IMFのチーフエコノミストの言葉=政府は・・あまりに性急に財政再建を進めてしまう恐れがある | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

IMFのチーフエコノミストの言葉=政府は・・あまりに性急に財政再建を進めてしまう恐れがある

秘書です。

政府は、市場対忚への姿勢にもよるが、債務の持続可能性の狭義の観点からみてもあまりに性急に財政再建を進めてしまう恐れがある。

ここで明確にすべきことは、しかし財政再建とは、アンゲラ・メルケル独首相が言うように、「スプリント種目」ではなく「マラソン競技」であるべきだ。債務を適切な水準に戻すまでには優に20年以上かかるだろう。「急がば回れ」という格言はこれにぴったり当てはまる


これはIMFのチーフエコノミストの言葉です。


2011年を振り返って:4つの歴然たる事実
オリビエ・ブランシャール著
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http://blog-imfdirect.imf.org/
http://www.imf.org/external/japanese/np/blog/2011/122111j.pdf
この1年間の変容ぶりは著しい。
2011年は回復基調で始まった。それが脆弱で不均衡なものとはいえ、希望はあった。米国での過剰な住宅ローン、ユーロ圏周縁国での政策調整、新興国への変動的な資本流入、金融部門の規制改善といった一連の課題も、いちだんと対忚可能にみえた。 取り組むべき課題は多かったが、達成可能にみえた。 ところが、今年も終盤に近づくと、多くの先進国では回復が頓挫し、一部の投資家の間では、ユーロ圏解体が実現した場合の影響や、2008年の経済状況よりも悪化する可能性について探索する者さえいる。
この1年間の出来事から主に4つの教訓を引き出すことができる。

• 第1に、2008~09年の危機の後の世界は、複数均衡、すなわち、悲観的見方が悪い結果を呼び、楽観的見方が良い結果を呼ぶ自己実現的な現象に満ち、マクロ経済に重大な影響を与えている。 複数均衡の理論は昔からある。銀行の取付が自己実現的であるのは長く知られており、預金保険制度が設立された根拠にもなっている。固定為替レート制度に対する批判がやはり自己実現的であるのも経済学の教本に示される通りだ。さらに、市場からの資金調達が同様の結果を招きかねず、取付が銀行と銀行以外の企業に等しく影響しうることも危機の発生当初に学んだ。中央銀行が大手金融機関への流動性供給に乗り出したのも、まさにこれに対忚するためだ。 今年、さらに明確となったのは、流動性問題とそれに伴う取付が政府にも影響することである。銀行と同様に、政府の負債は、主に税収からなる資産に比べ遥かに流動的だ。政府の財政が堅牢であると投資家が確信すれば、当該政府はリスクフリーの金利で借入が行えるが、投資家が懐疑的になり始め、高金利を求めれば、政府が返済不能に陥る可能性が高まる。また、債務の水準が高くなるほど、健全な財政から返済不能に転落するまでの期間と、返済不能に導くほどの高金利につり上がるまでの時間が短縮される。現在、イタリアがその典型例だ。公的債務が多額に上り、浮き足立った投資家で特徴付けられる危機後の環境では、多数の政府が危険にさらされている点を忘れてはならない。適度な金利に抑えるために十分な流動性を供給しない限り、危険は常につきまとう

• 第2に、不徹底で部分的な政策対忚は事態をいっそう悪化させかねない。ハイレベル会合で解決策が公約されたものの、その半分も履行されない状況では、市場心理も往々にして悪化する。また、大々的に公表された計画が実は不十分であったり実行不能であったりするときも同様だ。その理由は、こうした会合や計画が、主に各国間の意見の折り合いがつかないために、結局、政策の限界を露呈するだけに終わってしまうからだ。そのような状況では、投資家は、実施者の能力に確信が持てず、達成に確率を課すことになる。脚光を浴びた試みも、尐なくとも当初の時点では、完全な達成が無理なことがはっきりしてしまうのだ。明らかに、「何もしないよりも、試した上で失敗する方がましだ」という格言は必ずしも当てはまらない。

