Shape Of My Heart vol.14 | φ ~ぴろりおのブログ~

φ ~ぴろりおのブログ~

イタズラなKiss&惡作劇之吻の二次小説を書いています。楽しんでいただけると、うれしいです♪ 

もう9時か...ちょっと寝すぎたな。溜まった疲れが少し取れた気がする。

久しぶりの休み...沙穂子さんから誘われる前に、忙しくて行けていないオヤジの病院に行くことを匂わせた。

察しのいい彼女が誘ってくることはなかった。今日は、少しゆっくりできそうだ。

『お時間があるときに、直樹さんからも誘っていただけたら...』

彼女から言われるまでもなく、俺からも誘わなくてはいけないのはわかっている。

でも、仕事を言い訳にしてグズグズしているうちに、痺れを切らした彼女の方から誘ってくることになるのだろう。

直樹さん...彼女だけが、俺のことをそう呼ぶ。何度呼ばれても、自分のことだと認識するまでに一瞬の間がある。

そして、自分のことを『僕』という俺...まるで自分じゃない誰かを演じているみたいだ...

この拭いきれない違和感に...いつか、慣れる日が来るんだろうか。


「お兄ちゃん、おはよう。」

「おはよう。」

「朝ごはんトーストでいい?」

「琴子は?」

「デートなんじゃないの?」

「デート?アイツが...」

「海にドライブに行くんだってさ。デートの定番じゃん。」

「誰と?」

「さー。知んない。めかしこんじゃってたよ。」

「ヘェ。またもの好きがいたんだな。」

...ドライブ...琴子のことだ。どうせまた金之助だろう...

『俺...相原が好きだ。』

...まさか..真田なのか...別に誰だっていいじゃないか...琴子が誰と何処へ行こうが、俺には関係ない。


新聞をバサバサいわせて捲るお兄ちゃん...コーヒーカップを大きな音がするほど乱暴に置いて...

なにイライラしてるんだよ...もしかして、琴子がデートなのが気になるの...


「おはよっ。身体大丈夫か?」

「おはよう。うん。もう大丈夫。心配掛けてごめんね。ありがとう。」

「大丈夫ならよかった。じゃあ、行こうか。どうぞ。」

ドアを開けてくれる真田くん。何だかちょっとうれしい。

「真田くんの車なの?カッコいいね。」

「オヤジのなんだ。最近は、オレの方が乗ってるかも。」

「そうなんだ。免許いつ取ったの?」

「大学入る前。もしかして運転が心配?オレ飛ばさないし、安全運転だぜ。」

「そんなこと心配してないよ。真田くんは、安全運転ってカンジする。」

「あははは。何だ、それっ。」


海が見えて来ると、相原はしゃべらなくなった。黙って流れる景色を見ていた。目的地の灯台のある岬に着いた。

「キレイだね。」

「そうだな。」

展望台の手すりにつかまり、風に吹かれながら、緩く曲線を描く海岸線と空の青が溶け合う景色を見ていた。

「海岸に下りてみる?」

「うん。」

灯台下の海岸に下りた。どこまでも続く砂浜。砂に足をとられながら歩く。相原がよろける。思わず腕をつかむ。

「大丈夫か。」

「うん。大丈夫。真田くん、私の荷物貸して。持たせちゃってごめんね。」

「全然。」

「お弁当作ろうと思ったけど寝坊しちゃって。近所のパン屋さんでサンドイッチ買って来たの。カツサンドが美味しいの。」

相原が用意してくれたシートに座って、カツサンドを頬張る。

「美味いなぁ。腹減ってたんだ。レストランに入ろうと思ってたんだけど、こういうのもピクニックみたいでいいな。」

「そうだね。何だか楽しくなってくるよね。」

サンドイッチを食べ終わり、相原が入れてくれたコーヒーをゆっくり味わいながら、寄せては返す波を眺めていた。


「コーヒー美味いな。」

「ありがと...入江くんも...コーヒーだけは美味いって言ってくれてた。」

「そっか...ほんと美味いよ。」

「私ね...今日、全部海に沈めようと思って来たの。入江くんを好きな気持ちも、未練も、後悔も、全部...」

「...なぁ、相原。本当に沈められるのか。沈めたら忘れられるのか。」

「だって...もぉ、何も考えたくないの...もぉ、イヤなの。」

「相原が忘れられるんだったらいいんだ。でも、あんなにずっと好きだったのに...そう簡単に忘れられないだろ。

 ...オレさぁ。お伽話が本当になるって思ってたんだ。いつか相原と入江がくっつくの楽しみにしてた。

 相原、入江のこと全力で好きだったろ。なんか応援したくなって...ずっとオマエらのこと見てたんだ。

 そしたら、いつの間にか相原のこと好きになってた。入江のことを好きな相原を好きになったんだ。」

「えっ...」

「自分でも不思議なんだけどさ、相原のこと好きだって気付いても、応援したい気持ちは変わらなかったんだ。

 オマエ、自分で自分の顔見れないだろ。すんげぇいい顔で入江に笑うんだよ。本当にトロケそうに笑うんだ。

 だから、ずっと入江の側でそうやって笑ってほしかったんだ...」

「...真田くん...」

「本当に入江のこと忘れたいのか。ずっと見てきたからわかるんだ。忘れるのも辛くて、忘れられないのも苦しいんだろ。

 忘れられない想い出も、忘れたくない想いも、忘れたくないなら忘れなきゃいいさ。

 でも、それも辛いならオレが支えになるよ。弱ってる時にこんなこと言うのは反則だし、卑怯だってこともわかってる。

 だから、相原はオレを利用すればいい。一人じゃ、もう立ってられないんだろ。オレを利用して寄りかかればいい。」

「真田くん...でも...」

「これ以上、黙って見てられないんだ。相原が壊れてしまうのを見過ごすなんてできない。」


...涙が溢れた...真田くんは私の気持ちをわかってくれてる...入江くんのこと、本当は忘れたくない...

一緒に過ごした3年間...数え切れない宝物みたいな想い出...入江くんを大好きだった6年という月日...

みんなが私を思って早く忘れろって言った。入江くんを早く忘れて、新しい恋をした方がいいと...

真田くんは、忘れなくっていいって言ってくれる...それでも支えるって...真田くんの気持ちがうれしかった。


真田くんは、家の前まで送ってくれた。

「ごちゃごちゃ考えずに、しんどい時は甘えたらいいんだ。相原が笑えたら、オレはそれでいいんだから。

 相原さえよかったら、今度は何も考えずに遊べるとこ行こうな。遊園地とかいいかもな...じゃあ、おやすみ。」

「ありがとう。おやすみ。」


~To be continued~