まだ 8歳か9歳だった大みそかの夕暮れ過ぎ。

大晦日の我が家の恒例行事は、朝から大掃除をして、午後から餅つき、夜は年越しそば。

秋に収穫した新そばの年越しそば。新年を待たずに母特製の餡餅、この餡もわが家でとれた小豆を甘く味付け。

その日ばかりは、父も早めに山仕事を終えて、夕方には一番風呂に入る。

薪でお湯を沸かす、ヒノキのお風呂。

今のような追い炊き機能もなく、お風呂に入っているうちにお湯が覚めてきたら、風呂釜に薪を足して火を強くする係が私。

仕立て上げたばかりの綿入れ半纏を着ていても、なんだか冷えてきたなぁ、と思っていると、風呂場から父の声。

「雪が降り始めたかもしれないぞ」と。

空を見上げると、漆黒になり始めた空から、白い小さな光が落ちてくる。

手でその光を触ろうとすると、冷たい。

「お父ちゃん、雪だよ。雪が降ってきたよ」と私。


今でも、東京に雪が降るときは、心持シーンと街が静まってくる。

雪は降り始めるときも、街のざわめきが静まってきて、ひんやりとした空気が心をも静まらせてくれる。

窓を少し開けて、空から舞い散ってくる雪の様子を見るのが好き。

音を立てずに地面にそっと降り積もっていく様子も好き。

いつもは、怖いばかりの父だが、自然の変化を教えてくれる父は、穏やかで静かで楽しそう。

こんな父は、少しも怖くなく、一緒にいて楽しい。