11月の風を避けるように
お店のドアをガラガラと開けた

見慣れた笑顔で
「やぁ!あゆみちゃん今日はどうしたの?」
とねじり鉢巻きが似合いそうな店主の宮ちゃんが
いらっしゃいの代わりに威勢のいい声で発した

「ラジオの帰りだよ」と私は答えた

「今日はマネジャーのバンビも一緒なんだぁ」と言いながら
私たちは一番奥の4人掛けのデーブル席に座った

「バンビさんお久しぶり!お元気でした?」
と声をかけてきたのは宮ちゃんの奥さんの直ちゃん
気立ての良い笑顔の可愛い女将だった


二人でこの店をオープンしてから今年で5周年を迎える


お店の壁には5周年のポスターが貼られていて
そのポスターの中で宮ちゃんのシルエットが
まるで東宝映画の脇役のように写っていた


「5周年か…甘いな!私は30周年だ!」と冗談を言っていたら
誰もいなかったお店の中は少しだけ賑やかになった


お腹が減りすぎて気持ち悪くなりかけていた私たちは
片っぱしから注文した


たわいもない話をしながら
お腹がいい感じに満たされてきたころ


店のドアがまたガラガラと開いた


ここのお店には時々来るので
大体の常連さんは何となく知っているが
入ってきたお二人はどちらも知らない方だった


直ちゃんが「覚さんお久しぶり!さぁこっちに座って!」と
カウンター席に手招きした


店は少しずつ人の体温で温かくなってきた


その覚さんもお連れの方も上着を脱いで飲み物を頼み
宮ちゃんとの話も弾みどんどん店が活気づいていった




私たちも殆どの食べ物を平らげ
この先のスケジュールや次のステージの曲順など
山積みになっていた事をどんどん片付けていった




そろそろ帰ろうかなぁと思っていた私に直ちゃんが
「あゆみさん、こちらの覚さんは私が中学生のころから
お世話になっている人なの」
と話しかけてきた

覚さんは
「あ、どうも初めまして」
とわざわざ座っていた席から降りて私に挨拶してくれた

こちらも思わす立ち上がり
「初めまして中村あゆみです。彼女は私のマネージャーです。」
と挨拶をした

「そうそう、覚さんはピアの役員なのよ」
直ちゃんが言った

「えーーーー!業界の人なんだ!」
と心の中で呟いたと同時に
「とても偉いポジションにいる人なのに腰が低くて凄いなぁ」
とまたもや心の中で呟いていた

それにとっても優しい笑顔で受け答えしてくれる

この人好きだな、と直感で思った

そうなれば話はどんどん盛り上がり
直ちゃんと覚さんが知り合った時から現在に至るまでの話を聞き
気がついたらみんなで大笑いしていた






つづく