エプローグ


 横浜港大桟橋。
 大桟橋の屋上から観光船「ロイヤルウイング」が出航した。横浜港を周遊する船である。
 船内には観光客や家族連れもいる。その船内の一角に数十人の男女がいてドアには貸切という札が下がっていた。
 「今回はよくやった」
 浅黒い肌の男性は口を開いた。彼はインド人で国連ビルにあるTフォース本部の議長である。その傍らに白人男性が立つ。彼はアーカムにある基地の司令官である。
 「アナベル議長。ジュノ司令官。ありがとうございます」
 三神は二人の男性と握手をする。
 「桑名、小角司令から聞いていると思うが選ばれても仕事と任務はかけもちで生活はできる」
 ジュノ司令官は言う。
 彼はクロウタイタスの孫だった。自身も邪神ハンターである。
 「君らは本業とかけもちしていても正式なチームとして認める」
 アナベル議長は大和や阿部たちと握手する。
 「でも私はあんな騒ぎに巻き込まれたから職を探さないといけないのでハローワークへ行きたいと思います」
 申しわけなさそうに言う杉本。
 「その心配はない。君は小田急で働けるし電車として走ることができる。今乗っているこの船も観光船として働くことはできる」
 アナベル議長はニコッと笑う。
 「本当ですか!!」
 思わず目を輝かせる杉本。
 船内アナウンスで叫ぶ長島。
 「この任務一本でやっていくのはこの不況では無理だからね。職業軍人以外はかけもちなんだ」
 アナベル議長がフッと笑う。
 「よかったね」
 芥川がとびつく。
 喜んで泣き出す杉本。
 黙ったままの景山。彼はため息つきながらコーヒーを飲んでいた。
 これからどうしよう。名古屋には帰れない。アパート借りるにも金がない。
 「景山君。君にも住む場所や働く場所はあるんだ」
 ジュノ司令官は肩をたたいた。
 振り向いて驚く景山。
 「君はデスパシエール博士を師事して助手でもある。彼は科学者であり考古学者だった。彼は暗殺者に殺害されている。彼に変わって君はTフォースに入隊して宇宙オーパッツや未発見の遺跡の発掘や未知の生命体の調査にくわわってくれるかね」
 ジュノ司令官は重い口を開く。
 「喜んで!!」
 景山は思わず破顔した。
 「大和。おまえは邪神ハンターとして任務についてもらう。おまえには基地の外で働くのは無理だからな」
 桑名は大和の肩をたたく。
 うなづく大和。
 お目付け役の二人の言うとおり自分には普通に働くは無理だろう。六十七年前とは明らかに違うしギャップもある。自分は邪神ハンターとしての活動が性分に合っているだろう。
 「リリス。志村隊長。外国の客船や護衛艦を紹介して」
 芥川はめを輝かせて言う。
 「あなた本当に友達になりたいのね」
 感心する阿部。
 そんなにミュータントと友人になりたい人もはじめてである。
 「僕は人間、ミュータントと次世代ミュータントをつなぐ架け橋になりたい。話合えばお互いは違うという認識を持って共存できるんじゃないかと思う」
 思ったことを言う芥川。
 自分のできることは限られている。でも友人を増やしていけばかならずそういうときはくると思う。
 「いい心がけと言いたい。でもミュータントの中にはそれを利用する者だっているから気をつけろ」
 注意する志村。
 深くうなづく芥川。
 「私としてはそうね・・・私の友人を紹介するわね」
 リリスは微笑む。
 「屋上デッキに行かない?」
 三神は阿部を誘う。
 阿部はうなづくと三神と一緒に部屋を出た
 「私は仕事がありますので誰かテレポートできる人いますか?」
 杉本が聞いた。
 「私が送るわ」
 リリスが名乗ると杉本に呪文をかけた。彼の姿が消えた。
 「僕は塾があるんで帰ります」
 ふと思い出す芥川。
 「俺が送ろう」
 志村が言った。
 屋上デッキに出る三神と阿部。
 三神は阿部の手をつないだ。
 いい雰囲気である。あとは何も起こらなければいいのだ。
 「危険な状況で生まれたロマンスは長続きしないわよ」
 念を押すように言う阿部。
 「構わない」
 三神はじっと向き合って言う。
 「悪いなあ。いい雰囲気の所を」
 いきなりわりこんでくる桑名、小角、大和と和田、景山。
 「なんですか?」
 阿部と離れて平静を装う三神。
 「今、連絡が入ってな。伊勢神宮と宮内庁からダゴン教団に八尺勾玉と八侘鏡が盗まれたらしい。それを取り戻してほしいという依頼が入った」
 桑名が笑みを浮かべる。
 「メンバーは俺と和田と大和で行こう。景山さんサポートお願いします」
 三神は景山と握手をする。
 「こちらからもお願いするよ」
 景山が破顔する。
 「基地へ戻って準備したら出発だ」
 三神は言った。

 トルコ・イスタンブール。
 海峡大橋が見える建物に入るラウ・コーハン。彼は周囲を見回しながらその店に入っていく。そこはバーカウンターがあり観光客がお酒を飲んでいる。ラウはテーブル席に座る。
 テーブルにはマークスの他にロシア人とインド人の女性が座っている。ラフな服装で周囲の観光客と変わらなかった。
 ラウはアタッシュケースから金メダルを一つ渡した。金メダルには謎の文字がたくさん描かれている。
 「優秀なスパイだね」
 笑みを浮かべるロシア人。
 「スターリング・モロゾフ博士。ケイン・チャオプラヤ博士。戦艦大和は邪神ハンターになって邪神を取り締まる活動を始めた」
 忠告するラウ。
 「それは知っている」
 スターリングと呼ばれたロシア人は笑う。
 「あの戦艦は手のつけられない凶暴なミュータントだった。でも仲間に入れたらいいんじゃない。あの三神という保安官も一緒に誘ったら」
 ケイン博士はニヤニヤ笑う。
 「誘ったら七人とも断ってきた。私としては三神と大和が人材としては魅力的だ」
 紅茶を飲みながら言うマークス。
 戦艦大和は戦時中は凶暴なくせに旧日本軍の言うことは聞いた。自分が改造したとはいえあんなパワーまで出せるとは思わなかった。
 また三神保安官の祖父は邪神と対等に戦えるほど優秀な邪神ハンターだった。その孫の三神保安官もあの魔物と対等に戦った。一気に素質が開花した感じだ。ぜひ人材としてはほしい。
 「そんな簡単に行きますかね」
 ラウはニヤリと笑う。
 「我々はかならずこの星を飲み込んでみせる。この星のどこかに先祖が残した兵器が隠されているという。探すために大昔にこの星にやってきたのだ」
 スターリングは声を低める。
 「古代遺跡には隠された部屋がある。それはクリスタルに選ばれた者でしか反応しない。旧き神が仕掛けたのだ」
 ケインが言う。
 「ではなぜスパイを使う?」
 意地悪く言うラウ。
 「北朝鮮のスパイのわりにはM16やCIAのスパイという二重スパイもやった。君は工作母船でもある。産業スパイとしても優秀だよ」
 マークスは笑う。
 「スパイはいつか裏切るよ」
 身を乗り出すラウ。
 「その時は考えるさ」
 マークスは言った。
 
