続き | 忍者たなかーず

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みぃたんと忍者たなかーず

 

 渡辺は小指の先がない。

 やくざをやめるために指をつめたらしい。

 当時、安部譲二が流行っていて、「あんなのは自分の経験を書いてるだけじゃないか」と批判をしてる。

 渡辺は芥川の「侏儒の言葉」を読め、読めという。

 なんか純文学が好きみたいだし、どうだろうなと思いながら、読ませろとしつこいので、当時多分、完成してて、後は出すだけの状態の小説を読ませる。

 そんなに長い話じゃない。

 多分原稿用紙100枚以内。

 多分、タイムリープを繰り返すようなSFだと思うんだけど、はっきりしない。

 芥川を読んで、厭世的な作品に被れているやつじゃ、きっと面白くないだろうな。

 そう思って見ていると、読み終えて、こっちを見て、驚いた顔をしてる。

 そして、「これって…」と言って黙り込む。

 あの時はやっぱりあまりにもジャンルが違いすぎて、言葉をなくしたのかと思ったが、今にして思うと、少し違う。

 今度あの頃のことを思い出してみて、多分渡辺は私が作家志望と聞いてはいても、どうせろくなもん書いてないだろうと思っていたに違いない。

 それが読んでみて、逆に予想以上に面白いので驚いていたんじゃないかと言う気がしてきた。

 あの後本を読ませろとは言わなかったが、「せっかく顔がいいんだから、女に貢いでもらえ」とか、まあ発想がやくざというか、ヒモ体質なのか。

 何言ってんだと思ったが、少なくともバイトなんかしてないで、もっと物をかけという意味だと思える。

 その時書いた小説が原稿用紙に書いてあったことからして、まだワープロを手に入れる前で、手書きだったに違いない。

 手書きの原稿は出版社がとっておかない限り焼却処分になっているだろう。

 なぜって、一次審査も通ってないから、そんなのとってるはずがない。

 たとえば一つの賞に600応募があるとしよう、一年に一回としても、すべてを保存するわけもなく、もし保存していたなら、18000以上の原稿が出版社の倉庫に保管してあることになる。

 そう考えたら、まず残ってるとは思えない。

 渡辺は船に住まわせてもらってることに恩義を感じてるらしく、いつか恩返しをと言っていた。

 ところがしばらくした会うと、あのやろう、許さねえと叫んでる。

 船での生活でもめたのだろう。

 それでまた浮浪者に戻ったようだ。

「お前、家賃いくら払ってる」と言うので、15000円と言うと、「高い」と言う。

 激安なのに、そんな金があったら、ワンカップ大関のほうがいいのだろう。

 しかしこの前まで感謝だ、恩義だと言ってたのに、何とも安っぽい恩義だ。

 その後500円貸してくれとやってきたが、うちの妹と鉢合わせして多分妹がにらみつけたのだろう。

 それ以後一度も顔を出さなくなった。

 その日妹からいろいろ怒られたのだが、次の日、本村が現れ、「渡辺が金借りに来たんだって。二度とそんなことしないように言っておく」と言って帰っていく。

 その後渡辺は結婚をしたらしい。

 あんな浮浪者でも結婚出来るだと思った。

 その話を多分、おばさんにした気がする。

「当たり前だ、どんな相手でも結婚してくれる相手はいる」とか言ってた気がするのだが。

 そう、あの頃、私を連れ戻そうと、兄弟、母親、親戚、いとこ、次々にアパートにやってきた。

 この時も多分母親に言われて親戚のおばさんの家に行った時の話じゃないだろうか。

「飲み屋の女はどうなの?」

はあ?

