本日は久々に蔵出しショートショートです。
読んでもらっている頃、私は腰に鍼を刺し~いてていてて(笑)と言う事で
<さくらたつ>
夜中の午前3時。何の声だろう。。。マシロは眼が覚めました。
カラスの声でした。こんなに暗いのに。。。
あ、と思い出します。カラスが鳴く時は魂が空へ向かうとき。ホントかな。。なんだか怖いよね。
気になって愛犬を探します。ベッドの下でスースーと寝息を立てる愛犬の姿にホッとしてまたライトを落として眠りにつくマシロなのでした。
6時。いつもと同じように愛犬がマシロの頭の下に顔を突っ込んできます。「起きて」の合図です。
「わかったわよ」マシロはストーブをつけながら、部屋の温度が上がるのを待ちました。
待っている間、夕べのカラスの事を思い出しました。あのカラスの声は何かしら。。。よくわからないけれど気を付けないと。
窓を開けると、低い空。ああ、今日はきっと雪ね。今はもう4月。マシロの住んでいるところはとても短い春のところ。5月まで雪が降ってくるような高い場所でした。
今は天涯孤独のマシロ。愛犬だけがトモダチ。たまに隣のタツおばあちゃんとも話をするけれど、きっと10代でひとりぼっちの私が珍しいだけだもの。。
でも、学校にも行けない私にお米や野菜や、卵や。。。色々恵んでくれる。私も少しだけお手伝いもするけれど。役に立っているのかなあ。
そうだ、おばあちゃんの田んぼ、お水を見に行かなくちゃ。そろそろ田植えだものね。
愛犬と外に出ると、隣の家に車や人が。
「どうしたのかな?」カラスの鳴き声を思い出し、マシロはとても不安になりました。愛犬の鳴き声に気付いて、家からタツおばあちゃんのお友達のおばあちゃんが出てきました。
「ああ、もしかしてマシロちゃん?」
「はい」
「驚かないで、タツさんが」
いや!マシロは無意識に耳を塞ぎました。
「タツさんが夜中に救急車で運ばれたのよ!」
夜中?何時?
「3時の時に。。タツさんは自分で救急車呼んで、そのまま倒れて。。。」
救急車?カラスの声だと思ったのは救急車の音だったの?心臓がバクバクと口から飛び出そうになるマシロ。
「タツおばあちゃん!」マシロと愛犬はタツさんの家に飛び込みました。タツおばあちゃんの部屋には誰もいません。居間に見たことのある少し離れた近所の人達がいるだけです。。
「大丈夫よ、タツさんは今、病院だから。脳出血だったけれど自分で電話してね、救急車も早かったから間一髪助かったの」
「。。。私はどうしたら、いいの?」マシロは考えました。「タツおばあちゃんがいない間、、私は何をしたら」
怖くて1人では町の病院にも行けない。かと言って、、そうだ、おばあちゃんに教わった野菜や田んぼの世話をして、おばあちゃんを安心させよう。
お部屋も掃除して、おばあちゃんが帰ってくるのを待とう。それなら、私にもできるよ。
それからマシロは愛犬と一緒に、畑に出掛け、水をあげたり、雑草を抜いたり。
タツおばあちゃんの納屋に用意してあった稲の苗も、去年おばあちゃんがやっていたように見様見真似で3日もかけて頑張って田植えをしたのでした。
タツおばあちゃんがいつ帰ってきてもいいように、お部屋も掃除します。
お部屋を掃除していて、マシロは気がつきました。おばあちゃんもマシロと同じ、独り暮らしだったのでした。
私、今まで気付かなかった。。おばあちゃんも私と同じだったんだ。
庭にもお花を植えてみよう。裏手の山に愛犬と登り、可愛い山スミレや、カタクリや。。ちょっとだけ、花泥棒ね。独り言を言いながら、優しくお花を移します。
水を張った田んぼに低い空が映ります。雲も掴めるみたいにすぐそこに映ります。
遅い山桜の花びらが、風に舞って田んぼへひとひら、ふたひら。。田んぼに映った低い空に彩りを添える花びらたち。急にマシロは悲しくなりました。
おばあちゃん、会いたいよ、おばあちゃん、おばあちゃん。