 
 
 

 阿部、芥川、杉本、長島の四人は暗視スコープをつけた。つけないと辺りは薄暗くて見えないのだ。
三神、大和、和田は暗視スコープがなくても周囲が見えた。
この夜刀浦にはJR線、私鉄、道路は通っていない。したがってひと気はない。
七人はひときわ大きな洋館に入った。
三神は合図する。
三神と大和、阿部、のチーム。和田、杉本、長島、芥川のチームに別れた。
三神と大和、阿部は展示物が展示されている大きな部屋に入る。
アンティークの調度品や絵画がいくつか飾られている。正面にある絵画は人肉を貪り喰う食屍鬼が描かれている。題名もそのまま「食事をする食屍鬼」である。
他の絵画も巨大タコや神殿らしいものが描かれていた。
阿部は基地でもらったライトスタッフという魔術杖をかざす。
杖の先端部が輝く。周囲を辺りを照らす。
フッと映像がよぎる。
屋敷や町を闊歩する半漁人の姿が映る。
「俺から離れるな」
三神は片腕を機関砲に変形させた。
「来たな」
大和も片腕をバルカン砲に変えた。
壁や天井を這う半漁人。蛙のように飛び出した眼球。エラ、水かきとウロコを持つ水生生物である。彼らは深海で生活しており苦闘ルーを信仰している。老化で死ぬことはなく繁殖力も高い。人間とも結婚して子供を作ることができる。その場合ははじめは人間、ミュータントそっくりだが成長してくるとインスマス面という蛙めいた顔になっていく。顔も体も深きもども・・・デイープワンと呼ばれるものになるのだ。
しかしその半漁人は防弾チョッキを身に着け顔に小型マイクとスコープをつけている。
彼らはサバイバルナイフを投げた。
三神が動いた。その動きは阿部や半漁人たちには見えなかった。彼はナイフを払いのけジャンプして飛び蹴りしてひじ打ち。天井と壁に這っていた半漁人は床に落ちた。
大和は振り向きざまに飛びかかってきた半漁人を殴った。半漁人は数メートル離れた壁にたたきつけられた。
部屋の奥から数十人の半漁人が飛びかかる。
大和と三神は阿部を守りながらクルクル回りながら機関砲やバルカン砲を連射。青白い光線が半漁人たちを貫いた。
「トライアングルアタック」
奥から女性の声で呪文が聞こえた。
大和はとっさに阿部と三神を突き飛ばしたせつな燃え上がった瞬間に凍り、稲妻がまとわりついて感電。三姉妹のナイフが大和の胸を突き刺しとっさによけた三神の背中や腕を突き刺した。
雪風が宙を舞い跳ね起きた三神を蹴り飛ばし殴って阿部をつかみ抱えて闇に消えた。
三姉妹も部屋を出て行った。
三神は顔をしかめ腕に刺さっていたナイフを抜いた。
「大和。大丈夫か」
三神は倒れている大和に駆け寄る。
大和の胸にナイフが深く突き刺さっている。しかし彼は口からしたたる緑色の液体をぬぐいナイフを抜いた。
三神は驚きの顔をする。
この戦艦・・・すごい。三姉妹の必殺技くらって軽症だ。あの三姉妹は海保やTフォースも苦戦してきた相手だ。
部屋に駆け込んでくる和田たち。
「阿部さんが連れ去られた。このままの方向で行くと小笠原諸島の先端にある地図にない島へ行く」
和田はモニターを見せた。
「志村さんたちには知らせた」
長島が口をはさむ。
「船へ戻ろう。俺たちをも追おう」
三神は言った。