 飲み屋に通えという。

 そうすれば女ができるというのだ。

 何を言ってるんだろうかと思う。

「飲み屋の女なんか?」

「飲み屋の女の中にもいい子がいるから」

「確かにいるかもしれない。でも確率で考えると、圧倒的に少ないに決まってる」

 そう、おばさんはもともとホステスみたいのだったのだ。

 そこで知り合ったのが旦那である。

 だから飲み屋の女にハードルが低い。

 大体結婚なんか考えてないし、何を言ってんだろう。

 おじさんには怒られるし、なんか包囲網みたいのができている感じだ。

 これというのもフジテレビがロクな伝え方をしてないからだ。

 もしかして中学時代の友達もそうなのだろうか。

 なんかいろいろやってきてたな。

 中学の同級生は違いと思うが、彼はNECに勤めていて、なぜか会いに来た。

 読ませてというから、その時書いてた話を読ませる。

 はっきり言って、あの頃の作品はフジテレビや秋元康に媚びを売ってたし、迷走中だったので、あんまり出来は良くない。

 感想は言わなかったが、そのあと、山下町のバーに行く。

 グランドホテルの近くのバーだと思うのだが。

 グランドホテルはヤンキー御用達の矢沢永吉が歌ったホテル。

 その数軒隣だと思うのだが。

 何を飲んだか分からないが、シンガポールスリングを飲んだのだけは覚えている。

 というより、私はどこに行っても、カクテルと言えばシンガポールスリングを飲んでいたから、多分飲んでいるだろう。

 そう、私の生原稿を読んだことがあるのは実にやくざの渡辺と同級生の二人だけなのだ。

 自分から読ませる方じゃないので、読みたいと言われない限り読ませたことはない。

 あと、妹が読んだことがあるだろう。

 その3人だけである。

 大学時代の友達ともあったが、さすがにこれは違うだろう。

 会ってすぐ風俗に行こうと言う。

 えっ?とためらっていると、うちに来て、いきなりビデオ借りに行こうという。

 最初一番近くのビデオ屋に連れていくが、他にないのという。

 それで本牧の方のビデオやに連れていく。

 すると何のためらいもなく、会員登録をして、AVを10本借りる。

 すげえなーと思ってると、徐にうちのビデオでAVを見始める。

 なんでも寮生活をしてるらしく、見たくても見れないらしい。

 まあ、彼はきっと違うだろう。

 ビデオ屋でビデオを見ていると、近所の子供が声をかけてきた。

 そう、小学生の低学年くらいだと思うのだが、図書館で本を読んでると、「何を読んでるの?」と近寄ってきたのだ。

 そして遊んでよという。

 そこで図書館の隣の公園で、遊んでやると、10人以上のちびっこに囲まれる。

 みんなと遊んでやると、例の少年が、うちに遊びに行っていい?と言うので、10人も無理だよと言うが、ついてくる。

 しょうがないんで、部屋に入れ、「燃えろプロ野球」をやらせる。

 夕方になって帰っていくが、次に図書館に行くと、図書館員に「あなた、何をしている人?」と声をかけられる。

 少年が寄ってきて、「もう遊んじゃダメだって」と言う。

 なるほど…。

 その少年がビデオ屋で声をかけてきた。

 そしてすぐに立ち去る。

 別の日の話だが、そのビデオ屋で一度「あぶない刑事」の撮影をしていた。

 何をやってるのかと思ってると、仲村トオルと浅野温子が出てきた。

 仲村トオルは薄笑いを浮かべてこっちを見てるが、浅野温子はうつむき加減で、ニヤニヤしてた。

 

 さて話を元に戻そう。

 ある日、本村が血まみれになって現れた。

「どうしたの?」というと、そのまま、居なくなる。

 なんでもいきなり渡辺に鉈で頭を殴られたらしい。

 それで血まみれでうちに来たのだが、その後、警察に行ったらしい。

 渡辺は逃げていたが捕まったそうだ。

 本村は、「舎弟になれ」だと、やくざじゃあるまいしとボヤいていた。

 結局渡辺は刑務所に入ることになったらしい。

 本村は家賃を半年滞納していたらしく、不動産屋が本村のアパートの前で、「本村!出ていけ」と叫んでる。

 しばらく本村は居座っていたが、「渡辺が出所してくる」と言った、次の日にいなくなっていた。

 渡辺の復讐が怖かったのだろう。

 本村がいなくなると、アパートは静かになった。

 それからしばらくして、本村がやってくる。

 ドライブしようと言うのだ。

 レンタカーを借りて遊びに来た。

 そして保土谷の新しいアパートまで連れていってくれる。

 6畳、6畳、4畳半の台所。

 実に18畳の広いアパートである。

 中はすっからかんだ。

 家賃28000円だと言う。

 安。

 保土谷が田舎と言ってもだ、激安だ。

 しかも部屋が広いから、実に片付いてる。

 そしてドライブに行こうと言うので、ドライブに行った。

 多分デニーズに行った気がする。

「渡辺が死んだ」と言う。

「嫁さんがいるのに、馬鹿だよ」と本村。

 酔っぱらって、階段を踏み外して、そのまま寝て、凍死したらしい。

 多分その日以降本村には会ってないと思うのだが。