何となくイラつく気分を静めようと、コーヒーを淹れるためにキッチンに向かった。風呂上がりの琴子と階段で出くわす。
一瞬驚いた顔をして気まずそうに目を逸らす琴子に、自分だって顔を合わせたくないと思っていたのに憤りを感じる。
「今日、海までドライブしたんだって。」
「えっ...」
「デートだったんだろ。」
「そんなんじゃ...」
「別に隠さなくていいだろ。」
「隠してなんか...」
「思ったより早かったな。」
「な、なにが...」
「...オトコ見つけるの。」
「ちがっ...」
「まぁ、早くオトコ見つけろって言ったの俺だし..
安心したよ。ずっと落ち込んでられてもな...同じ家に暮らしてたらイヤでも目に入るし...
お前、痩せただろ。デートでうまい飯でも食わせてもらってたら、すぐ元通りになるよ。よかったじゃん。」
「...」
バタバタバタッ...琴子が目に涙を溜めて、階段を駆け上がって行った。
『思ったより早かったな。』 『オトコ見つけるの。』
なんで泣くんだよ...本当のことだろ...俺のことが好きだって、あんなに言ってたのに...
『安心したよ。ずっと落ち込んでられてもな...同じ家に暮らしてたらイヤでも目に入るし...』
...言い過ぎた...泣いて当たり前だ...なんで、俺...
『思ったより早かったな。』 『オトコ見つけるの。』
そんなんじゃないのに...どうしてそんな意地悪を言うの?
『安心したよ。ずっと落ち込んでられてもな...同じ家に暮らしてたらイヤでも目に入るし...』
そんな風に思っていたの?...目の前で落ち込む私が鬱陶しかったの?
入江くん...もう、わかったよ...入江くんは、はやく私が誰かと付き合えば安心できるんだよね。
私が落ち込んでるとイヤでも気になるから、はやく安心して心置きなく沙穂子さんと幸せになりたいんだよね。
「真田くん、いまからテニス部出るの?」
「ああ。そうだけど。」
「チロル持ってる?何だか甘いものが食べたい気分なんだ。」
「もちろん。手出して。ほら。」
「ふふっ。今日は三色アイスなの?いちごとココアはわかるけど醤油ミルクって...食べてみよう。」
「はははっ。結局食べるのかよ。」
「へへっ。ホワイトチョコの中に、マシュマロが入ってて、みたらしの味がする。うん、おいしいよ。」
「ならよかった。相原も今から出るのか?体調は?」
「体調はもう大丈夫。今日は友達と約束してて。」
「そっか。じゃあ、また明日な。」
「待って...あのね...遊園地行きたいなと思って。」
「えっ?ほんとに??」
「うん。連れてってくれる?」
「もちろん。どこか行ってみたい遊園地ある?」
「あんまり行ったことないから、わからないんだぁ。」
「わかった。ちょっといくつかピックアップしてから相談する。電話しても大丈夫か?」
「うん。」
「じゃあ、電話するから。」
「「えーっ。いつの間にそんなことに。」」
「しかし、真田くんっていい人だね。A組だったんでしょ?」
「うん。そうなの。でも、全然偉ぶってなくて、やさしくて、思いやりがあって...」
「冷たい入江くんより断然そっちの方がいいじゃん。遊園地に行くってことは、付き合うってこと?」
「まだわかんないけど...ちゃんと考えるつもり。」
「よかったよーっ、琴子。あんたが前向きになってくれて。」
「いままで辛かった分、今度は幸せな恋をしなよ。」
「...うん...そうだね。」
トゥルルル トゥルルル
「はい。入江です。」
『あっ、入江。俺、真田。悪いけど相原と代わってくれるか。携帯にかけても繋がらないんだよ。』
「わかった。待って。」
真田からの電話に軽く動揺している自分に戸惑いつつ、子機を持ったまま琴子のいるキッチンへ。
「おい。電話だぞ。真田から。」
「真田くんから?ありがとう...もしもし。」
...なんだよ。テレくさそうな顔して...そんな顔お前には似合わないんだよ。
「うん。ごめんね。携帯、バッグに入れっぱなしだった。」
...携帯でいつも連絡取ってたのか...いつから...
「うん。行ったことない。」
...どこ行くんだよ?
「絶叫系?得意かどうか?わかんない。」
...絶叫系...遊園地か...
「うん。スカッとするの?ほんとに?乗りたいな。」
...そんなのに乗ったら、お前なんて泣くのがオチだろ。
「うん。土曜日?大丈夫だよ。」
...土曜日...俺は、サンプルチェックのために出社だ。
「朝早くても大丈夫。起きられるよ。」
...ほんとに起きられるのかよ...朝寝坊のお前が...そんなに楽しみなのか。
「わかった。うん。じゃあね。」
...真田と親しげに話す琴子...
「うん。おやすみ。」
...やさしく笑って言う琴子...
俺のことだけ見てた琴子が、他のオトコとデートの約束をしてる。
目の前で見てるのに...まだ、信じられない...俺は、信じたくないのかもしれない。
~To be continued~