• 第3に、金融投資家は、財政再建と成長に関しては矛盾した行動をとる。 投資家は財政再建のニュースを歓迎しながらも、その後、再建作業が低成長につながると――これは多くあることだが――否定的な反忚を示す。IMFが行っている予備的な推計によると、財政再建と低成長となる可能性は、さして大きな乗数効果を期待しなくても、最終的にソブリン債のリスクスプレッドの拡大(縮小ではなく)を招くことを示唆している。そのため、政府は、市場対忚への姿勢にもよるが、債務の持続可能性の狭義の観点からみてもあまりに性急に財政再建を進めてしまう恐れがある。 ここで明確にすべきことは、大規模な財政再建と債務削減は不可欠であることだ。しかし財政再建とは、アンゲラ・メルケル独首相が言うように、「スプリント種目」ではなく「マラソン競技」であるべきだ。債務を適切な水準に戻すまでには優に20年以上かかるだろう。「急がば回れ」という格言はこれにぴったり当てはまる

• 第4に、心理は現実を醸成する。 概念の枠組みは、良かれ悪しかれ、事象とともに変化する。それが一度変わると、もう元に戻ることはない。例えば、イタリアでは夏季を通じてほとんど何も起こらなかった。だが、同国が危ないという心理がひとたび働くと、それは根強く残った。市場心理は重要な意味を持つ。投資家が市場から一度資金を引き上げると、そう簡単には戻ってはこない。もう一つの例を挙げよう。ユーロ圏の経済情勢は、今年第2四半期にはほとんど変化がなかった。しかし、市場と分析家がユーロ圏解体について言及し始めると、それは執拗に続いた。金融投資家の多くは、万一、解体が実現した場合に備えた戦略作りに忙しい。

以上の4つの要因を総合すると、年末の情勢が年頭より大きく悪化した理由を説明できる。 希望はまったくないのだろうか。いやそうではない。しかし回復を元通りの軌道に乗せるのは1年前よりも難しくなろう。そのためには、信頼のおける実際的な財政再建計画が必要となろう。複数均衡を避けるために流動性を供給する必要が出よう。単に公表するだけでなく、実施を伴う計画が必要となろう。そして、関係者間でこれまでより遥かに効果の上がる協調を行う必要があろう。 私は、これらが達成されるよう願って止まない。その代案はあまりに不快なものだからだ。

欧州救済に動き出す「MIT学派」-バーナンキ、ドラギ、キング氏
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-LXQ1GC1A1I4I01.html

  1月13日(ブルームバーグ):欧州の金融危機が域内の金融機関を飲み込んでしまうかに見えた昨年11月、イングランド銀行(英中央銀行)のキング総裁は、世界の主要中央銀行当局者による対応策協議のための電話会議をお膳立てした。

  日米欧カナダの主要6中央銀行は電話会議で、市中銀行への緊急ドル資金供給の金利を引き下げることで合意。欧州の銀行の資金逼迫(ひっぱく)が緩和されたことで、株価は世界的に上昇に転じた。

  キング総裁は電話会議の座長を務めた翌日、記者団に対し、11月30日の協調策は「われわれ相互の信頼」によって迅速な取りまとめと発表が可能になったと強調した。

  その信頼の共通のソースともいうべきものが、6人の中銀総裁の一部には存在する。6人の総裁のうち3人は、マサチューセッツ工科大学(MIT)で1970年代後半と80年代初めに研究生活を送ったか、教壇に立った経験があるエコノミストだ。

  米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長(58)と欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁(64)は70年代後半にMITで博士号を取得した。「経済理論と応用に関する小論」がドラギ氏の論文のタイトルだった。キング総裁(63)は1983年当時、MITの教授となっていたバーナンキ氏と隣接するオフィスで研究者としてのキャリアを積んだ


           大恐慌研究の大家

  現在はイスラエル銀行(中央銀行)の総裁を務めるスタンリー・フィッシャー氏(68)はMITの元教授であり、バーナンキ氏の論文に助言し、ドラギ氏に教えた経験がある。ECB前副総裁のパパデモス・ギリシャ首相と国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミスト、オリビエ・ブランシャール氏もほぼ同じ時期にMITで博士号を取得している。

  チリ中央銀行総裁を先月退任したホセ・デグレゴリオ氏は、バーナンキ氏がMITの客員教授を務めていた当時、大恐慌に関する講義を受講したことがある。複雑な理論を導き出すことを目指すのではなく、「現実の事象と世界が実際にどう動くか」を理解しようとすることに力を入れていたとデグレゴリオ氏は大学の様子を振り返っている。


ニューヨーク駐在編集委員・松浦肇
2011.12.25 03:03 産経新聞
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/111225/fnc11122503030000-n3.htm
 ■深遠なる「大西洋断層」

 クリスティーヌ・ラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事が懐刀として重用している経済カウンセラー、オリビエ・ブランシャール氏が先週ニューヨークを訪問し、地元シンクタンクの外交問題評議会(CFR)主催の討論会に出席した。議題は時流に乗って、「危機から学ぶ経済学」。