三姉妹と雪風は航行する貨物船に着地した。
雪風は抱えていた阿部を放した。
甲板には米国人とミュータントがいる。
ひと目見てマークスとウイルパーというのはわかった。
「君が阿部君か。なかなかキレイだね」
マークスはなめまわすような目線で見る。
「生贄にするのはもったいないよ」
ウイルパーは阿部が持っていたバックをまさぐって金メダルを出した。
「この金メダルはもともとは十個あったのだよ。残りの九個はどこにあるか知らない。私も探しているんだ」
マーカスは金メダルを見ながら言う。
「ルルイエ神殿ですか?」
阿部が口をはさむ。
「ルルイエも魅力的なんだ。しかし本当はクロスエレメントというものがほしいんだ。そうすれば兄貴たちを呼べる。そしてこの地球を飲み込んで我々のものにできる」
マークスはニヤニヤ笑う。
言葉を失う阿部。
マークスが宇宙人なのは知っている。しかし今の地球の科学では太刀打ちできない。勝てる秘策なんてあるんだろうか。
「そんなことさせないさ!!」
濃密な霧の奥からぬうっと現われる戦艦大和と巡視船「こうや」と観光船「ロイヤルウイング」とユニヴァーサル号。船内から舞い降りる芥川、和田、杉本。
「来たんだね」
ウイルパーは笑った。
「三神君、和田君。海上保安庁なんかやめて私の会社で働かないか?」
マークスは誘った。
「やだ」
きっぱり断る三神と和田。
うまい話には何か裏がある。
「杉本君。小田急なんかやめてうちに来ないか。給料はいいよ。家族だってもっとマシな暮らしができる。長島君もうちの会社の観光部門で雇うけど」
クスクス笑うマークス。
「外国はやだな。言葉通じない」
嫌そうな顔の長島。
「私には難しいことはわからない」
肩をすくめる杉本。
この不況じゃあどこも同じだ。
「戦艦大和。私の会社に来ないかね。そうすれば今までの疑問や謎が解けるだろう」
誘うマークス。
黙ってしまう大和。
「そんなに誘ってどうするの?君の会社はたくさん従業員がいるじゃん」
それ沈黙を破ったのは芥川だ。
「Tフォースだ。おまえたちは包囲されている」
テレポートしていくる護衛艦「しらね」「みょうこう」「さわゆき」「あまぎり」のほかに軍用オスプレイが何機か出現した。
雪風は舌打ちした。詠唱していた呪文を唱え、金メダルを高く差し上げた。
阿部は雪風に飛びついて金メダルを奪い取った。
空に雷鳴が鳴り響き、風が吹いてきた。暗雲たれこめた雲が渦巻いた。
「しまったあ」
アメリカ沿岸警備隊の巡視船「ハミルトン」
がくやしがる。彼は警備隊員のウイロである。
 「地球の命運は尽きたな。他の世界にいる兄貴たちの手を煩わせることなく私のものになるんだ」
 マークスは笑いながらどこかへテレポートしていく。
 「また会おう」
 ウイルパーは笑みを浮かべながらどこかへ飛び去った。
 地響きを立てて何かが浮上しつつあった。
 雪風は駆逐艦に変身するとその島へ走っていく。
 「鬼界島だ」
 「やしま」こと沢本隊長が言う。
 「あの島へ行こう」
 思い切って言う三神。
 「そうしよう。チーム7はあの島へ行く」
 戦艦大和は腹を決めたように言う。
 深くうなづく阿部、芥川、杉本。
 「僕もなんとかがんばるよ」
 自信なさげに言う長島。
 「クリスタルがあの島の中心にある祭壇に置けって言っている」
 芥川はバックから竜ヶ岩洞でもらったクリスタルを見せた。
 和田は巡視船「あそ」に変身した。
 「上陸したら私がそこへ走る」
 杉本は真剣な顔になる。
 阿部と芥川、杉本は「あそ」に乗った。
 霧の奥からコウモリの翼を生やしたタコがたくさん飛び出した。邪神眷族群だ。あの姿はクトウルーの眷族だ。彼らは主である邪神クトウルー同様の姿をしている。
 飛翔音がして戦闘機のミュータントがミサイルで眷族群を撃ち落していく。
 「沿岸部には魔物警報が鳴っている。自衛隊やTフォースに出動命令が出ているから心配するな」
 「しらね」こと志村はミサイルで空飛ぶタコを打ち落としながら声を荒げる。
 その後方にリリスが合体するQE2や他の客船が見え、霧の奥から魔術師たちやTフォース隊員たちが空を舞いおのおのが持っている魔術や武器で撃ち落すのが見えた。
 三神、戦艦大和、和田、ロイヤルウイングは霧の奥へ進んだ。
 しばらく行くと深い霧からなにか船舶が現われた。
 立ち止まる三神たち。
 沢本隊長や志村たちははるか後方で邪神眷族群と戦っている。それに襲来のときは自衛隊も出動する。前方から来るものは援軍ではない。
 それは旧日本海軍の艦船だった。駆逐艦「愛宕」や「戦艦陸奥」を先頭にいろんな種類の艦艇が隊列を組んで航行する。
 上空を機首を並べてゼロ戦の編隊が飛んで行く。
 「大和。これは幻だ」
 三神は目を吊り上げた。
 一式陸攻の窓から古賀峰一長官や山本五十六長官が手を振っている。
 黙る大和。
 隊列の中に戦艦武蔵がいた。どこにも欠けた所はない。そんなハズはなかった。自分はファンタムの映像で沈むのを見たし、実際の戦場でも武蔵がやられるのを見ている。
 「消えろ!!幻め」
 大和の主砲が火を噴いた。隊列を組む艦隊に向かって青白く光る三式焼夷弾が炸裂した。
 かき消すように消える艦船群。
 「行くぞ」
 大和はスピードを上げた。三神たちもついていく。
 濃い霧の向こうに途方もなく巨大な岩柱やアーチ型の門が見えた。すべてが大きかった。門や通路だけでも東京ドームが丸ごと入りそうなほど大きかった。
 「これでルルイエの一部なんだな」
 声を震わせる和田。
 伝承と書物だけでその存在すら幻でないかと言われていた島が浮上したのだ。
 島は運河で結ばれているようだ。
 大和たちは奥へ進む。
 川岸には半漁人たちがうろついている。彼らの手には銃が握られ防弾チョッキを着用していた。
 運河を進むと二つに分かれた運河が現わる。
 「俺は右を行く。あの方向にあいつがいる。あいつとケリをつける」
 大和は口を開く。
 「俺たちは左を行く。生きて帰ったら宴会をやろう」
 三神は言う。
 「そうしよう。幸運を」
 大和はそう言うと右の運河を進んだ。
 しばらく行くと東京ドームが二個入りそうな部屋に出た。そこに駆逐艦「雪風」がいた。
 「雪風。おまえは俺に会いたいわけじゃない。あいつに会いたかったんだろ」
 疑問をぶつける大和。
「そうさ。ワシが会いたいのは速水少尉だ。おまえなんかじゃない!!」
目を吊り上げる雪風。
「そうだと思ったよ。おまえはあいつに惚れてたんだ。だがおまえはあいつを蘇らせることはできずに邪神を復活させることに変更した。でも復活はしない。金メダル一つでは浮上しない。おまえの企みは消えるんだ。幸運の駆逐艦「雪風」すっかり幸運に見放されたな」
大和はビシッと主錨で指をさした。
「幸運は消えはしない。ワシはこれでも邪神ハンターの端くれ。おまえも道ずれにしてやる」
雪風は声を荒げた・

