国民の被ばくリスクにかかる原子力安全委員会と各省政務3役の決定プロセスが公開されるべきである(中 | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

国民の被ばくリスクにかかる原子力安全委員会と各省政務3役の決定プロセスが公開されるべきである(中


中曽根元首相の著書「自省録」に「政治家は歴史法廷の被告」であるとの言葉がある。この言葉をそのまま、菅前首相、野田首相に問いたい。歴史法廷の被告席に座る覚悟があるのか、である。

歴史法廷の被告人になることを回避すべく証拠隠滅を図ったのではないかとの疑惑が浮上したからである。史上未曽有の東日本大震災・福島第1原発事故は、天災であるとともに人災と言われている。国としての危機管理システムが機能不全であったからだ。その責任は、ひとえに菅前首相、菅前政権、民主党にある。

問題は、その「人災」の証拠が消されていたことである。政府の東日本大震災関連15会議のうち10の会議で議事録を作成していなかったことが27日、明らかになったからである。特に問題なのは、原子力災害対策本部の議事録がないことである。「人災」の最たるものとしての「放射性物質の拡散」「住民避難遅れ」が人的被害に繋がる判断をしたプロセスの証拠が隠滅されているのである。

では、誰が証拠隠滅を指示したのかである。昨年5月の時点で、議事録がないことが分かり、当時の枝野官房長官は「プロセスも含めて全面公開したい」と約束したが、保安院は「明確な指示は下りていなかった」としている。枝野前官房長官・経済産業相の責任問題となる。

菅政権は、民間業者には自主的協力を呼び掛け、被災地住民には自主避難を呼びかけた。ここにあるのは、いざというときの責任を回避することを最優先にして行政を行なっていることである。議事録をつくらなかったのも、将来、子供たちの後遺症が明らかになるなどして、訴訟が起きたときに備え、証拠を隠滅して責任者を不明にしておくための自己保身が動機と考えられる。

この問題の解明は、政府にはできないだろう。必ず隠蔽の圧力がかかるはずである。問題解明には、国会による追及である。

今問題とされている各本部は、決定の最終段階にすぎない。各省にはメモも残っているだろうし、たぶん、録音が残っているはずである。政権が証拠隠滅を図っていない限り、議事録はできるはずである。

各本部も重要であるが、本当に重要なポイントは、助言機関として絶大な権力を持つ原子力安全委員会の意思決定プロセスを明らかにすることと、各省の政務三役の意思決定プロセスを明らかにすることである。

私は、菅首相の執務室の御前会議、原子力安全委員会、各省政務三役が問題の核心ではないかと考えている。このうち、残念ながら御前会議は議事録がないというだろう。しかし、後者2つは議事録がないではすまないはずである。

国民の被ばくにかかわる具体的事例について検討する必要がある。例えば、以下の点である。

学校等の校舎・校庭等の利用判断における放射線量の暫定的目安を20ミリシーベルトとする2011年4月19日の文部科学省の意思決定の際、原子力安全委員会は4人の委員が参加する会合を開き20ミリシーベルトを了解すると回答したが、この会合の議事録が重要である。また、文部科学省の政務三役が最終的に20ミリシーベルトを安全基準とし、子供たちの集団疎開をしない決定をした意思決定プロセスの議事録が公開されるべきである。福島の子供たちは、その議事録を見る権利がある。

2011年5月にはじまる避難区域への一時帰宅の際に、住民には内部被ばくのリスクを防御できない花粉症用マスクでいいと判断し、リスクを抑えるマスクを避ける判断をした決定の責任者がいるはずである。当時、政府高官や党幹部は完全防御あるいは防御性の高いマスクをしていたことからみても、問題のある決定である。私は、一時帰宅者のマスクがニュースで放映されることで、いかに事態が深刻かと国民が感じ取ることを恐れ、すなわちパニックという政権リスクを恐れ、一時帰宅者を健康リスクにさらした可能性があるのではないかと考えている。そうでないというならば、一時帰宅者のマスクの決定の経緯、責任者、決定理由が明らかになるよう議事録が公開されるべきである。

その他、文科省の政務三役と原子力安全委員会が国民の被ばくにかかる意思決定に関与している場合には、全ての議事録を作成し公開されるべきである。

世界史に残る大事件で、政府をあげて証拠隠滅をしていることは、日本の恥である。その責任者が国際会議で脱原発をうったえる資格はない。一刻も早く、歴史法廷の被告席に座るべきである。そのことの重要性は、長年、戦争責任についての歴史認識と行政の情報公開の重要性をうったえてきた政治家ならば分かるはずだ。
(1月28日記)