ハラリと落ちた写真には、去年の秋の俺が写ってる。
それと一緒に俺の頭に浮かぶのはその写真を撮ったアイツのこと。
今じゃすっかり仲良くなって、しょっちゅう俺たちの家にも泊まっていくユーゴ。
彼女のエマとは本当にラブラブで、うちのゲストルームはほぼ2人の専用になってる状態な今日この頃。
本棚から取り出した辞書から床に落ちた写真を拾いながらあの日のことを何となく思い出してた。
カサカサパリパリ
1歩ごとに足元から鳴る音は日本にいる時と変わらないのに、俺の目に映る景色も冷たくなり始めた空気も匂いも、俺の知ってるそれとは違って小さくため息をついた。
半年前、春の足音が聞こえ始めたパリに降り立った俺たちは、潤くんのお父さんの紹介してくれたコーディネーターさんに出迎えられて、さとしの絵を気に入ってくれたという人のところに案内された。
その人は世界中を旅してまわる悠々自適なおじいさんで、とても優しい笑顔と暖かくて分厚い手の人だった。
ピエールと名乗ったおじいさんは、先立たれた奥さんの話や外国で暮らす息子や娘の話をしてくれて、それから日本で見たさとしの絵がいかにおじいさんの心を震わせたのかをフランス語で話してくれた。
コーディネーターのアンリが丁寧に通訳をしてくれるから、思いのほか話が盛り上がって俺たちに貸してくれるというセカンドハウスに連れていってもらったのはすっかり日も暮れる頃だった。
セカンドハウスとはいえ、かなりのお金持ちらしいピエールの持ち物だ。
低層のアパートの2部屋しかない最上階の一部屋。
セントラルヒーティングで家の中はぽかぽかで、大きなベランダにはバーベキューのセットと気持ちよさそうなソファーとガラスのローテーブルが置かれていた。
ハウスクリーニングは昨日してもらったからとピエールが言うように清潔感のある部屋は、日本よりもかなり広くて4LDKの部屋を見て回って驚いた。
ゲストルームにも独立したシャワールームがあって、俺たちのベッドルームにはジャグジー付きのバスとシャワールームがついていた。
どの部屋もすぐに生活出来るように整えられていて、冷蔵庫の中も色んな食材が入っていた。
ピエールが今日アンリに頼んで用意してくれていたと聞いて、その日何度目か分からないありがとうとハグで感謝を伝えた。
「じゃあまた明日」と、2人が帰ると俺とさとしはぐったりしてしまって、お互いの疲れた顔を見合わせて笑ってしまった。
その日はゆっくり風呂に入って、ふわふわのキングサイズのベッドに寝転がる。
いつもと同じように俺を抱き寄せるさとしの腕の中、その甘い香りに心が寛ぐのを感じていたら、いつの間にか眠くなって。
いつだってさとしは俺の安定剤なんだ。
「.....和、好きだよ...」
俺を抱き寄せてあっという間に眠っていたさとしの口から小さな声でもれる寝言。
「俺も好きだよ」
聞こえるはずのないさとしの寝顔に返事をして目を閉じた。