左側の運河を進んだ「こうや」「あそ」ロイヤルウイングの三隻は行き止まりの岸壁に上陸した。
「あそ」から降りる阿部、芥川と杉本。
杉本は電車に変身した。
ミュータントに戻った三神たちと一緒に阿部たちも車内に乗り込む。
石畳の上を走行するロマンスカー。
「小田急の沿線以外の所を走るのははじめてだ」
つぶやく杉本。
木々は捻じ曲がり草は渦巻き霧の中を半漁人たちがこちらの様子をうかがっている。
「なんでジジイたちは俺をおまえのチームに入れてくれたんだろう」
ふとつぶやく和田。
「桑名さんたちに役に立つからといわれて入れた。君は役に立っている」
三神はフッと笑う。
今思うと落ちこぼれだけど役立っている気がする。
「そう言われたのは始めてだ」
うつむく和田。
最初から海保や邪神ハンターになるつもりはなかった。なる前はチンピラ。祖父と父親の進めで入隊した。邪神ハンター試験にも受かった。初めて組んだ相手がこいつだった。こいつの祖父が凄腕のハンターとは初めから知っている。祖父にさんざん耳にタコができるほど言われた。
「おまえっていい奴だな!!」
思わず抱きつく和田。
「やめろ。気持ち悪い」
押しのける三神。
自分はそんな趣味はない。
「僕たち殺人事件に巻き込まれただけなのにものすごいことになっているね」
長島が車窓を眺めながら言う。
「そうね。私は大和事件に巻き込まれた」
阿部がポツリと言う。
「僕はクリスタルの声を聞いただけだ」
芥川が言う。
「・・・つながり。私たちはつながっているのよ。私の祖母は大和と仲良かった。しかしその大和は奴ら・・・たぶん宇宙人に暴走するように改造された。そしてあなた方はカルト教団を壊滅させたチームの孫。そのカルトを操っていたのも邪神を復活させようとしたのもマークスみたいな宇宙人よ。彼らの企みを阻止しないとまずいわ」
阿部は真剣な顔で言う。
「もちろんそのつもりでいる」
三神が言う。
「でもゼウスグループには優秀な弁護士が何人もついていて起訴することは難しいそうだよ。相手は世界的に有名な企業だから一筋縄にはいかないと思う」
杉本が車内アナウンスでわりこむ。
「それはそれで邪神の復活を阻止して遺跡、遺物を守れればいいさ。俺たちは自分たちでやれることをやろう」
三神が強い口調で言う。
それしかないだろう。
和田たちは深くうなづいた。
「あの神殿だよ。あそこへ行って」
車窓を眺めていた芥川は指さした。

雪風は呪文を唱えた。彼の周りの海水が津波のように立ち上がり両側から大和をはさみこみ龍のように巻きつく。
「ぐああ・・・」
万力で全身を締め付けられるような痛みに声を上げる大和。
雪風は別の呪文を唱える。赤い光る槍がいくつも現われて動けない大和の船体を貫いた。
くぐくもった声を上げて暴れる大和。
雪風の主錨といくつかの鎖が赤く輝いたかと思うと彼が動いた。
大和の船体中央部にナイフで深くえぐったような傷跡があらわになる。
「暴走しないのか?」
雪風は笑いながら大和のコアをつかんで力を入れた。
大和はうめき声を上げてよろける。
「ワシはおまえを蘇らせたのにおまえは速水少尉を消した。だから返すべきなんだ」
雪風はコアを引っ張った。
「と・・・取られてたまるか!!」
大和は怒りをぶつけた。青白い閃光と衝撃波が雪風を弾き飛ばし数百メートル離れた壁に激突した。
大和は雪風に向けて副砲や機銃を撃つ。
雪風は間隙を縫うように走り呪文を唱えた。大和の回りに竜巻がいくつも現われた。その竜巻が大和の船体をその先端部でえぐる。それも一つだけであなく竜巻は意志を持つかのように次々えぐった。
思わず声を上げてもがく大和。
「そのコアはワシのものだ!!」
雪風はえぐった大和の船体に再び鎖を突き入れてコアをつかむ。
「おまえのものであるわけがないんだ」
大和の主錨が青白く輝き雪風を殴りつかみ壁にたたきつけて放り投げた。
主砲を向ける大和。彼はひらめいた。
「魔光裂光弾」
彼の主砲が火を噴く。弾は黄金色に輝いている。雪風は別の場所にテレポートした。しかし徹甲弾も軌道を変えて雪風に命中した。そして黄金色の閃光が走り風船が破裂するように四散した。

