版築
あるテナント工事の出来事。
設計事務所様からのご指名で内装壁のお見積もりをさせていただいたのですが、値段が合わず残念ながらお断りをさせていただいた工事がありました。
それから1,2ヶ月が経ったころ。
設計事務所様から「中屋敷さん、今回の仕事では縁が無くて残念だったのですが、オーナーが中屋敷さんに一度会いたいと言ってるんだけど、時間とってくれませんか」と。
「こちらこそお力になれず申し訳ありませんでした。お役に立てるのなら・・・」と。
そして現場の定例会議に呼ばれ、オーナー様にお会いさせていただくことに。
名刺交換をし、オーナー様にご挨拶をさせていただき、色々なお話をさせていただいていると、オーナー様がスマートフォンを出され、「ついこないだ出張で東京に行ってたのだが、この壁を見て、感激したんですよ!」と写真を見せてくださいました。
「あーこれ、挟土修平さんの壁ですね。この壁は私も本当に素晴らしい壁だと思います。」と私。
すると「え!知ってるんですか?! 流石だ!」とオーナー様。
その壁とはペニンシュラ東京のロビーの背面に仕上げられている版築の壁でした。
この壁は、色のグラデーションが繊細でやわらかくて素晴らしい壁です。
そして現在建築中の建物の模型を見せ、その中のある壁を指さし「この壁の前に壺などを飾ろうと思っていたんだけれど、あの壁があれば一切飾るものはいらないと思うんですよ」と。
「中屋敷さん、どうですか?あのような壁出来ませんか?」と。
「挟土さんのあの壁は本当に素晴らしい壁で、うちでは、うーーーん・・・挟土さんほどの壁は出来ないと思います。うちも版築壁をやりますが、あそこまでの壁をやろうとすると、○○○万円程度はかかると思います」と。
それでもオーナー様の思いが強かったので「ではまず、サンプルを作ってみます。そしてそれをご覧いただきオーナー様がお金を払う価値があるかどうかお決めください!」と。
また強烈なチャレンジが突然舞い込んできました。
サンプル作成がスタート
今回の担当者は、入社8年目の藤木君。
現在、版築には大きくわけると2種類の工法があります。
一つ目は本版築。
壁に型枠を取り付け、その中に材料を入れて突き固めて層を作り、またその上に材料を入れて突き固めてを繰り返していくという工法。
言葉だけではわかりづらいという方は、下の過去ブログをご参照ください。
そしてもう一つは塗り版築。
塗り版築とは字の如く、塗りで版築風に見せる壁です。
コストも本版築に比べお安く、厚みも薄く仕上げることができます。
土と顔料を配合して、色のサンプルを何十種類と作成し、
施工方法も塗り版築でやってみたり、
本版築でやってみたりと試行錯誤。
今回は壁の大きさ幅4メートル、高さ2メートルという大きさの難工事。
そして何よりお客様が望んでいる、あの壁のような美しさを作ることが出来るのか
色の配合、材料の配合の組み合わせは無限・・・・サンプル作成の日々は続きました。
そしてようやく、第一弾のサンプルが出来上がりました。
やはり塗り版築工法では、あの美しさを出すことができず、今回は本版築工法でいくことにしました。
この壁はすべて藤木君の考えたデザインです。
挟土さんの壁とはかなり違いますが、色のバリエーションも面白く、色の組み合わせも悪くなかったので、このままオーナー様、設計事務所様に見ていただくことにしました。
そして、オーナー様、設計様に左官技能研修センターにお越しいただき、サンプルをご覧いただきました。
「初めは色多いかな〜と思ったけど、見てると悪くないね」と設計事務所の先生。
オーナー様も「私もこれもありだと思います」と。
そして2、3ご意見をいただき「中屋敷さん、是非お願いします」と正式にお仕事の発注をいただきました。
この時の私は「やった」と喜ぶ気持ちより、
「お客様に満足いただける版築壁ができるのだろうか?」という不安な気持ちの方が大きかったのです。
つづく・・・