 ウォール街では目下、IMFが欧州金融安定化に資金を拠出するとの希望的観測が流れたりで、欧州情報に一喜一憂している。演壇の前には、90年代のポンド危機やアジア通貨危機で大もうけした伝説の投資家、ジョージ・ソロス氏がどっかり腰を下ろしていた。

 米国銀が抱える、イタリアなど財政難にあるPIIGS(豚の意)諸国への投融資残高は、金融派生商品(デリバティブ)を含めると5866億ドルもある。米国にとって、欧州危機はいつ飛び火するか分からない、「差し迫った危険」なのだ。

 ◆欧州危機にいらだつ米国

 討論の火蓋が切られると、ブランシャール氏と対談相手だった米国人エコノミスト2人が対立軸になった。先攻は米国陣で、ラガルド専務理事とブランシャール氏のフレンチ・コネクションを意識したのか、欧州連合(EU)批判を展開し始めた。

 「欧州は米政府が金融危機で学んだことを実践しなかった。(量的緩和など)創造的な政策を実験的に矢継ぎ早に打ち出すべき」(米ムーティーズ・アナリティックスのマーク・ザンディ氏)

 「(欧州銀は)リスクが減ったと思って、(融資を拡大する)レバレッジを高めた。金融市場が混乱すると財政政策の乗数効果が機能しない」(リチャード・クラーディア元米財務次官補)

 だが、対するブランシャール氏はストレートな批判を老獪(ろうかい)に打ち返した。

 「銀行は資本を増強できないから(負債を減らすために資産を売る)デレバレッジを始める。ユーロ圏外で資産を売るから、来年の世界経済見通しは悪い」

 リストラの圧力をかけ過ぎたら共倒れになるよ--と言わんばかりに、世界同時デフレの引き金を引くリスクをチラつかせたのだ。

「アトランティック・デバイド」。学者や実務家は欧米間の意見対立をこう表現する。直訳は「大西洋断層」。欧州からの移民が建国の礎を築いた米国だが、大西洋(アトランティック)を挟んだ欧州、特にフランスなどの大陸諸国との政策ギャップが大きい-という意味だ。

 「デバイド」の具体例は、戦前ならばナチスドイツの台頭を許した宥和(ゆうわ)主義。最近なら01年の同時多発テロ後における北大西洋条約機構(NATO)を活用したテロ対策。ピューリタン的な原理主義者の米国は、物事に白黒つけない「会議が踊る」風の欧州流には、いらだってしまう。

 ◆EUは“粉飾”連合?

 欧州危機をめぐる対応も「デバイド」の代表例だ。米政府は昨年当時、仏経済・財政大臣だったラガルドIMF専務理事などに欧州銀への公的資金投入を求めていたが、欧州側は一蹴した。

 「(銀行の損失シナリオを検査する)ストレステスト適用や透明性確保に抵抗した結果がこの危機だ」(ザンディ氏)。米国人の眼からは、バブル崩壊後の日本の経済行政のように、欧州は先送り主義に映るのだろう。

 米司法省が、欧州で取引されているロンドン銀行間取引金利(LIBOR)を調査しているのもいらだちの証拠だ。LIBORは銀行同士が金を貸し借りする短期金利で、銀行の信用力を反映する。欧州危機以来、LIBORは上昇基調にあったのだが、「信用不安を取り繕うためにLIBORを低めに談合したのでは」という疑念を米国側が持った。

欧州銀行監督機構(EBA)は今月初め、「欧州銀は1147億ユーロの資本増強が必要」と発表したが、これは7月に実施したストレステスト発表時の46倍の数字だ。ギリシャがデリバティブを用いて政府債務を隠していたことも明らかになり、EUは「粉飾」連合と揶揄(やゆ)されている。

 実際、ギリシャ政府が事実上破綻しても、債務不履行リスクを売買するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の決済を認めなかった。ギリシャ国債価格が50%減価したのに、だ。

 ◆GIPSIに改名

 今やPIIGS諸国の国債が不良債権化した欧州銀だが、もともとは米銀のように市場実務を得意としたビジネス・モデルで知られている。だが、都合が悪くなると市場原理も否定するしたたかさ。

 ウォール街は最近、PIIGSをGIPSI(ジプシー)と改名した。「さまよう」という意味を込めたそうだ。「デバイド」は益益大きくなる。(まつうら はじめ)