景山からもらった変化の地図を見る三神。
地図は日本地図ではなくて鬼界島の地図に変わっていた。
神殿の前で停車するロマンスカー。
車外へ出て神殿に入る阿部、芥川、長島、三神、和田。
ミュータントに戻って追いかえる杉本。
神殿はギリシャにあるバルテノン神殿に造りが似ている。しかし途方もなく巨大だ。そのそもこの島も建物も眷族群用に造られているからだろう。
部屋の中央に祭壇がある。
部屋の奥から山口号と新幹線700系が出てくる。テロ組織「ロイヤルズ」のボスとメンバーなのは知っている。700系の運転席の窓に輝く二つの光は赤く輝き、SL山口号の前照灯も赤く輝く。
「ここでおまえらは終わるんだ」
山口号はビシッと鎖で指さす。そして姿が崩れ蝕椀が飛び出す。
700系も同様に新たな器官が生え膨れ上がり拡大して触手が生えた大木のような物になり二つともくっついて一つになる。
丸太のような蝕椀を振り下ろた。
飛び退く三神たち。
阿部と芥川は巨大柱の影に隠れる。
「バルカン砲」
三神は片腕を機関砲から16連射バルカンに変形させ山口と700系だった大木を撃つ。
弾は青白い弾が連続で連射される。
大木の怪物にすべて命中した。
すげえ。思ったとおりに変形する。
和田は長剣を抜くと触手を切って行く。
「ファイア」
長島は腕輪をはめると呪文を唱えた。バスケットボールほどの大きさの火の玉が切断した傷口を焼く。
紅ひょうたんを出す杉本。
行く前に基地でもらった。ひょうたんの蓋を取るとバズーカー砲が飛び出す。これも魔弾銃である。死んだ結城が持っていた武器と同じものだ。
杉本は触手をよけながら撃った。弾は凍りの弾である。怪物の枝に当たると凍る。
大木の怪物は口や蝕椀が火を吐いた。
たちまち部屋の温度が上がる。
「ブリザド」
「吹雪」
和田と長島が呪文を唱える。
部屋内に雪や氷のかけらが吹き荒れて温度が下がる。
阿部と芥川は柱から柱へ隠れ、触手をかわしながら祭壇に近づく。
柱を背に炎をかわす三神。
このままじゃあ拉致が開かない。バズーカーみたいな物があれば吹っ飛ばせる。
三神がそう思った時である。虚空から魔弾バズーカーが出現した。彼は目を丸くしてそれをおもむろに肩にかつぐ。バズーカーからプラグが飛び出し彼の背中に接続される。
「魔光衝破弾」
三神は精神を振り向けた。
バズーカーから青白い光線が飛び出し広がった。大木は青白い光線に焼かれ塵になった。
阿部と芥川は柱から飛び出し祭壇へ行くとクリスタルを据えつけた。
三神は胸を締め付けるような痛みにひざをついてバズーカーを落とした。バズーカーは落とすと消えた。
「大丈夫か」
駆け寄る和田。
うなづく三神。
痛みはすぐ消える。
「大きなパワーを使ったからだと思う」
長島が気づいたことを言う。
杉本は紅ひょうたんを持っていたバズーカーに向けると吸い込まれた。
なかなか便利なひょうたんだ。
「みんな旧神が来るわ。脱出よ」
阿部が叫んだ。
杉本は電車に変身して車体からいくつもの鎖を出して三神たちをつかんで車内へ入れて走った。
神殿を飛び出すと虹色の光線がいくつも降り注ぎ空の彼方から人間に似た炎の生物がやってくるのが見えた。両端の尖った円筒状のものにまたがり腕に似たしなやかな付属器官に司教杖を持ちその杖を振るうと青白い光線が放出される。その光線を浴びた半漁人たちは塵と化した。
その光線を縫うように走行する杉本。
地面に大きな断層が走りさっきまでいた神殿が崩れた。
「もっとスピードでないの?」
長島がそわそわしながら言う。
「私は新幹線じゃない。それ以上でない」
きっぱり言う杉本。
地割れがすぐそこまで迫っている。
この祠の向こうは岸壁である。
そのつもりで来たが岸壁が崩れて海になっていた。海面はあっちこっちで渦潮ができている。
「まずい。ユニヴァーサル号呼ぶうちに沈むぞ」
三神が身を乗り出して叫ぶ。
和田はひらめいた。
「レビテト」
空を飛ぶ呪文を杉本にかけた。フワッと浮かぶロマンスカー。
「デムスウイング」
長島は風の呪文を唱えた。強風が車体を押して飛んだ。さっきまであった地面が崩れ海に没した。島から遠ざかる杉本。
閃光とともに衝撃波が同心円状に広がった。
背後で不気味なキノコ雲が上がる。
しばらく飛ぶと濃い霧が晴れて太陽が見えた。朝日である。
「夜明けだぁ」
車内で喜んで抱き合う三神たち。
立ち止まって向きを変える杉本。
濃密な霧が晴れて霧の奥から巨大な艦影が遠ざかっていくのが見えた。
戦艦大和である。
思わず三神に抱きついてキスをする阿部。
口笛を吹く和田。
「やめろよ」
赤面して押しのける三神。
まだ好きでもなんでもない。
「危険の中で生まれたロマンスは長続きしないもの。だから好きは言わない」
じらすように言う阿部。
「俺だって好きは言わない。もうちっといい女はミュータントにもいる」
意地をはるように言う三神。
あきれかえる杉本と芥川。
「とりあえず基地へ戻ろう」
杉本は言った。
 

 横浜防災基地。
 ロビーで一人の保安官が盗聴器を見つけ出す装置を片手に歩き回っていた。
 「西村。そんな盗聴器なんてここにあるわけないよ」
 和田は肩をすくめた。
 「ほっといたら?」
 三神は腕を組んだ。
 よくTVのバラエテイ番組で盗聴器を追う番組があったりするがそれのマネだろう。
 「つきあっていたら日が暮れるわよ」
 「二人の女性保安官があきれる
 「田中さん。三島さん」
 振り向く三神。
 田中保安官は巡視船「さろま」と合体。
 三島は巡視船「つるぎ」と合体しているが二人とも保安官でありながら魔物ハンターで魔術師である。
 「三神。あのバカと相棒を組むときは気をつけなさいよ。あんまり役に立たないから」
 ささやく三島。
 「なんで?」
 ささやく三神。
 「邪神ハンターといっても落ちこぼれよ。なんの取り得もない。祖父は凄腕の邪神ハンター「宗谷」父親は海保の長官。親の七光でなったようなものだから」
 三島が言う。
 和田はコンセントを分解して盗聴器を取り出す。
 階段から駆け下りてくる沢本。
 「緊急出動だ」
 西村以外の保安官たちはロビーを飛び出し海に飛び込んで巡視船に変身した。
 東京湾を出て犬吠埼沖に行くと大型貨物船が停船している。
 沢本は目を細める。
 生命感知センサーに船員たちは倒れているのが見えた。
 「倉庫に侵入者がいる。気をつけろ」
 沢本は注意する。
 三神と和田は鎖をくるくる回して投げて手すりにひっかける。二人はミュータントに戻って手すりまで上昇して甲板に上がる。
 「レビテト」
 三島は呪文を唱えるとミュータントに持った。同じく戻った田中と沢本と一緒に船橋に入っていく。
 三神と和田は腕時計の船内地図を見ながら船倉へ飛び込んだ。沢本の指摘どうりに先客が物色していた。
 「ラウ・こーハン。逮捕する」
 三神と和田は片腕を機関砲に変形させる。
 コンテナから顔を上げる侵入者。
 「覆面しても気配でわかる」
 和田は声を低めた。
 笑いながら覆面を取る工作員。
 身構える二人。
 この男は北朝鮮の工作員である。この男自身も万景峰一〇号と合体する。万景峰一〇号は北朝鮮と新潟を時々行き来する貨客船だが実際は工作船に指示を出す工作母船だった。
 「戦艦大和事件のときは見に行っただけっていくが実際は俺たちを始末するつもりだったんだろ」
 和田は機関砲を撃つ。
 ラウは上体をそらす。
 「言っただろうあの時。つまらないってね」
 クスクス笑うラウ。
 歯切りする三神と和田。
 「いいこと教えてやる。この船には目的の””物”はなかった」
 すまし顔で言うラウ。
 「何ィ?」
 「ゼウス・グループの動きには気をつけろ。あいつらはあらゆる手を使って古代遺跡や古代遺物を探している。それも飛びきりの張古代のオーパッツさ」
 ラウはもったいぶるように言う。
 「なんでおまえはそういうことを教える」
 三神は声を低める。
 こいついったい何者だろう。ただの北の工作員じゃない気がする。
 「俺はただのスパイ。ただ地獄耳なだけ」
 ラウは懐から何か出すと背後の壁に投げた。せつな閃光とともに爆発。コンテナの影に隠れる二人。彼はその穴から飛び出した。
 コンテナの陰から飛び出しその穴から身を乗り出す三神と和田。
 そこには誰もいなかった。

