東中神の建設現場に転属されて約一ヶ月。
身体が慣れてきたので、脚の筋肉痛はほぼなくなってきたけれど、腰痛がひどくなってしまい、立ち上がるのも座るのも一苦労。うっかりするとぎっくり腰になりそうなので、かなり気をつけて動くようになったので、益々老人化してしまった(笑)
とりあえずこの2連休で痛みが治まるように、できるだけ安静にしたいと思いながら今日は、僕の癒しスポット、シネマネコさん、10:00上映回を鑑賞しに行った。
今月、開館から3周年を迎えるシネマネコさん。
年会費を払って、4年目の会員カードを発行してもらった。
そして、いつものB-5の座席につく。
あまろっく
バージンロードを花嫁姿の二人が歩いていく。
その傍らには“竜”と書かれた手ぬぐいが掛けられている。

1994年。
小学四年生の優子はスワンボートで、父の竜太郎、母の愛子とともに【尼崎閘門】、通称【尼ロック】へ向かっていた。

尼ロックは、0メートル地帯の多い尼崎地区を水害から守っている。
優子は作文コンクールの題材に尼ロックを選び、その取材のために向かっていたのだがスワンボートに乗っているのが恥ずかしかった。
しかし竜太郎も愛子も楽しそうに過ごし、そんな二人に挟まれた優子は幸せだった。
「母はお父ちゃんがうちの尼ロックやと言います」
作文で優子は、そんな“尼ロック”の日常は家でごろごろしていて、立つのは阪神がヒットを打った時くらい。口癖は「俺は我が家の尼ロックやからな」。
経営する鉄工所でも働いているのは職人さんだけで、竜太郎はぐーたらだと言った。
その作文は優秀賞を獲ったが、尼崎の人もあまり知らない“尼ロック”を、父の言葉にのって題材に選んだことを悔やみもした。
「私は、立派な大人になりたいと思います」
作文はそう締めくくられていた。

2015年。
大手のコンサルティング会社で、業績を讃えられて表彰を受ける優子は、恋人も作らず一生懸命努力して、すっかりキャリアウーマンになっていたが、仕事ばかりの堅物で、同僚などとの関わりもなかった。
そのうえ、後輩の企画書を頭ごなしにけなし、泣かせてしまう始末。
そんな優子は業績優秀でありながら、リストラを宣告されてしまうのだった。
小学生の頃から必死に勉強してきた優子は、京都大学に進学し、ボートの大会でも優勝した。そんな努力の日々も、リストラですべてが崩れてしまったのだ。
そして尼崎の実家へ帰ってきた優子を“祝リストラ”と書いた横断幕で迎える竜太郎は、赤飯まで炊いていた。
「人の不幸がそんなに楽しいか?」
「あほ、人生に起こることはなんでも楽しまな」
そんな父の愚痴を、小学校の同級生たいちゃんの屋台でおでんをつまみながらこぼす優子。
鉄工所を継いだらいいじゃないかというたいちゃんの言葉に「あんな工場!わたしは引く手あまたや」と言い返す優子。

8年後。
優子は相変わらずニートだった。
いまではすっかり自宅でのぐーたらも板につき、かつて否定していた父竜太郎の姿にそっくりになっていた。
一方、竜太郎は工場の熟練職人鉄蔵に、厄介事を抱えていると見抜かれていた。
竜太郎の抱える厄介事。それは、優子にどう伝えるべきかということ。
優子との夕食時、なんでもない会話の末尾に「お父ちゃん、再婚することになりました」と混ぜた竜太郎。

家を追い出されるのではないかと思った優子だが、そうではないということで、再婚は了承した。
母愛子が亡くなって19年が過ぎていた。
そしてある朝、優子がまだ寝ていると、竜太郎が誰かを招き入れる声が聞こえてきた。階下におりると、そこには若い女性と竜太郎がいた。
「連れ子?」
その若い女性、早希が竜太郎の再婚相手だったのだ。
オバハンが来ると思っていた優子は、二十歳の早希を見て混乱してしまうのだった。

