私は定期券が好きだ。
改札で入れた定期がピュッと出たのを取るのが好きだ。
前日で定期が切れて、この日は回数券で乗車した。
改札を出る時、「ああ、今日は出ないんだなあ」と思った。
ところが、何と、出てきたではないか。立派な定期券が!
え~! え~?
後ろの人が待ってるので、その定期を取りあえず手に取った。
なあに? どういうこと?
こんな不思議なことが、あるだろうか?
そんな不思議なことは、ないのだ。
誰かが取るのを忘れたのだと気づいて、すぐ駅の事務所へ向かおうと
した。…が、待てよ。
私の前の人なんだから、その辺にいるはずだ。
名前は?と見ると、「テラ○○・・・」と男性名。大勢の後ろ姿の中の一人に
違いない。
私は意を決して、大きい声を出した。「テラ○○さ~ん」
すると、10mぐらい先にいた中年の男性がクルッと振り返った。
私は、「ほらね」という感じで、定期を見せながら近づいていった。
その人は、「ああ、どうもありがとうございます。」と言って、・・・
という具合になると想像していた。
ところが、だ。
私は、ここで、「目は、口ほどにものを言う」というのを体験した。
その人は、カッと目を見開き、私を凝視した。
そして、その目から、はっきとりと次の言葉が、私に向かってきたのだ。
「何デ 俺ノ 名前ヲ 知ッテンダ!」
私は、「だって、定期に書いてありますから」と言いたかった。
が、もし言ったら、その人は余計に驚くだろう。
私は、何も言わずにハイッと定期を渡し、また歩き始めた。
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