 上野にある東京国立博物館
 大和とリリスは博物館に入った。
 二人は博物館に遊びに来たのではない。博物館から指名手配中の犯人が来たという通報を受けて来たのである。
 館内には平日とあって来館者は少ない。
 その指名手配犯は本館にいた。
 「雪風。ひさしぶりだな」
 大和は中年の男に声をかける。
 「Tフォースよ。逮捕する」
 短剣を抜くリリス。
 この短剣もただのショートソードではない。霊力を持った短剣である。
 「蒼紅の剣か。それは魔力をこめらている。鉄を泥のように斬ったとされる」
 雪風は展示物のケースを割って呪文を唱えた。展示物ケースからカタカタという音をたてて飛び出す刀。
 「エペタムよ。気をつけて」
 リリスはその刀を短剣で弾いた。
 「そうみたいだな」
 大和の両腕がプロテクターのように盛り上がり硬質化する。
 エペタムとはアイヌの伝承に伝わる人食い刀である。刀の製造法を知っている者以外は扱いが不可能。無差別に襲うという刀だった。
 刃先から閃光を放ち稲妻の塊が飛び出す。
 大和はそれを片手でつかんだ。
 驚きの顔をするリリス。
 大和は力を入れる。稲妻の球は風船のように破裂して消える。
 刀がそのまま突っ込んでくる。
 リリスは飛び退き、大和はその刀をつかんだ。彼はそれを力任せに折った。
 雪風と大和が同時に動いた。あっちこっちに出現してパッパッと出現して大和は雪風の拳や蹴りをかわして殴った。
 「ぐはっ!!」
 地面にたたきつけられる雪風。たたきつけられ地面にヒビが入った。
 「このミュータントすごいわ」
 リリスは口をあんぐり開けた。
 大和事件の時に自衛隊や戦闘機、海保の巡視船を相手に戦って蹴散らしたパワーは桁違いだ。
 雪風は口からしたたる緑色の液体をぬぐうと懐から野球ボールを投げた。着弾したとたんに大量の煙が飛び出した。
 大和は濃い煙からぬうっと飛び出す拳と蹴りを大和はかわし、リリスはナイフをかわす。
 雪風は博物館を飛び出した。
 上空をホバーリングするヘリコプター
 博物館を飛び出す大和とリリス。
 雪風はハシゴにつかまって上昇していく。
 大和は助走をつけてジャンプ。ハシゴをつかんだ。
 「レビテト」
 リリスは呪文を唱えた。彼女は宙を浮く。
 ヘリのドアからのぞく羊顔のミュータント。
 誰だか知っている。ウエイトリー・ウイルパーだ。
リリスは呪文を唱えた。力ある言葉に応えて野球ボール位の火の玉がヘリコプターの手前で弾かれる。
 舌打ちするリリス。
 結界が張ってある。実際のミサイルや弾でないとこのヘリコプターは撃ち落せない。
 雪風と大和はもつれ合い殴り蹴る。
 大和は背中から鎖をハシゴに巻きつける。
 雪風は片腕を機関砲に変形させ連射。
 大和の体を弾が貫く。
 大和の片腕がバルカン砲に変形。そこから放たれる弾は青白い光線だった。
 雪風はすんでの所でかわして大和の背後に回りこみ機関砲を連射。
 大和はよろけ手と鎖を放した。
 雪風は笑いながらヘリコプターの機内へ入った。
 落ちていく大和。
 リリスは急降下して大和の腕をつかんだ。
 「う・・・痛てえ・・・」
 顔をしかめる大和。
 言葉を失うリリス。
 あんなに撃たれたら普通は死んでいる。さすが戦艦だからといえばそうだがすごいわ。
 リリスは彼と一緒に上野公園へ着地した。
 