商店街を歩く竜太郎と早希は、入籍を済ませたばかりだった。
優子の好きだというハンバーグを作ろうという早希。
そんな早希に声をかけてきた南雲は、息子が海外赴任から帰国してくることを話したが、38歳で独身ということを嘆いていた。
その夜“家族団らん”ということに興奮する早希に辟易する優子。

そんなある日、早希が優子に見合いの話を持ってきた。
相手は南雲の息子広樹で、優子と同じ京都大学の出身者だったが、優子は見合い写真を破り捨ててしまうのだった。

早希が名前のイニシャル入りのマグカップを買ってきた日。優子のものを【U】で買ってきてしまい、愛子の分を【I】で買ってきてしまっていたことに笑う竜太郎。
「母まで巻き込まんといてくれますか。うちとあんたは赤の他人なんやから」
優子はマグカップを外へ投げ捨ててしまう。
そんな喧嘩さえも、早希は嬉しそうだった。
「親子ゲンカ」

優子の部屋に大きなおにぎりを持ってやってくる竜太郎。
「食うて寝たらたいがいのことはなんとかなるがな」
そのおにぎりは、愛子が亡くなった時に竜太郎が作ってくれたものと同じく不格好で、梅干の種が入ったままだった。

翌朝。
早希に見送られてジョギングに出かける竜太郎。
いつも首に巻いている“竜”の手ぬぐいを忘れたことに気づき、2階の優子に声をかけてベランダから放ってもらった。
「サンキュー」
そして駆け出していく竜太郎。
しばらくすると天気予報から急激な雷雨のニュースが流れてきた。
早希は傘を持って竜太郎を迎えに走ったが、雨は降り出し、優子は雷雨を窓から眺めていた。
早希は救急車に担架で乗せられていく男性の姿を遠目に見たが、その手から“竜”の手ぬぐいが落ちていった。
それを見て駆け寄っていく早希。

喪服の優子は、部屋に置いたままの皿に残った梅干の種を見つめていた。
そして竜太郎の納骨が終わった。
「もういいんとちゃいますか?」
優子は早希に自由になるように勧めたが早希は頑として譲らず、家に残るのだった。
そんなある日、優子は竜太郎とかつて来たうどん屋の前を通りかかり、思わず入っていた。
唐辛子を大量にかける竜太郎を思い出していたら、優子のうどんは真っ赤になってしまっていた。
そこへやってきた広樹が自分のうどんと交換した。
その夜、テープで貼り直された見合い写真を見て、それが広樹だったと気づく優子。
そんな優子に早希が自宅の電話番号を教えてあると伝え、そして電話がかかってきた。
優子は広樹と会うことにしたが、そこで広樹の仕事に関するアドバイスなどを行ったが、広樹はそれを楽しかったと言った。
そうして何度か食事をともにするようになっていく優子と広樹。
その頃、早希の妊娠が判明していた。

広樹が優子にプロポーズするが、それにはアブダビへの赴任が伴っていた。
デートの話を聞きたい早希は“こぶら返り”を偽って優子をおびき寄せた。
「“こぶら返り”は間違いで“こむら返り”や」
と言いながら、その末尾に「プロポーズされました」と告白する優子。
しかしアブダビ行きのことは言えなかった。
早希は、幼少の頃、イケメンの父が浮気して家を出ていき、母は男を連れ込み、ずっと一人で過ごしてきた。そんな辛さを気づかれないように笑顔で過ごしてきたのだ。
それが竜太郎と出会い、弱いところを見せられるようになった。
「この人と一緒だったら、幸せだろうなって思った」
竜太郎が愛子にしたプロポーズの言葉は「一生笑わせます」。
それさえも早希は素敵だと言う。
そんな話を聞いた後だったので、優子は言えなかったのだ。
しかし商店街で南雲に会った早希は、アブダビ行きを聞いてしまう。