でも、どうしても町へ出て行く勇気が持てないマシロでした。
やがて、夏になり、稲の穂も少し出てきました。畑にはナスやキュウリが小さいけれど、キラキラと朝露に光っています。
少し収穫して。。。おばあちゃんのぬか床へ漬けてみよう。
一生懸命収穫していると、シャリ、、シャリシャリ。。と少しテンポのずれる足音がしました。
「マシロ、ただいま~」
振り向くと、そこには杖をついたタツおばあちゃんが立っていました。足は不自由になってしまったけれど、元気になって退院してきたのです。
「友達のおばあちゃんから、マシロが私の畑や田んぼを守ってくれていると聞いたんだよ。だから安心してリハビリの時間が取れたんだよ。」
「うん、うん」マシロはもう涙でグシャグシャです。
「でもねえ、マシロ。なかなか頑張ったけれど、もう少し農業も修業が必要だね。私と一緒にお米作って行くかい?」
「おばあちゃん!」マシロはおばあちゃんの胸に飛び込みました。ああ、久々の柔らかい感触。。お母さんみたいだ。
「あのね、マシロ。おばあちゃんは今回思ったんだ。。自分はずっと元気でいるつもりでいたけれど、やっぱり無理はいけないね。これからはマシロと一緒に暮らして行きたいと思ったんだよ。」
マシロも「私も、、おばあちゃんと暮らしたいと思った」
「マシロ、私はもう年取っているけれど、どうだい、おばあちゃんと親子にならないか?」
うん、うん。。。親子になる!
マシロはこうしてタツおばあちゃんと親子になって山村でお米を作り野菜を育て生きていくことになったのでした。
ブルンブルン。。。軽トラのエンジン音です。おや、運転しているのは。。。
もう40歳になったマシロです。荷台には3代めの愛犬が乗って、鼻唄を歌うようにくんくんと鳴いています。
田んぼに行くと、「おかあさ~ん」可愛い声が聞こえます。小学生の男の子。そう。。。マシロは本当のお母さんになったのです。
タツおばあちゃんと暮らすようになり、おばあちゃんから勉強と農業の基礎を教えて貰ったマシロは、なんと農業大学を出て、この土地に戻ってきて、お米の改良に取り組み独自のお米を開発したのでした。
名前は「さくらたつ米」。田んぼに張った水に落ちてきた桜の花びらと。。。
そしてタツおばあちゃんの名前をつけたの。
タツおばあちゃんがいてくれたから、私を救ってくれたから。。今の私がいるの。
タツおばあちゃん、、ううん、タツ母さん。私、頑張っているよ。
子供達と一緒に畦に座り、田んぼに映る低い空を見ていると。。また山桜の花びらがひらひらと田んぼの低い空を彩ります。
「お母さん、花びらが笑顔の形になってるよ」
そうね、タツ母さんが笑ってる。いつも見守っていてくれてありがとうね。
マシロは今度は上を見上げ、高い高い空から舞い降りる桜の花びらに向かって「タツ母さん。」と、そっと呼んでみたのでした。
さあ、さくらたつ米の苗を植えましょう。今年も豊作になるように。
おしまい。
ありがとワホよ
写真は桜画像ネット及び私のお蔵入り写真から引用しました。
本日は昼記事でコメント欄開いていますので、こちらは閉じておきますね。
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恒例の遅延コメント返答ですが、
12月21日 「ショートタボラン」 に返答致しました~
昨日返答途中の3月28日記事 「ギロリとベロンと元気玉!」 にも返答致しました。
またお時間のあるときに覗いてみてくださいね。
きっちゃん、しゅうちゃん、サーティわんこさんのばぶちゃん!
そして一緒に頑張っている
日本各地の被災地の皆さんが1日も早く心からの笑顔を取り戻せますように。
頑張っているCooの友達が明日も元気に穏やかに過ごせるように。
病で闘う皆さんが笑顔で明日も過ごせるように。
安曇野から今日も明るく願います。