 石川町駅から出てくる阿部。
 「阿部さん。こんにちは」
 ランドセル姿の芥川は手を振って駆け寄ってくる。
 「翔太君。家は帰らなくていいの?」
 阿部は聞いた。
 「家に帰ってもお父さんお母さんはいつも忙しいからいない」
 さみしそうに言う芥川。
 「そうよね」
 言いよどむ阿部。
 そうよね。いつもいないじゃさみしいよね。
 「横浜中華街行かない?」
 阿部が提案する。手にはちゃんとガイドブックを持っている。ここからだと中華街は近いのだ。
 二人はきらびやかな門をくぐった。
 二人のあとをつける二人の男。黒いサングラスをしている。
 「この豚まんおいしそう・・・」
 店頭に並ぶ豚まんをながめる阿部。せつなフッと映像がよぎった。
 見知らぬ男二人があとをつけている。この2人は誰かに頼まれて来ている。探偵とかではなくて殺し屋である。
 「芥川君。行きましょ」
 阿部は芥川の腕をつかんでその場を離れる。
 「豚まんは?」
 わけがわからない芥川。
 阿部の脳にパッパッとどこに隠れて見つからないか逃走ルートが入ってくる。
 これの力は子供の時から持っていた力だ。
 阿部は店内を抜けていくつかの路地を抜けて中華街を出て駅に入った。
 「あらどこいくの?」
 いきなり阿部と芥川の腕をつかむ三人の米国人。いずれもモデル並にスタイルがよく美人。しかも同じ顔の三つ子だ。
 誰だかわかった。
 豪華客船「飛鳥Ⅱ」クリスタルシンフォニーとセレニテイである。本名はキャロラインとイザベラとイレーヌである。三人とも魔術師であるがTフォースの隊員ではない。魔術師の殺し屋である。
 「なんですか?」
 阿部は腕を振り払い、芥川を引き寄せる。
 「ねえ。あのジャーナリスから金メダルがなかったかしら?」
 キャロラインこと「飛鳥Ⅱ」はささいた。
 「知りません」
 きっぱり言う阿部。
 「それじゃああのロマンスカーとパノラマカー知らない」
 イザベラはニヤニヤ笑う。
 「知らない」
 きっぱり言う芥川。
 何を仕様としているか知っている。この三人は誰かに雇われている殺し屋だ。
 「あの観光船は?」
 イレーヌが聞いた。
 二人は首を振った。
 「隠すとよくないわよ。あなたがあの巡視船や戦艦大和といることは知っている。特にあなたは戦艦大和と心を通わせることが可能なのは知っているのよ。テレビの中継で見ていたからね」
 キャロラインは笑みを浮かべた。
 「戦艦大和はどこにいる?」
 強い口調のイザベラ。
 「あの巡視船は?海保なんて私たちの敵じゃないもの」
 イレーヌはケラケラ笑い出す。
 「なんで戦艦大和にこだわるんですか?」
 「あの戦艦は大戦中に改造されて米軍のミュータントを蹴散らした。それだけでなく復活して自衛隊、海保、戦闘機のミュータントまで蹴散らした。うまく利用する価値はあるのよ。それにあの巡視船の祖父はね邪神と対等に戦った邪神ハンターだった。その力は当時凄腕の邪神ハンターであるクロウタイタスをはるかに凌駕するものだった。だから孫であるあの巡視船にもその力はある」
 キャロラインは説明する。
 「そんなにパワーがほしいんですか?」
 芥川が口をはさむ。
 「パワーなんてどうでもいいの。コアをえぐるだけ。コアは高値で売れるのよ」
 キャロラインはクスクス笑う。
 「隠すと海とキッスすることになる」
 イレーヌはニヤニヤ笑う。
 「その前におまえたちが地面にキッスすることになるだろう」
 「海上保安庁である。飛鳥Ⅱ、クリスタルシンフォニー、セレニテイ。一緒に来てもらおうか」
 背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
 出入口に大和と三神が立っていた。
 振り向く三姉妹。
 周囲にいた乗客たちはそそくさと逃げていった。
 サイレンが響いてパトカーと一緒に国連車両もやってくる。国連憲章マークをつけたTフォースの軍用車両だ。車内から和田やリリスが飛び出す。隊員たちが銃を構える。ただの銃ではなく魔弾銃である。
 「あいかわらずロクなことをやっていないわね」
 リリスは短剣を抜いた。
 「邪魔が入ったわね」
 舌打ちするとキャロラインは阿部と芥川を離した。
 「覚えてなさいよ」
 キャロラインはそう言うとイレーヌやイザベラと一緒にどこかへテレポートしていく。
 「けがはないか?」
 駆けつける三神。
 抱きつく阿部。
 「大和」
 芥川は大和に飛びついた。
 ため息つく和田。
 大和は笑みを浮かべて芥川を抱え上げた。
 「なんで僕たちが襲われていることがわかったの?」
 芥川がふと気がついた。
 自分はまだ防犯ブザーは鳴らしていない。
 「クリスタルのキーホルダーが教えたんだ」
 大和がフッと笑う。
 納得する芥川。
 たぶんファンタムだろう。
 「とりあえず基地へ戻ろう」
 三神は言った。

 百里基地に隣接している基地。
 司令室に入る三神たち。
 しかし杉本と長島の姿はない。まだ仕事が終わっていないのだ。
 「阿部さんと芥川君を襲ってきたのはクリスタル三姉妹。キャロライン、イザベラ、イレーヌの三人。この三人はキュプリアン家の娘だ。この家系は代々魔術師の名門で親戚や親は政治家や会社の社長でゼウスグループの役員とも親交があることがわかっている」
 志村は結果報告をするサラリーマンのような口調で説明する。
 「またゼウスグループかよ」
 さじを投げた医者のように言う和田。
 「関係があるんだ」
 いきなり割り込んでくる声。
 アメリカ沿岸警備隊の隊員が入ってくる。
 阿部や芥川にはその隊員が巡視船と合体するミュータントであるのはわかった。
 「彼は沿岸警備隊のウイロ少尉だ」
 桑名が紹介する。
 「相模湾で襲われていた貨物船や東京の博物館を襲った連中はカルト教団「星の智慧派」盗んだのはソロモンの指輪と魔術書ネクロノミコン。しかしソロモンの指輪はレプリカで本物ではなかった」
 ウイロ少尉は説明した。
 「なんで東京の博物館と普通の貨物船がそんなものを持っていたんですか?」
 疑問をぶつける三神。
 ネクロノミコンは世界に三つしかないといわれる書物で狂えるアラブ人アブドウル・アルハザードが晩年に書いたと言われる書物で旧支配者や魔術や魔物のことを書き記した。それを書いた本人はダマスカスの街角で見えない魔物に切り裂かれて死んだいる。
 そしてソロモンの指輪は聖書に登場する古代イスラエルの王ソロモンが所有する指輪である。強大な魔力で悪魔や魔物、アラジンのランプに出てくる魔人でさえも操り封印する力を持っていたとされる。
 自分でもそんなものが実在するとは思わなかった。あれは映画や小説だけの世界だと思っていた。
 「アジトはあるんだろ?」
 大和が口をはさむ。
 「アジトはインスマスと夜刀浦、赤羽牟と思われる。だいたいの予想は夜刀浦から出てきたと思われる」
 桑名はスクリーンに日本地図を出すと房総半島を指揮棒で指した。
 「そういえばあの三姉妹がいっていた金メダルの行方を聞いてきたわ」
 阿部がふと思い出す。
 「あのジャーナリスが持っていた金メダルが重要なのか?」
 三神は首をかしげた。
 あの変な文字がびっしり書かれている変なメダルだった。
 「それについてなんだけど資料が解読できたんだ」
 いきなりわりこんでくる景山。
 「昔話に「ももたろう」ってあるだろう。それには鬼が島が登場する。鬼が島にはいくつか異説があってねさだかではないんだがある説があってね。あれは太平洋に沈んでいるルルイエの一部ではないかと思っている」
 景山はせきを切ったように口を開く。
 「だってあれは昔話でしょ」
 リリスが口をはさむ。
 「これはあくまでもデスパシエール博士の仮説だ。私は彼の友人だった。パノラマカーとして走りながら彼と一緒に古文書や魔術書を研究した。世界の神話や伝説、遺跡はただの伝説じゃないってことだよ。ピラミッドは本当はクフ王の墓ではなくなんかの兵器でないかという仮説ああるんだ」
 「そんなバカな・・・」
 「あくまで彼の仮説だよ」
 肯定も否定もしない景山。
 「彼はどうなった?」
 和田が口をはさむ。
 「あのジャーナリスが死んだ日と同じ月に殺された。殺されて私のところにもあの遺物が来たんだ」
 景山は言う。
 黙ってしまう大和たち。
 「金メダルはおそらく鬼界島を浮上させる鍵なんだろう。鬼界島はルルイエの一部でね。昔話はまんざらだたの言い伝えではなかったんだ」
 景山ははっきり言う。
 「ではあの二人と合流したら夜刀浦に踏み込もう」
 桑名は言った「。