早希は、鉄工所の仕事を手伝い始めていたが、そんなある日、倒れてきた鉄パイプの下敷きなるところを鉄蔵に救われた。
しかし鉄蔵は右手と肋骨を骨折してしまう。
納品に間に合わなくなることから、早希は自分で作業を始めようとするが、優子に止められる。
「出て行く人は黙ってて!」
早希は竜太郎の工場を守ろうと必死だったのだ。
そして優子は広樹に「わたし、大事なものを置いていくんです」と、決心が鈍っていることを伝えた。

優子は自宅と鉄工所を売りに出す決意をしていた。
そのことを早希に伝えるが、早希は納得できなかった。
「このお金で子育てに専念できるやろ。それにあんたまだ二十歳や。これから誰か好きな人に出会うかもしれんやん」
言い合う二人。優子は、プロポーズのOKしたことを後悔していると訊かれて否定できなかったと告白した。
「優子ちゃんは贅沢や!好きな人と一緒にいられるんだから、離れたらあかん!」
「離れたら、家族じゃなくなるの?」
「・・・家族だよ」
そして言い合いの末、優子は「わたしとあんたは赤の他人や!」と叫んでしまう。

そんなことがあった夕食。
兵庫県に警報級の台風が接近していたが、スマホに避難指示が通知された。
避難所の小学校へ向かおうとするが、妊婦の早希には無理だと判断した優子は、1階周りの処置をして2階で早希と過ごすことにした。
「室戸台風と同じくらいらしいよ」
「あんた室戸台風知っとるんか」
「知らん」
そんな会話をしながら過ごす二人。早希はなんとなく笑っていた。
「台風の時も、停電の時も、ご飯も、いつも一人やったから。けどいまは3人一緒やから」
「この前はごめんな、赤の他人やなんて言って」
「絶対、許さない」
笑い合う二人は、やがて同じベッドで眠っていたが、朝、早希がいなくなっていた。
階下におりるといつも通り、朝食が用意されていた。
「台風は?」
「もういってもうたよ。なんでも尼崎は尼ロックがあったから被害が少なくて済んだんだって」


鉄蔵を見舞った優子は、自宅と鉄工所の売却を告げた。
「こんな時、竜ちゃんやったら言うんやろうな。人生に起こることはなんでも楽しまなって」
いつもへらへら笑っていた、いい加減な父、竜太郎。
「それは違うで」
鉄蔵は、震災の時の竜太郎のことを話し始めるのだった。

1995年1月17日未明。阪神淡路大震災が発生した。
その日、いつもとは違う父の姿を優子は見ていたのだ。
優子が止めるのも聞かずに出て行った竜太郎。西宮で親戚が倒壊した家の下敷きになっていたのだ。
竜太郎は三日三晩、瓦礫の下に埋もれた人を救出していたが、家に帰り着くと愛子の前で泣き崩れた。
「立派な人が死んでしもうて、俺みたいなんが生き残るなんて」
「そんな言うたらあかん、あんたは私と優子にとってはたった一人の人なんだから」
そんな竜太郎は鉄蔵に言った。
「俺ら、生き残った者は死んだ人の分も楽しまなあかんって思うんや」
そうやって、いつも笑ってきた竜太郎。
「あいつは頑張ったで」
それを聞いた優子は溢れる涙を抑えられなくなっていた。
そして、広樹にアブダビには行けないと、プロポーズを断るのだった。

そんな話を、尼ロックを眺めながら早希にした優子。
「お父ちゃんはホンマに尼ロックやったんや。いつも見守ってくれたんや」
そして優子は決意するのだった。
「これからは私があんたらの尼ロックになったる」

1年後。
鉄工所では赤ん坊を抱っこしながら“社長”となった優子が、まるで竜太郎のように口で人を動かしていた。
そして赤ん坊の母親で“副社長”の早希が工場に戻ってくると、また仕事をとってきたという。
「営業のレジェンドやな」
そう言う優子の薬指には指輪が光っていた。
そして、若者にどやされている“新人”は、広樹だった。

