法律の世界では、損害額について、○○を損害額とみなすという「擬制」という手法が要所要所で使用されます。この擬制が多い法律問題で、皆さんが身近な問題は交通事故紛争における損害額の算定です。

 納得しやすいのは、車両の修理額やケガをした場合の治療費です。これらは金額的に比較的はっきりとしていますから分かりやすいです。ここから話は分かりにくくなります。

 交通事故でケガをさせられて、通院を3ヶ月間したとするとその通院慰謝料は、MRI等の検査結果に異常が写っていて73万、何も写っていなければ53万円程度とみなされます。これは、日弁連交通事故相談センター東京支部が「赤い本」にまとめ、それを全国の裁判所や保険会社等が参照しているからです。しかしその金額の根拠は書いていないので不明です。このようにほぼすべての損害につき赤本がこの程度の金額とみなすという目安を示していて、例えば後遺障害が認められた場合の後遺症慰謝料についても、後遺障害による逸失利益についても、目安がありますが、その根拠は不明です。計算式はあっても、なぜその計算式になるのかが不明です。

 物損についても、例えば車両の格落ち(評価損)について、同様の擬制が行われます。例えば修理費用の何割とかそんな数式で計算しますが、なぜ修理費用の何割かが評価損となるのかその根拠は不明です。

 当事者の過失割合については、別冊判例タイムズに、東京地裁民事交通訴訟研究会が、多数の事故態様図と過失割合をまとめていますから、このいずれかの図に無理にでも当てはめて、当事者の過失割合が決定されます。

 このように、交通事故紛争における当事者の損害額は、次々とみなし計算によって確定していき、各当事者の損害額が実損害額と違っても関係なく確定することになります。

 このような擬制ばかりの世界で、出来るだけよい金額で認めてもらおうとして、弁護士はしのぎをけずるわけです。