セールスの現場で最もよく耳にする言葉の一つが、「お金がない」です。多くの初心者は、その一言を聞いた瞬間に「では仕方ありませんね」と引き下がってしまいます。

 

しかし、本当にそれでよいのでしょうか。

“お金がない”は拒絶の言葉ではなく、むしろ助けを必要としているサインです。

 

なぜなら、経済的に余裕がない人ほど、将来に向けた資産形成やマネープランを立てる必要があるからです。もしここで話を終わらせてしまったら、その人は一生「お金の不安」を抱え続けるかもしれません。

 

大切なのは、相手の言葉を表面的に受け取らないことです。

 

人によって「お金がない」の基準はまったく違います。ある人にとっては数万円でも厳しいでしょうし、別の人にとっては数百万円なければ同じ言葉を使うかもしれません。

同じフレーズでも背景は大きく異なるのです。

 

だからこそ、セールスはその言葉の裏にある本当の事情に耳を傾ける必要があります。

 

ここでよく例に出されるのが「靴の話」です。ある営業マンがアフリカに靴を売りに行きました。誰も靴を履いていない光景を見て、「ここには市場がない」と言った人もいれば、「全員が潜在顧客だ」と喜んだ人もいました。

 

違いは視点だけです。“お金がない”という言葉を「断られた」と捉えるか、「助けを求めるサイン」と捉えるか。セールスの成否は、この解釈の違いにかかっています。

 

さらに大切なのは、セールスは単発の売り込みではないということです。

相手と共に土台を作り、時間をかけて信頼関係を築く仕事です。

 

だからこそ、“お金がない”と口にした瞬間こそ、こちらが危機感を持って寄り添うべきタイミングです。もしその人の家計や将来設計を一緒に考え、数年後に「あなたのおかげで安心できた」と言ってもらえるなら、それはセールスの最大の喜びではないでしょうか。

 

では、どうすればよいのでしょうか。

 

まずは「お金がない」と言われた時こそ一歩踏み込み、相手と共に現状を整理することです。

 

具体的には、毎月の収支を一緒に棚卸しする、将来必要な生活費を試算するなど、小さなステップから始められます。たとえ今すぐの契約につながらなくても、「お金の整理を手伝ってくれた人」という印象は強く残ります。

やがて余裕が生まれた時、最初に声をかけられる存在になるのです。

 

“お金がない”は断り文句ではありません。それは、未来の顧客が発する「今はまだ準備ができていない」というメッセージです。その奥に潜む不安に気づき、真剣に向き合ったとき、セールスは単なる販売行為ではなく「人生に寄り添う仕事」へと変わっていきます。