『あなたに不利な証拠として』 | 本だけ読んで暮らせたら
2006年03月30日(木)

『あなたに不利な証拠として』

テーマ:ミステリーとか
ローリー・リン・ドラモンド/著、 駒月 雅子/訳
あなたに不利な証拠として

久しぶりにハヤカワ・ポケミスを読んだ。

ルイジアナ州バトンルージュ市警に勤務する5人の女性警察官たち、その一人ひとりを主人公にした連作短編集。

まず、“海外ミステリー読み”の人間達にはお馴染みの‘ミランダ警告’の一節から採られた題名がイイ。

内容も、ここ何年かに出版されたミステリー系の短編集では抜群にイイ。


派手なアクションもない。アッといわせる謎解きもない。しかし、様々な事件や事故に関わり、そこで生じる出来事、犯行現場に残された暴力の痕跡、被害者の心身に付けられた傷痕、同僚の警察官に対する疑惑などについて苦悩する一人ひとりの生身の女性警察官の存在が際立つ。


主人公達の心象を描く筆致は緻密・繊細、そして生々しい。


印象に残ったのは、最初の主人公キャサリンと3人目の主人公モナを描いた作品。


キャサリンを主人公とした最初の作品 「完全」では、彼女が職務中に正当防衛で男を射殺した際の状況をスローモーションのように描写するとともに、その瞬間の彼女の恐怖心をえぐり出してみせる。また、一人の人間を射殺した後も勤務や日常を以前と変わることなくこなしていくものの、彼女の内側には被疑者が今も存在する。その苦悩を淡々と描く。

第三作 「キャサリンへの挽歌」 は、数年後、熟練した優秀な警察官となったキャサリン、生ける伝説とまで称されるようになった彼女のその後についてが、第三者の一人称語りで描かれる。そのラストは、まさに“挽歌”というに相応しく、物悲しい。


モナを主人公とした 「制圧」 は緊迫感に満ちている。事件現場に駆けつけ、室内に踏み込んだモナ。そこで、兄を射殺したばかりの弟と対峙する。傍らには兄弟の父親がベッドに横たわっている。弟は父親と兄から日常的に虐待を受けていたと言う。モナは、弟を落ち着かせようと説得を試みる。片手は拳銃に手をかけながら・・・。

説得を行うモナの頭の中では、彼女自身の父親(彼もまた警察官)が彼女の家族、特に母親に対して行ってきた暴力の数々がフラッシュ・バックしている。過去と現在の異なる家族による暴力・・・。そこへ応援のバーネット巡査部長が来た。彼こそがモナの父親だった。父親は弟を挟んで、モナの正面で拳銃を弟の後頭部に向けている。

発砲寸前の父親に‘待った’をかけて、銃を下ろすよう弟を説得するモナ。同時に母親に暴力を振るう父親の姿がフラッシュ・バックする。モナにも、自分の父親に対する殺意が湧き上がる。・・・弟の銃を持った手がかすかに揺れ、目の表情が変わった瞬間、バン!、バン!・・・


これらの作品の他にも、ザラザラした不快感、僅かにドキドキする焦燥感、スーッとする清涼感、カッと燃えるような感覚、じわ~っと沁み込んでくる深い余韻・・・、が味わえる作品が掲載されている。

全10作品の中からは、必ず読者の心を揺さぶる物語が見つかる(はず)。


アメリカ探偵作家クラブ最優秀短編賞受賞に恥じない名品。

早くも、「2007年版このミステリーがすごい!」 TOP10 にエントリーされるであろう作品が登場した。


お薦めです。

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