八話 オッドアイの少女 | ゲームとアニメとNanashiに祝福を!

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 入院生活もあっという間に二ヶ月半が経ち、ユウは病院の敷地内をリハビリを兼ねて散歩していた。
 ギプスはもう外れていて、最初は歩くのもやっとだったのが最近では今までよりも遅いペースだが、歩くことが出来るようになっていた。
 平和だった。ユウは今までこんなに休んだことは無かった。
 今まではなのはに勝つ為に休みの日もトレーニングし、ずっと努力してきた。だが、今はもうそこまで鍛える必要は無い。それこそ前と同じように歩けるようリハビリをするぐらいだ。
 よほど無理をしていたんだなと自分を客観的に評価する。このままでは近い将来身体のどこかを壊していただろう。もう歩けなくなるぐらい、下手をしたら死ぬぐらいに。
 だから、今のこの状況はユウにとっては丁度よかった。それに退院した後には一年の休暇が待っている。
 休暇中は何をしようかなと考えていると、背後に気配を感じた。

「……ん?」
「……あ」

 振り向くとそこには、一人の女の子がいた。金色の髪をツーサイドアップに結び、右目が翡翠で左目が紅玉の珍しいオッドアイの女の子。
 その女の子は両手を前に突きだした状態で固まっていた。ユウの顔を見てフルフルと身体を震わせ、オッドアイの両目に涙が滲んでいた。
 ユウは自分が何か悪いことでもしたのかと思って戸惑っていると、その女の子は意を決したように頷き、ユウを睨んだ。

「……えいっ!」
「え、う、うぉ!?」

 そして、ユウの胸に思い切り飛び込んだ。咄嗟にユウは受け止めたが、まだ足の筋力が戻っていなかったせいで踏ん張ることが出来ず、尻餅を着いた。
 事態が飲み込めていないユウは、自分の腕の中に収まった女の子を見た。その女の子は頬を赤く染め、目を釣り上げて怒っているようだった。
 何か怒らせるようなことをしたのかと考えていると、その答えは女の子の言葉で知ることになる。

「ま、ママのかたきぃ~!!」

 人妻に手を出した覚えはないんだが、と混乱した頭で考えついたのはそんなだった。

☆☆☆☆☆

「……ほら」
「ふんっ! て、敵のほ、ほどこし? は、うけないもん!」

 あれから何とか女の子を落ち着かせたユウは、女の子をまるで荷物を持つかのように肩で担いでその場から離れた。
 さすがに人目の付くところで暴れられるとマズいと思っての逃走だった。
 そして自販機で自分の分の缶コーヒーを買うと、ついでに女の子の分のオレンジジュースを買い、あげようとしていた。
 だが、女の子はそっぽを向いて受け取ろうとしない。

「……そうか。ならこのジュースは捨てるとしよう」
「で、でもジュースさんが可哀想だからもらってあげる!」
「……ほら」
「わぁ~ありが……ふん!」

 ジュースを貰って一瞬だけ嬉しそうな顔をした女の子は、思い出したかのように顔を背けた。それでもジュースを手放そうとはしなかったが。

「それで、お嬢さんは何者なんだ?」
「人に名前を聞く時は、自分から言うんだよ!」
「……ユウ・サクライ。二十歳。趣味は読書と料理。最近のマイブームはトランプタワーを完成させた後、指で押して壊すこと。他には」
「ちょ、ちょっとちょっとすとっぷぅ! ヴィヴィオ、そこまで聞いてないよ!」
「そうか、ヴィヴィオって言うのか」
「はっ! し、しまった……むぅ~ズルいよ反則だよ!」

 どこかで見たことのあるような仕草でユウを止める女の子。どうやらヴィヴィオというらしいが、五歳か六歳ぐらいの女の子を持つ人妻に手を出したことは無いはずだと自分の過去を振り返る。

「……ヴィヴィオ、だったな。君は何で俺に突進してきたんだ?」
「ママの敵だから!」
「シンプルだな。それは本当に俺で合ってるのか?」
「うん、間違いないもん。ちょっと前にヴィヴィオのママと戦ってた!」
「……ん?」

 嫌な予感がする。最近戦った女性といえば、心当たりが一人だけだ。いや、でもそれは無いだろう。見たところ五歳ぐらいの娘がいるということは、十五歳ぐらいで産んだことになる。
 その時は空戦魔導師として活躍していた時期のはずだ。子供を産む時間などないはずだ。
 うん、無いな。それは無い……フリじゃないぞ? と思いつつママの名前を聞くことにした。

「……ちなみに、ママの名前は?」
「高町なのは!」

 あったようです。ユウは愕然とした。まさかあいつに、高町なのはに子供がいた。しかも五歳ぐらいの女の子。ユウの頭がオーバーヒートしそうになった。

「……あいつ、子供、いたんだな。あ、そうだヴィヴィオ、パパは誰なんだ?」
「ん~? パパはいないよ~?」

 頭がパンク寸前だ。父親がいない、つまりシングルマザー。ユウはなのはがそんな辛い境遇にいたのだと知らなくて、同情した。いや、同情するのは失礼だろう。なのはは今まで強い心でこの子を、ヴィヴィオを育ててきたのだ。おそらく仲間や友達、周りの人間に助けられながら育てたのだろう。

 不意に、心臓がちくりと痛んだ。針で刺されたような、軽いけど鋭い痛み。胸の奥底に痛みが走った。今まで感じたことのない痛みだった。

「あ、でもね! ママが二人いるよ!」

 パンクしました。まさかのダブルマザー。いや、最近では女性同士で結婚が出来るのであろう。子供は多分、鳥が運んでくるか野菜から出てくるんだろうな。
 ユウの頭は処理限界で緊急停止。がっくりとうなだれて考えるのをやめた。
 
 ヴィヴィオの敵討ちはこんな感じで達成されたのだった。