一日雨が降るらしい。
すっかりとあたたかくなってきたこのごろ。
秋や冬の冷たい雨は好きではないが
この季節の雨は好きだ。
濡れてもちっとも寒くない。
雨に誘われるようにベランダの植物はぐんぐんと大きくなっていく。
午前中いっぱい仕事。
昼前に夫とともにいえを出る。
夫は事務所へ、私は病院と都庁へ。
都庁へはパスポートの引き取りと、ついでに都庁内郵便局に寄り、
請求書などを発送。
毎月末にやってくる、この「絶対にやらなくてはいけないこと」を終えて肩の荷がおりた気分。
都庁の展望台行きのエレベータにはずいぶんと旅行者が・・・欧米からの旅行者らしいひとたちが並んでいるが
この天気では雨に煙る東京しか見られないだろう。
私のいえの屋上やベランダからは、都庁やパークハイアットが入っているビルがよく見えるのだが
今日のような天気ではぼんやりとした形しか見えない。
途中、母から電話。
今朝方、母からきょうだい4人宛にメールが届いていて、その返信に対する電話。
朝、母から届いていたメールのうち一通は、睡蓮鉢で飼っているおたまじゃくしと、おたまじゃくしから蛙の中間くらいになっている蛙?の話。緑色の蛙状のものにおたまじゃくしの名残のしっぽがついているものが睡蓮鉢と思われるところで泳いでいる写真がついているもので、
もう一通は、4代目柴犬のカイくんと3代目猫のミーちゃんがすっかり仲良くなりましたという注釈つきで、2匹が庭でごろごろと一緒に寝ている写真だった。
その2通にまとめて返信しつつ(猫と犬が仲良くなってよかったということと、おたまじゃくしが無事に蛙になったのもよかったが私は蛙は苦手だということと)、咳がずっと続いているが風邪はそれでもだいぶましになったということを伝えていたのだが、予想通り私が送ったメールの最後のところを気にして電話をしてくてくれた。
しかも母が毎日通っている温泉で親しくなった方が、ずうっと咳がとまらなくておかしいなと思って病院に行ったら実は肺癌の末期で、もう手術ができないくらいであること、その方が昨日、実家にお茶を飲みにきていたこと、ナオは一年中咳をしているが(単に母と電話をするときに咳が出ていることが多いのだが)、肺癌の可能性があるから病院に行くように、ナオはTさん(夫)の副流煙を浴びているから特に注意しなくてはいけないという。
来週、ちょうど人間ドックだからいますぐ病院に行かなくても大丈夫、
それに夫は私の前ではほとんど煙草を喫わない(ほんとうは喫うのだが一応夫をかばっておく)、
そもそも咳が出るだけでお知り合いのような癌だったら自覚症状があるでしょう?と母にいうと、
肺癌は自覚症状がないから怖いのだ、と電話の向こうでいきりたっている。
まあ確かに私の父も肺癌のかなり重い状態になったことがあるのだが、そのときも自覚症状はまったくなかったし、いわれてみればそのとおりだ、と思い直すが、
とはいえ私は肺癌ではないと思うし、一方で人間ドックでちゃんと調べるから大丈夫だといってやっとのこと母をなだめ、しばらく弟や兄の近況などを聞いて電話をきる。
たっぷりしてあった充電が切れてしまうくらいの長話だ。やれやれ。
と思ったら、30秒後にまた電話がかかってきて、何かと思うと、
「あの写真の睡蓮鉢はナオがずっと前にお父さんにプレゼントしたものだよ、憶えてる?」
「ナオがプレゼントしてくれた盆栽の櫨は庭におろしたらかなり大きくなったよ」
「この前母の日にくれたてっせんも先週、庭におろしたよ」
と矢継ぎ早にいって電話は切れた。どうやら「睡蓮鉢」と「ナオからもらった」の連想ゲームだったらしい。やれやれやれやれ。
病院の午後の診察まで1時間半ほどあるので、代々木の「TOM」でサンドウィッチを食べつつ珈琲を飲み、本を読む。
西加奈子さんの「さくら」。
昨日から読んでいて、いいなあいい話だなあと思いながらどんどん読んでいて、
いよいよあと150ページ、くらいのところから読み始めたのだが。
危うくというか完全にというか号泣。
鼻水までだらだらとたらしながら(実際にはたらしそうになったので何度も鼻をかみながら)
泣いてしまった。
そこがもし喫茶店でなければ嗚咽しちゃうくらいに泣けた。
なんというか、このうえなくやさしくかなしい、
これは家族の愛の物語、である。
その類稀なる容姿と明朗な性格で、幼稚園時代からヒーローだった兄ちゃん、一(はじめ)。
男まさりで超美形の変わり者の妹、美貴。
明るくて美人で有名だった母、穏やかで優しくハンサムな父、こころやさしい女の子である犬のサクラ。
そして僕こと薫。
この世の中はなんて美しく貴いと、仲良く「ふつうに」生きてきた家族たちは
一が二十歳と四ヶ月で死んでから一気にかたちを変えてしまう。
いや本質的にはそのまえから、少しずついびつな形に変容してきていたのだが、
一の死でそれが一気に噴出する。
妹、美貴はこころを閉ざし、母は肥満化し、一家の要だった父は家出をし、僕はひとり東京に出る。
明るかった一家の灯火が消えてしまいそうなそんなある年の瀬に、家出した父が帰ってきた・・・。
西さんの作品はどれも素敵なのだが、
この「さくら」はなんというか、ああ読んでよかったなと思える箇所がたくさんある本だった。
いい本に出会うととてもうれしい。本を好きでよかったと思う瞬間だ。
病院で注射を終え、帰宅。
また仕事。
新婚旅行のうち1泊だけ、クアラルンプールから車で2時間ほどいったゲンティンハイランドという高地にある、とあるカジノホテルに泊まることにしているのだが(もちろん夫の「カジノで遊びたい」という希望をかなえるため)、
今回の旅の手配をお願いしている旅行会社さんから、数千室ある客室がすべていっぱいという連絡がきた。
代わりに提示されたホテルは、同じ高地にあるのだがカジノからはかなり離れたところ。
ゲンティンハイランドに泊まるのは木曜日、ばりばりの平日だし、数千もある客室がすべていっぱいなんて、まさかそんな・・・と思い、直接ホテルのサイトを見てみると、確かに空室はほとんどないが、そうはいっても満室でもない。
旅行会社にその旨連絡をすると、ツアー用の部屋がなくて、旅行会社では手配できないのです、個人で手配してくださればその分返金します、という丁重なメールが返ってきた。
仕方ないので自分で予約し、無事に1室確保。よかった。
これでやっとすべてのホテルの予約も完了。無事に旅行にいけそうだ。
朝ごはん。
夫は野菜スープとごはん、キャベツ。
私は蒸しパン。
昼ごはん。
「TOM」にてミックスサンドウィッチ。
晩ごはん。
夫は外ごはん。
私はキムチ各種、野菜スープ。
西加奈子さんの「さくら」を読了する。