久しぶりに認知症の祖母との同居生活について綴ろうと思います。
最近は私もすっかり介護者が板についてきました。
昔は大変だったことが今では“認知症あるある”となり、私も介護生活に少しずつ慣れていくようです。
ですが、私の成長に負けず祖母のボケも進むので、依然としてこの同居生活を楽だと思うことはありません。


最近ちょっとしたことがきっかけで、お友達何人かと認知症の祖父母について話す機会がありました。
決して明るく楽しい話ではないし、介護経験の無い方にわざわざ話して聞かせたい話でもないので、介護について私が自分から語ることは今まであまりありませんでした。話してみると意外にも同じ境遇のお友達がいるようです。
認知症の介護者なら誰でも知っているあのネタやこのネタについて盛り上がって話しました。

1日に同じ話を30回ぐらいする!
うちは1000回ぐらいする!
近所の○○子さんの話をよく聞くけど、○○子さん誰!?
うちは親戚の**ちゃん(田舎風のあだ名)の話をよく聞く!
生活時間帯がおかしい!
ずっと何か探してる!
ご飯食べたこと忘れる!
なぜか漂うアンモニア臭!
宝の地図みたいに黄ばんだぼろぼろのメモ帳たくさん落ちてる!
人の悪口言う!

など、みんなでしりとりでもするかのように口々に“認知症あるある”について話しました。

あまりに盛り上がっていたせいか、介護を経験したことのない子も話が気になるようで、誰の話?と尋ねてきたので、「認知症のおじいちゃんとかおばあちゃん」と答えるとびっくりしていました。
その顔を見た時に、『そういえば普通のおじいちゃんやおばあちゃんは、1日に1000回も同じ話をしないし、ある程度のことは覚えているし、お部屋からアンモニア臭はしないし、そんなに人の悪口も言わないものだったな。』と思いました。
祖母のボケに私の頭がついていけることも、慣れることでこの生活を楽に感じることもないのですが、知らない人にとっては“信じられないこと”が私たち知っている人にとっては“認知症あるある”であるということに気付かされました。
祖母の「お金がなくなった」を聞くたびにため息をつくことは変わりませんが、それをとんでもないこととはいつのまにか思わなくなっていました。

ひとしきり“認知症あるある”を披露したあとで、介護には明るいことがない、と話がまとまりました。被介護者にも介護者にも絶望しかない、と。
それはいまの大変な生活に対してもそうですが、将来自分の親もこうなるかもしれないことや、自分もこうなるかもしれないことに対してでした。


みんなが話していた不安や絶望をまとめると、

介護は、お金が有ると無いとで随分と状況が変わるから、いま勉強を頑張って安定した仕事につかなくてはいけない。
一人っ子だから自分に収入がないとすごく困る。
一人っ子だからなんとしても結婚しないと親の面倒をみる時に大変。
結婚したときに相手も一人っ子だったとき、2人で4人の面倒をみなくてはならない。(4という数字がとてつもなく大きな数に思える、とみんなで笑った)
結婚して子供を産んだら、自分の子供が自分の面倒をみることを義務付けられてしまう。
かと言って結婚しなければ兄弟や従兄弟の子供に自分の面倒をみさせることになる。

というようなことでした。
ここに書いたことは、私も一度は考えたことがあるようなことばかりで、お友達もみんな同じようなことを不安に思っているそうでした。同じ歳の同じ境遇の人と話すと共感できることが多くて漠然とした不安感がすこし落ち着きました。


ここまでがだいたいの議事録です。
ここから先は私が今の介護生活で思うことです。


介護は本当に大変で、嫌な時間です。
100万回目の○○さんの悪口を聞く時間も、夜中に歩き回る足音を聞く時間も、家を掃除する時間も決して楽しくありません。




私は退屈な授業の間、時計を見ます。
あと何分難しい数学の問題に取り組まなくてはならないのか。
先生に見つからないようこっそり見ます。
集中力を切らしている自分を少し嫌に思います。



また、私は時計を見ることがあります。
数学の試験中、あと何分以内に出来るだけ多くの問題を解けるか。一問でも多く、一点でも多く。
自分の最善を尽くせるように、です。

前者も後者も、やっていることは一緒です。数学の問題を解いているときに時計を確認することです。
でも、時計を見たときの気持ちは全く違います。



介護の時計は存在しますが、神様が時計の前に目隠し布を垂らしています。


神様は、介護者や被介護者が時計を見ようと振り返ったことは知っています。でも肝心の時計は見せずにおいてくださいます。
ありがたいことです。



長いブログを書いていたら夜も遅くなりました。
夜中なのにおばあちゃんの部屋の電気がつきました。
もうまもなく廊下でおばあちゃんの独り言リサイタルがはじまります。
それではお聴き下さい。

『おじいさんどこだっけ?~三年前に亡くなったよ~』


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