早春の山歩きは楽しい。

こずえで鳴く小鳥たち。

雪の下から顔を出す草たち。

葉を落とした木々の枝の冬芽。

道を歩いていると、クマザサに積もった雪が、何の拍子か顔に飛んできたり。

太い木の周りの雪は、幹の周囲から融けていたり。

南斜面の雪の上り坂。広葉樹の林。融け始めた雪が小川になった細い水流が、フキノトウを覆っていた雪を溶かしている。フキノトウが水中花のように水流の間でツンと立っている。雪解け水が音を立てて流れ、ほんの小さな水たまりの底に金や茶色など細かな岩の粒子が見える。


「あの歌みたいだね」とみんなが口々に。

教科書で教えてもらった大好きな歌。


 石走る 垂水の上の さわらびの 萌え出ずる春に なりにけるかも


雪解けの間だけの小川。雪の下でひっそり成長していたフキノトウが食べられるほどの大きさになって顔をのぞかせている。
古典の授業で、覚えた数少ない和歌。昼前からの春の光で、融けた雪が小川になって下っていく。枯れた草の先にも小さな水滴。

この歌の情景はもっと大きな岩の上を流れ落ちていき、その周りの草花が神々しいような薄緑。
私たちが会ったのは、もっともっとささやかなものだが、雪が融けて草花が覗いている光景が素敵だった。

冬来たりなば春遠からじ

シベリアからの寒気団が何回も何回も日本列島を過ぎていくうちに春がやってくる。

冬に春の兆しに触れると希望の光をかんじる。