 その夜。
 長島と杉本がロビーに入ってきた。
 「仕事が終わったんだ」
 目を輝かせる芥川。
 「仕事が終わるまで待ってくれるとは思わなかった」
 杉本が言う。
 「でも選ばれたなんて今でも信じられないかな」
 長島は心配そうな顔で言う。
 ロビーに入ってくる阿部、三神、大和、和田の四人。
 「どこに行くか聞いている?」
 和田が地図を出す。
 「夜刀浦なってあるの?鉄道路線図にない」
 はっきり言う杉本。
 そんなもの聞いたことがない。
 「仲間のフェリーに聞いてもそんな島なんて聞かないよ」
 反論する長島。
 「それが存在するらしい。俺も初耳なんだ。海保も知らないらしい」
 三神は首を振る。
 海上保安庁の上層部が夜刀浦の存在を知っているという。それに勝浦が近いというのに山々に囲まれ唯一の出入口は港だけ。JRや私鉄、道路もない。港の近くに悪魔の入り江があり海流の関係で世界中の水死体が流れ着くという。悪魔の入り江はインスマスの悪魔の暗礁と同じようなおぞましい半漁人「深きものども」が住む場所があるらしい。
 黙ったままの大和。
 自分が雪風のきまぐれで蘇ってからいろんなことが動き始めた気がする。これで終わりではなくてこれからも起こってくるような気がする。そんな気がするのだ。
 「昔話のももたろうをしっているだろ。あれは単なる昔話でなくて鬼が島は存在していたという話だ」
 和田がもったいぶるように言う。
 「バカなあれはただの日本昔話だ」
 首を振る杉本と長島。
 「鬼界島は鬼が島だった。そして太古の昔に永遠の深い眠りについた邪神クトウルーが眠るというルルイエの一部だった」
 核心にせまる和田。
 「じゃあ、ももたろうは鬼ではなく邪神を退治しに行ったの?」
 信じられない顔の二人。
 「そういうことになるね。浦島太郎は竜宮城ではなく”亀裂”に入り込み別の世界へ行ったといえるんだ。まんざら言い伝えではないかもしれない」
 推測する三神。
 流れでみるとそうなるのだ。浦島太郎は偶然”亀裂”に入り込み元の世界に戻ってきた。そしたら数百年経っていたという話だろう。
 「これがTフォースの戦闘服だ」
 桑名が人数分の戦闘服を持ってくる。
 「それぞれの特性に合わせて作ってある」 
 シドが口をはさむ。
 阿部たちは近くの更衣室へ行って着替えてロビーに出てきた。
 阿部と芥川のは普通に国連軍兵士が切るような普通の服で三神たちのは戦闘スーツに近い。ピッタリフィットしてなおかつ動きやすくできている。
 「夜刀浦のアジトに雪風とウイルパーがいることがわかっている。そこへ向かえ。志村のチームや戦闘機チーム、海保のチームも援護に向かうことになっている」
 桑名は説明する。
 「これがユニヴァーサル号だ。常温核融合エンジンで宇宙船なんだ」
 シドは自慢げに格納庫にあるエイかサメを思わせる形状の宇宙船を指さした。
 「映画に出てくるUFOにそっくり」
 長島がボソッと言う。
 フォルムがまるっきり似ている。
 「NASAやJAXAの技術が使われているんだ。むろんそのノウハウはエイリアンからもたらされている」
 シドは咳払いしながら言う。
 「彼らの技術は身近なものにも使われている。世間の人々は知らないだけだ」
 桑名がしゃらっと言う。
 シーンとなる大和たち。
 彼らはユニヴァーサル号に乗り込む。
 コクピットは新幹線の運転台のようにコンパクトにまとまっている。あるのはモニターと操縦桿だけだ。
 イスに座ると彼らはシートベルトを締めた。
 三神は操縦桿を握ると船内にいる乗員をセンサーが認識したのか船体が浮き上がった。
 格納庫の扉が開き三神は軽く押した。するとフワッと浮かび格納庫を飛び出した。
 「すげえ・・・」
 三神は興奮しながら叫ぶ。
 あっという間に茨木市内上空を飛び去る。
 絶句する大和たち。
 三神は軽く操縦桿を引いた。すると少し減速した。
 この宇宙船すごい。少しの動きで追随する。ものすごい性能だ。
 ユニヴァーサル号は夜刀浦へ向かった。
 
 夜刀浦。
 千葉県の海底郡にある地方都市である。強大な祟り神である人頭蛇体の夜刀神を土地神として祭っていたことからこの名前がついたとされるが地図にはない街である。戦時中は飯綱製薬の巨大な軍事施設が建てられ、怪しげな実験が繰り広げられ海辺では家老一族の具邇家による巨大な缶詰工場が稼動。大学と図書館があった。
何度も大きな津波に襲われる海辺は海流の関係で世界中から水死体が流れ着く。しかし大戦末期米軍の空襲で徹底的に破壊されその跡にやってきた進駐軍とTフォースによって所蔵していた書物や道具を接収した。今ではさびれた町があるだけである。そしてもう一つの顔は深きものどものコロニーの入口がどこかにあるといわれている。
 ユニヴァーサル号は八斗浦地区と呼ばれる広場に着陸した。