そしてバージンロードを歩くドレス姿の優子と早希。
「優子ちゃん、きれい」
「お母ちゃんもな」

泣いた。じわじわと涙が滲んできて、溢れ出す涙を上映中に何度も拭った。
笑顔って、実は哀しみの裏返しなんだな、と。
竜太郎の笑顔は、悲哀に溢れていて、だからこそ愛されるのだろう。
“人生に起こることは何でも楽しまな”
優子がその言葉の真意を知った時、ようやく笑顔になるのがとにかく素晴らしい。
全篇を通じて笑いの要素を混ぜながら、軽快に、それでいてズッシリと語りかけてくれる作品だった。
竜太郎があまりにも早い段階で死んでしまうので驚いたが、そもそもこの物語は優子と早希の物語なのだ。
それにしても、65歳で20歳の美女に惚れられるなんて、よほど竜太郎に魅力があるんだろうなぁ。

阪神淡路大震災の映像を久しぶりに観た。
倒れた高速道路や、亀裂の入った道路、崩れて燃える神戸の街。
当時の映像は、映像制作会社の多くで厳重保管された。
心理的に影響のある惨状のせいもあるが、当時、被災地にカメラを持ち込んだだけでリンチに遭ったり、殺された取材班もいたからだと先輩に聞いたこともある。
阪神淡路大震災から、来年で30年。
作品の中で竜太郎がそうであったように、この震災をきっかけに世の中の価値観が変わり始めたものだ。
ボランティア元年と言われ、安全神話はどんどん崩れていった。
2011年の東日本大震災がそうであったように、大災害は人生観を変える。
それでも日常生活は続くのだ。
それを楽しむしかない。亡くなった人の分まで。
楽しむって、本当は哀しみを背負うっていうことなんだろうな。

そして今日はシネマネコさんを出た後、住吉神社へ向かった。
青梅に移り住んで7年。
毎年、この看板を見ては気になっていた八坂神社の例祭。
厄除笹だんごってなんだろうと思いながら、土曜日休みがなかなかなかったので、来れなかったのだ。
そもそも八坂神社がどこなのかさえ知らなかった(笑)

住吉神社の境内に向かう途中、二の鳥居をくぐった脇に、八坂神社があった。
普段、こんな飾り付けされていないので、ただの倉庫くらいにしか思ってなかった場所だった。
一応参拝して“笹だんご”というのを“一本”買ってみた。
一本ってなんだろうって思いながら(笑)

笹の葉に包まれた笹団子くらいしか知らなかった僕は、この70センチくらいの笹にだんごが張り付いたこの“笹だんご”に面食らった(笑)
他の地域では“繭玉”と呼ばれたりするものらしい。
これを持ってマツモトキヨシさんやマクドナルドさんへ行くことになる。
地面に付きそうな箇所についていただんごをむしって、していいのかどうかわからないけれど、だんごをつまみ食いしながら歩いた。
家に飾って、しばらくしたらこのだんごを味噌汁に入れるといいですよと言われたけれど、たぶんしない(笑)

まぁ、面白いものに触れたなって感じかな。

月曜日は東中神の現場を早めに退いて、新橋の事務所に向かうことになった。
その翌日は、動画の編集のために自宅作業らしい。
少し早めに東中神の現場から別の場所へ変更になりそうな話が出ていたけれど、なんだか雲行きが変わってきそうな話も出てきたりしていて、未だにふわふわしている状態だ。
腰痛さえひどくならなければ、正直、どこだっていいし、仕事なんてなんでもいい。
できればヘルメットでハゲが進むのも避けたいけれど、建設現場に入る以上、そうもいかない。
なにより鉄筋臭と鉄筋汚れがついて、汗臭くなるので、そうゆうのは避けたいけれど、そうなるとまた転職先を見つけないといけないので面倒だ。
せめて楽しい予定が組めればいいのだけれど、今のところ、まったくその気配がないので、そのことを考えると哀しくなるので、考えないようにしている。

とはいえ僕は“愛があれば平和だ”と思う性分なので、何もそれを感じられない日々が続くのは辛いものだ。
もう二ヶ月ほど、そんな日が続いてしまっている・・・。