第5番のAMBの手稿は「スコルダトゥーラ」という特殊な書き方なのでバッハ自らも犯してしまったと思われるミスが結構ある。
バッハのスコルダトゥーラの書き方はハインリッヒ・ビーバーの書き方と同じで、調弦を変えた弦の音は通常の調弦で弾く時の「指の場所」を書いているのだが、ここで様々な混乱を招いている。
流石のバッハも急いでいたのかミスがいっぱいある。ミスだけではなく多少の混乱のようなものもある。しかしこの曲に限ってはバッハはリュートのための「組曲」に書いているのでそれを参照すると解決することでほとんどの問題が解決できるという、利点もある。
この先の斜体文字はチェリスト(弦楽器奏者)にしかわからないかもしれないので飛ばして読んでも構いません。
第5番の記譜は前述のように実音ではなく指を置く音なのでSiナチュラルと書いてある音はLaナチュラルが聞こえ、DoはSi♭が聞こえ、RéはDoが聞こえると言う仕組みになっている。ここまでは簡単なのだが、さてLaと書いてある場合はどうなるか?
この場合のLaは調号にフラットが三つ付いているので本来はLa♭ でなければならない。しかし、リュート組曲を見るまでもなくここはSolなことは明白だ。ただ調号にフラットがあるので具合が悪い。本当はナチュラルを書くかまたは開放弦の記号(現代では0)があれば良かったのだがそれはない。
下の例は調号にLa♭があるにも関わらずわざわざフラットを書いていることから、これは開放弦の音では無いということになる。
他にも高いMiが問題になる。ナチュラルがほとんどの場合ない。そうすると実際にはRé♭が出るのだがそうではないことが頻繁にある。
しかしフラットが書かれているところももちろんある。
もしかしたら一番線の音は指示がない限りナチュラルで弾くのかとも思ったがそうするとこの譜例の最初の音はSiということになるがこちらはフラット(実音のLa♭)で弾かなければならない。
要するにこの記譜法は厳密なものではなくて奏者に「便宜」を図るものだったのだろうという結論になってくる。
この項続く