本稿は、令和7年(2025年)の大晦日にあたり、
日本の政治家としての私の考えの一端を、
記録として記しておきたい
との思いから書くものです。

 

中国が現在進めてきた、台湾を取り囲む大規模な軍事演習は、
単なる地域的な軍事行動としてではなく、
より広い戦略的文脈の中で捉える必要があります。

 

アメリカ合衆国は、国家安全保障戦略、いわゆる National Security Strategy(NSS)などを通じて、
西半球を重視するという戦略的優先順位を明確にし、
世界全体に対して無制限に関与するのではなく、
より選択的な形で国際関与を行う姿勢を強調してきました。

 

これは、アメリカの主権に基づく国家戦略として、正当な判断です。

 

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しかし同時に、同盟国の立場から見れば、
この戦略的な強調が国際社会にどのように受け止められているのか、
その意図せざる影響については、冷静に見ておく必要があります。

 

重要なのは、
米軍の世界的な展開の見直しが、
今回突然始まったものではないという点です。

 

少なくとも、ジョージ・W・ブッシュ政権の時代には、
すでに海外に広く展開する米軍の在り方を見直し、
部隊を本国へ帰還させていくという方向性が、
政策的に語られるようになっていました。

 

それが、

トランスフォーメーション、再編、戦略的優先順位付けなど、さまざまな言葉で表現されてきたとしても、
共和党政権から民主党政権へ、また民主党政権から共和党政権へと
政権が交代してきた中にあっても、
米国が世界の安全保障にどのように関与するのかを再定義しようとする流れが、
一貫して、長期的に続いてきたという点は否定できません。

 

多くの国々や安全保障の専門家、そして同盟国にとって、
それは結果として、アメリカが世界の治安維持を一手に担う存在から、
徐々に距離を取っていく兆しとして映ってきた、
という側面があったのも事実です。

 

このように受け止められてきた印象の積み重ねこそが、
いま、専制主義、権威主義、修正主義的な国家群によって
試されようとしているのだと、私は見ています。

 

その意味で、台湾は今、
力による現状変更がどこまで許されるのかを測るための、
国際社会における一つのリトマス試験紙となっています。

 

台湾は、一貫して対立を望んできたわけではありません。
台湾社会は好戦的ではなく、
平和と現状の安定を何よりも重視してきました。

 

にもかかわらず、
威圧や軍事的圧力によって、
どこまで現状変更が許されるのかを試す行為が、
現実に行われているのです。

 

加えて、こうした動きは、
目に見える軍事領域にとどまりません。


目に見えない領域、すなわちサイバー空間においても、
中国は力による現状変更を試みています。

 

日本のネットワークやシステムが踏み台として悪用され、
第三国、たとえばフィリピンに対する
サイバー攻撃の経路として利用されていると見られる事案も
確認されています。

 

フィリピンの立場からすれば、
それは日本から攻撃を受けているように映る状況と
変わりません。

 

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このことは、
サイバー空間における脅威が、
もはや一国だけの問題ではなく、
同盟国や友好国との信頼関係そのものに
影響を及ぼし得る段階に入っていることを示しています。

 

だからこそ、
サイバー領域において、
日本国民がいわゆる平和ボケであってはなりません。

 

国および地方の行政機関が先頭に立ち、
サイバーセキュリティに関する統一的な標準モデルを
早急に示し、社会全体に浸透させていくことが
強く求められています。

 

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ここで、ワンチャイナ・ポリシーについて、
あらためて整理しておきたいと思います。

 

中国が主張する「一つの中国」とは、
台湾は中国の不可分の一部であり、
中華人民共和国が中国全体を代表する唯一の合法政府である、
という中国独自の国家主張です。

 

しかし、民主主義諸国が採用している
いわゆるワンチャイナ・ポリシーとは、
この中国の主張を同じ意味で承認したものではありません。

日本を含む民主主義国は、
中国には「一つの中国」という立場があることを認識し、
外交上、それを理解し、尊重するという表現を用いてきました。


しかしそれは、
台湾の帰属を法的に確定することでも、
中国の主張に同意することでもありません。

 

実際、中国が考えている意味での
「一つの中国」を、同じ法的・政治的意味で受け入れている
民主主義国家の指導者は、事実上存在しません。

 

民主主義諸国が共有してきた原則は、
台湾の将来は武力によって決められてはならず、
現状変更は平和的に行われなければならない、
という点にあります。

 

言い換えれば、
ワンチャイナ・ポリシーとは、
中国の主張を確定させる枠組みではなく、
むしろそれを法的に固定化しないための
外交的な立場整理であったと言えるでしょう。

 

同時に、台湾をめぐっては、
いわゆる戦略的曖昧性という考え方が、
長く用いられてきました。

 

戦略的曖昧性とは、
台湾有事の際にどのような行動を取るのかをあえて明示しないことで、
抑止とエスカレーション回避の均衡を保とうとする考え方です。

 

しかし、香港の現実は、
国際条約として明示された約束であっても、
それを実際に守らせる実効性が伴わなければ、
力の前に失われ得るという厳しい教訓を
私たちに突きつけました。

 

中英共同声明という国際条約が存在し、
一国二制度と高度な自治が明確に約束されていたにもかかわらず、
その約束は実質的に守られなかったと
国際社会は受け止めています。

 

この事実は、
条約や合意であっても、
それを守らせる現実的な力と覚悟がなければ、
覆され得るという現実を示した出来事でした。

 

だからこそ、私は今、
台湾をめぐる状況を前にして、
同じ問いを避けて通ることはできないと感じています。

 

今回こそ、本当に大丈夫なのか?


「台湾を守る」、「台湾の自由と民主主義を守る」という言葉が、
現実の行動と、信頼に足る抑止力によって裏打ちされるのか?

香港で起きたことと同じ轍を、私たちは再び踏むことにならないのか?

 

曖昧さは、時に安定をもたらします。
しかし同時に、
介入しないという誤ったメッセージとして
受け取られる危険も含んでいます。

 

もし、その誤解の積み重ねの先に、
力による現状変更があるのだとすれば、
それは国際秩序そのものへの挑戦です。

 

自由と民主主義を守るためには、コストと覚悟が必要です。


しかし何より重要なのは、生命と平和の重みを誰よりも理解しているはずの国々が、
どのような判断を下すのかという点です。

 

ここで、同盟国アメリカ合衆国に対して、
一人の日本の政治家としての感謝と期待を、
あらためて明記しておきたい
と思います。

 

日米同盟は、日本の安全だけでなく、
アジア太平洋地域、ひいては国際秩序の安定を
長年にわたり支えてきました。


この間、アメリカ合衆国が果たしてきた役割に対し、
私は同盟国の一員として、
心からの敬意と感謝を表したいと思います。

 

その上で私は、アメリカ合衆国が、
これからも力による現状変更を許さないという原則を、
言葉だけでなく行動によって示し続けてくれることを、
強く期待しています。

 

台湾海峡の平和と安定は、アジアだけの問題ではありません。


それは、国際秩序が今後も機能し続けるのかどうかを左右する、
世界全体の試金石です。

 

日本は、同盟国アメリカとともに、
対話と抑止の両立を図りながら、
自由で開かれた国際秩序を守る責任を果たしていく覚悟です。

 

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中国が威圧と力によって現状変更を試みている今、
私は日本の政治家として、現実を直視する必要があると考えています。

 

本年も多くの方にお読みいただき、
心より感謝申し上げます。

ありがとうございました。

来年も、どうぞよろしくお願い申し上げます。


皆様、良い御越年をお迎えください。

ありがとうございました。

 

 

政治家

中山泰秀