妄想⚠








昼間っから庭を眺められるテラスでカズとじいちゃんと酒を飲む。

応接室でいいって言ったのに味気ないと半ば強引に連れて来られた。

「また玄関が遠くなった~」

「若いもんが何を言ってる」

「………」

カズはまだ戻ってこない。溜息をついてじいちゃんに見ないように言うと度数の強いワインを口移しで飲ませ名前を呼んでるとやっと目の焦点が合って、

「智…あれ?」

「テラスに連れて来られたんだ。じいちゃんは凄い人かもしれないけど俺は関係ないんだからな?」

「智、お坊ちゃんなの?」

途端に吹き出して盛大に笑うじいちゃんを軽く睨むと、

「俺ん家は普通だよ。カズと変わらなく育ったと思うし」

「智が…お坊ちゃん…」

「もう!笑うなよ!」

「あ、話はどうなったの?」

あ…すっかり忘れてたな。じいちゃんに目で聞いてみたら、

「さっきも言ったがうちの画廊と契約すれば何とでもなる」

「えー!ヤダ!」

「でも、画家になるんでしょ?」

「よく言ってくれた!ワシの孫だからじゃなく智の絵を見て有望だと何度も言ってるのに聞いてくれん!」

じいちゃんに絵なんか見せたか?

「何をとぼけた顔をしてる。学生時代に描いたのは全て見たぞ」

「俺は見せてないけど?」

「お前が留守の時に見たからな」

「はぁ?」

「そうでもせねば見れないだろう。嫌がられてたからな」

「嫌って、何で?」

「よく聞いてくれた!智の親は変わっててな。普通の生活がしたいと宣言してワシが来るのを嫌がってな。それで智もワシに警戒してたんだ」

そうだっけ?じいちゃん家には家族で来てた筈だけど?

「素敵なご両親なんだね。親に頼らないで生きていくなんて。この家に慣れてたなら考えられないと思うよ」

「カズ?ここは別宅なんだよ?」

「本家は倍以上の広さでな。ワシはこっちが落ち着くんだ」

「は?」

「カズ!その辺は気にしないで!」

また戻ってこなくなると思い気を逸らそうと必死になる。

「あ…そうだね。話が進まなくなるし大丈夫だから」

「じいちゃん、鈴木さん呼んでよ」

「帰るのか?」

「鈴木さんの方が話が早いよ」

「それもそうだな」

じいちゃんが携帯で鈴木さんと話してる間にカズに飲み物を聞いて、それも伝えてもらった。

「…智、トイレ行きたい」

「えーと、近いのどこだっけ?」

「そこのドア開けたらあるぞ」

「部屋にあんのかよ」

「年寄りだからな。増やしたんだ」

カズと一緒にじいちゃんが指したドアを開けて入ると、

「え?何で5個もあるの?」

「気にすんな」

ドアを開けて更にドアが5個もあるから驚いてるんだけど、じいちゃん家なら何でもありだからな。

俺も用を済ませて手を洗ってなんとも言えない顔をしたカズと戻ると、

「鈴木さん、待たせたかな?」

「いえ、お気になさらず。もうすぐ届きますのでお待ち下さい」

「何が届くの?」

「冷蔵庫」

「は?」

「気にすんな」

冷えたビールを用意するのに冷蔵庫ごとなんて考えられないんだろ?