントは須藤という人と桜庭っている特殊部隊の隊員。須藤さんが怪力で桜庭さんが炎を操って空を飛べる」
 自慢げに説明する芥川。
 須藤と桜庭と呼ばれた二人の隊員は口笛を吹いた。
 「すごいな」
 関心している沢本隊長。
 「ねえ。中国やアメリカの沿岸警備隊の人たちと仲良くなりたい」
 目を輝かせる芥川。
 「それは難しいかな。仲がいいわけではないからね」
 困った顔をする沢本。
 「リリス。阿部さんと会わせてみればいいんじゃない」
 和田がささやく。
 「そうね。それもおもしろそうね」
 リリスはうなづいた。

 渋谷駅のトイレから出てくる大和。彼はどこにでもいそうな若者の服を着ていた。
 基地のテレポート台は便利だな。
 大和は見回した。
 そこはデパートの地下街で食料品を売っている。
 「六十七年後の世界はすごいな」
 食傷の豊富さに驚く大和。
 戦時中は食料は配給制でいつも不足していた。その頃と比べれば未来の日本は不況といえど物は豊富にある。
 大和は地下街を抜けて駅の構内を抜けるとそこは駅前の交差点だった。
 六十七年前は何もなくて焼け野原だった。
 大和は周囲に立つビル群を見上げた。
 「大和だ」
 「戦艦大和だった奴だ」
 彼に気づいた人々が携帯電話で写真を取りはじめる。
 大和は無視して横断歩道を渡る。
 携帯電話持ちたいな。あれも戦時中はなかった。あれがあればインターネットというものに繋がるらしい。
 この三日でだいたいのことは知っている。世界情勢は戦時中より複雑で経済状況も日本は不況のまっただなか。この渋谷が若者の街であるのもわかっている。なにもよりも驚いたのは戦艦大和の情報は機密でもなんでもなく自由にネットでも本屋でも見られること。呉に「大和ミュージアム」というものまである。自分にとっては驚きだが何よりも刺激的だった。
 大和はふいに殺気に気づいた。彼は振り向きざまに殴った。
 チンピラは路上にたたきつけられた。
 チンピラが次世代ミュータントなのは気配で知っている。そのチンピラは跳ね起きると口笛を鳴らす。どこからともなく他のチンピラが出てきた。
 数十人のチンピラに囲まれる大和。
 遠巻きに見ている人々。
 さっきのチンピラがナイフを突き出し他のチンピラも殴りかかる。
 大和はそのパンチやナイフをよけて掌低を弾き鋭い蹴りを放ち、背後からつかみかかってきたチンピラにひじ打ちしてのし足払いをかけ別のチンピラの腕をつかみ膝蹴りした。
 何人ものチンピラがもんどりうって地面に倒れた。
 チンピラの一人が東急東横線の電車に変身した。いくつもの鎖を伸ばした。
 大和の拳が青白く輝きその拳で殴った。
 殴られ窓ガラスが割れ数十メートル離れた路上に落下した。
 別のチンピラがSLC-11ー227号に変身した。大井川線を走っているSLである。
 大和は両方の青白く光る拳で何度も殴り蹴り上げた。SLはくるくる回転しながら数十メートル離れた歩道へ落下した。
 大和はニヤリと笑いながら挑発した。
 十人位のチンピラがいっせいに飛びかかると同時に大和がパッと動いた。
 見物人にもチンピラたちにもその動きは見えなかった。気づくと大和が立っていた。彼の足元にチンピラが倒れていた。
 「ひさしぶりだな」
 うれしそうに言う大和。
 そこへサイレンを鳴らしてやってくる軍用車両。それもパトカーと一緒にやってきた。
 軍用車両には国連憲章をつけている。Tフォースである。中からTフォースの隊員がでてきた。
 「大和。基地まで来てもらいます」
 女性隊員は言った。
 
 その頃。
 居酒屋「水木」の店内には店主と志村、三神、和田、リリスと芥川がいた。
 店内に入ってくる阿部。
 「こんにちは。君が芥川君ね」
 阿部はあいさつをする。
 「三神さんの彼女でしょ」
 じと目で見る芥川。
 「ちがいます!!」
 三神と阿部は思わず声をそろえた。
 「そんな怒らなくてもいいじゃん」
 和田がため息をつく。
 「芥川君もミュータントを見分けられるのね。なんか奇遇ね」
 阿部はニコッと笑う。
 なぜわかったのかわからない。でも似たような能力者は見分けられる。なぜか知らない。
 「阿部さんもクリスタルの声は聞いたことはない?」
 芥川は話を切り替えた。
 「私は夢で時々見るの。クリスタルがしゃべってくるの。でも何を言っているかわからなくて覚めると覚えていない」
 気になることを言う阿部。
 「ねえねえ電話番号を交換しない」
 芥川は携帯電話を出した。
 うなづく阿部。
 「私も」
 わりこむリリス。
 「なんで?」
 和田が口をはさむ。
 「緊急の時のためよ」
 リリスは言った。


 Tフォース基地。
 「バッカもーん!!」
 部屋いっぱいに響く声で桑名は叫んだ。
 「なんで俺が怒られるんだ?」
 きょとんとする大和。
 「おまえはこっそり基地を飛び出して勝手にテレポート台を使い渋谷へ行った」
 小角は青筋を立てる。
 「それがいけないのか?」
 首をかしげる大和。
 「街を出歩くのも観光するのもかまわん。しかしケンカをしろと言っとらん!!」
 桑名は机をダン!とたたいた。
 「俺も好きでケンカなんかしていない。あいつらが勝手に襲ってきた。何も知らない奴らがいきなりナイフで刺してきた」
 声を荒げる大和。
 黙ってしまう小角と桑名。
 「ケンカの話はもういい。お咎めなしだ。今度出るときは行き先を言え。ケンカはするなよ」
 桑名は念を押すように言った。