精子凍結保存2 | 精巣腫瘍をめぐる冒険

精巣腫瘍をめぐる冒険

Ⅲ年b組 予後中間群

 2月21日 

 h病院に入ると、わたしだけが男でした。待合スペースは、ホテルのフロントのような雰囲気で、受付の職員もホテルマンのような服装をしていました。
 わたしは初診なので、受付で手続きをしなければなりませんでした。アイドルのような顔立ちの女性が、丁寧に対応してくれました。あとは、わたしも女性たちにまじって、病院のものにしてはやわらく、高級そうな椅子に座って、自分の番号が呼ばれるのを待っていました。
 体が痛いので、コートも脱がず、座ったままでいました。熱帯魚の水槽があり、それを見ていました。
 女性たちが椅子から立ち上がっては、奥の部屋へ入って行きました。それから、また椅子に戻ってきました。それから、受付に行ってお金を払っていきました。
 ふと視線を動かすと、斜め前に座っている若い女性が、涙を流しているのに気がつきました。それは、たしか先ほど奥の部屋から帰ってきた女性だとわたしは記憶していました。女性の目からは涙がほろほろと流れています。女性はほとんど体を動かすことはなく、ただ涙だけが流れていました。椅子に座り、前を向いたままのその女性の頬を、涙がほろほろと流れています。わたしは、また、熱帯魚の水槽に視線を戻しました。
 結局昼過ぎまでかかりましたが、わたしの精子凍結はスムーズにすみました。初診の場合、精子の検査や医師からの説明がある為、時間がかかるのです。
 わたしはまた駅にまで戻ってきました。朝この駅に着いたときに腰掛けたベンチに、またわたしは腰掛けました。すーっと、電車がホームに入ってきました。わたしは電車に乗り込みました。